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2-10. 救出劇(2)

3番目の眷属であるカラスは1番目の眷属である濃墨と歩いていた。

東の女王蟲の巣と思われる建造物の中はどこも薄暗く、手入れが行き届き清潔で整然としているがどこか漠然と寂しい印象を受けた。


「それで、みょんみょん様のお部屋はあとどれくらいなんだ、濃墨。」

「なんで俺が案内してるみたいになってるんだ?えっと、もう少しだろ・・・ちょっと広くて迷いそうになるよな、たぶんあっちだ。」


濃墨はなぜ自分が迷いかけているのか、それに納得できない様子でカラスを案内する。


カラスは先ほど、「みょんみょん様に直接謝りに行きたい」という旨の方便で濃墨を説得し、牢屋がわりの部屋から出してもらったところだった。


主が閉じ込めておけと言いおいた人物に説得されて解放してやるなぞ、カラスには理解できない。眷属の面汚しだと思っている。

しかし、この善性こそ主がこの眷属を1番愛している理由だと、カラスは理解していた。


「もっと具体的に教えろ、まだ階段は登るのか?」

「だからなんでお前がわかってねぇんだよ!?えっと・・・あと2階上・・・だよな?」


カラスは機を見て、濃墨を殺すつもりだった。敵の手に落ちた眷属など殺してやった方が本人も喜ぶだろう。

しかし、武器はいまだ手に入らず、素手で同格相手を倒す方法がカラスには思いつかない。


カラスが思案していると、濃墨が腰に下げているレイザーエッジが視界に入った。

主から下賜されたとのことで、濃墨がいつも肌身離さず自慢げに持ち歩いているものだ。

技能を持っておらず短剣をロクに扱えない濃墨は、よくカラスに手入れ方法などを聞いたものだった。

それがどれだけカラスを苛つかせるかも気づいていないようだった。


「おい、お前のそのレイザーエッジ、欠けてないか?」

「まじで!?!?」


カラスの言葉に濃墨は慌ててレイザーエッジを手に取る。

そして目を細めて嘗め回すようにレイザーエッジを確認する。


「欠け・・・?どこだ・・・?」

「節穴め、ちょっと貸せ。」


その言葉に何の疑いも抱かず、濃墨はレイザーエッジをカラスに渡す。


カラスは己の手にあるそのレイザーエッジを冷めた目で見つめた。


「お前を殺したりなんかしたら、みょんみょん様は俺のことを許さないだろうな。」


カラスはレイザーエッジを強く握り、瞬く隙に薙ぎ払う。

レイザーエッジの輝きが濃墨の喉元で一閃し、おびただしい量の血液が噴き出した。


即座にカラスは濃墨の口を手で塞ごうと濃墨に組み付こうとする。

治癒魔法の詠唱を阻害するためだ。


「俺のだっ返せ!」


しかし怒り狂った濃墨はカラスの顔を強引につかみ、地に叩きつける。

体勢を立て直そうとするカラスに逆に組みつこうとした濃墨だったが、失血には抗えず昏倒した。


額から流れる己の血と返り血を拭いながら、カラスは白い床に広がる血だまりを眺めていた。


仲間を欠片も疑わず武器を渡すこと。

何よりも優先してレイザーエッジを取り返そうとしたこと。


カラスにとってはどちらも予想できなかったことだ。

そして、それが1番目の眷属と、自分との違いなのだろうと理解した。

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