2-9. 弱点属性(4)
3番目の眷属であるカラスが目を覚まし認識したこと、それは見知らぬ場所に己がいることだった。
カラスはすぐに立ち上がり鑑定<サーチ>で場所の特定をしようとする・・・が、SPが尽きていて使えないことに気づいた。
腰に下げていた短剣やわずかながら携帯していた荷物も奪われていた。
カラスは耳を澄ますが特に何も音は聞こえずあたりは静まり返っている。
屋内のようだが暗く、扉も窓もないところに閉じ込められている。
室内の温度は30℃といったところで少し熱いが耐えられないというほどではない。
手を伸ばして確認すると床も壁も糸で作られており、魔法や刃物があればすぐに突破は出来るが、今のカラスにその術は持ち合わせていなかった。
カラスの正面に頑丈な糸で作られた網のような壁があり、隙間からは近くに似たような部屋が多く作られていることがうかがえる。
すると奥からカラスにとってなじみのある足音が近づいてくるのに気づいた。
「よっ、目を覚ましたか。気分はどうだ?」
「その様子はなんだ、濃墨。助けに来たんじゃないのか?」
「助けに?残念だがみょんみょん様がお前をしばらくそこに閉じ込めておけっておっしゃったんだから助ける気はねぇな。」
1番目の眷属である濃墨は、その場に座り込む。
「みょんみょん様が?どうして。というかここはどこだ、見たことない場所だぞ?ななんが以前言っていた独房が完成したのか?」
「何言ってんだ、いつものお前の部屋じゃねぇか。貧血でボケてんのか。」
そして濃墨はごそごそと懐を漁ると、干し肉を取り出す。
それを2つに引きちぎると、片方を網の隙間からカラスに差し出した。
「お前の分だよ。といってもおまえの荷物ん中から拝借したんだけどな。ほら、1日3回食わねぇと、な。」
「ボケているのはお前だ。ここのどこが俺の部屋だ!SPも尽きているし、状況がわからん。」
「いやさ、みょんみょん様が吸精でお前のMPとSP吸い尽くせっておっしゃって・・・」
その濃墨の言葉にカラスは思わずフリーズする。
「いや、俺も嫌だったんだぜ?」
しばらくしてフリーズが解除したカラスは差し出された干し肉を奪い取り口に押し込む。
カラスから見ると濃墨の発言がおかしいのは明白だ。だからこそ、この干し肉が毒である可能性もあるが、本当に自分が携帯していた干し肉であるならばわずかながらSPが回復するはずだ。
「俺は腹部を刺したはずだが、お前が回復魔法をかけたのか。」
先ほど黒いアラクネに遭遇した際、敵が初手で魅了<チャーム>を使ったことにカラスは気づいた。
カラスは精神攻撃耐性(上)のスキルを保有しているため、本来格下である相手の魅了<チャーム>に掛かるわけはない。
しかし、明確に敵の魅了<チャーム>に自分が犯されていることを察知したカラスは、迷うことなく自死を選んだ。
ただ残念なことに、咄嗟のことで手元が狂い、突き上げるはずだった心臓に刃が届かなかった。
カラスが覚えているのはそこまでだった。
「あぁ、みょんみょん様の御命令でな。あれはなんだ?敵に攻撃されたのか?」
「あぁ・・・そうだな。敵の攻撃だ。」
わずかに回復したSPを使って行った鑑定<サーチ>でカラスは状況が把握できた。
濃墨はまだ敵の魅了<チャーム>に侵されている。
魅了<チャーム>の影響で、周囲を誤認させられて敵の都合のいいように思いこまされているのだ。
濃墨が今、主だと思って仕えている相手はあの黒いアラクネだというわけだ。
「つか、お前、息をするように鑑定<サーチ>すんなよ。ちょっとは仲間の言うこと信じろって・・・。」
カラスは日頃から他の眷属の言うことを疑ってかかり、仲間相手でも鑑定<サーチ>を行ってきたこともあり、濃墨はカラスが鑑定<サーチ>を自分に行ったこともさして疑問に思っていない様子だ。
無論、カラスもこの状況を想定していたわけではないのだが。




