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2-8. 森の東側(3)

『いきなり女王蟲?それとも眷属かしら。とりあえず、さっき言った通り、1つの眼を借りて伝達<コール>で指示出すね。ふみちゃんよろしく。』

「では、不肖の身ではありますが、みょんみょん様の代役を務めさせていただきます。」


私はふみちゃんの8つの眼の1つだけ拝借して、周囲の状況を把握させてもらう。

蜘蛛の視界って独特で、さらにふみちゃん特異な状況もあって、1つの眼の視力だと細やかな状況把握はできない。だけど、体を操作するふみちゃんにあまり不自由はさせられないしね。


「みょんみょん様の影武者ってことっすから・・・ふみに敬語使ったほうがいいんっすか?とりあえず、俺っち先行しますね。」

「じゃあ薄墨が前列で俺とカラスが中列で隊列組む感じか?ふみは後衛だな。」


すぐ横の木にはカラス君が控えているのが見える。

戦闘になった場合に備えて近くまで戻ってきたようだ。


『大型個体の種族はアラクネ、Lv.は45相当、職業は女王。習得魔法はウォーターボール、ウィンドカッター、ウィンドダート、ライトニング、トルネード。スキルは魅了<チャーム>、眷属作成、眷属支配、織糸、吸精、毒牙。6匹連れている供は全てデスウィーバー、Lv.は20程度。そのほか森の中に潜んでいるLv.10程度の蜘蛛多数。』


少し足場のいい場所を陣取って、相手が来るはずの方向を睨む。

3騎士のみんなは全員低レベル攻撃無効のスキルがあるので、Lv.20相手だといくら攻撃されても基本無効化できる。しかし、ふみちゃんは攻撃無効化まではできない、歴然としたレベル差があるので大けがはしないと思うけど。


『とりあえず交渉するから、戦闘態勢は解かなくていいけど指示があるまで攻撃はしないでね。ふみちゃん、相手と話ができるようなら、まず勝手に領内に入ったことを詫びて。そのうえで交渉できそうだったら、友好関係を築きたいところよね。』


そうこうしていると、藪の向こうから落ち葉を踏みしめる音が聞こえてきた。

その音もどんどん大きくなり近づいてくるのがわかる。


かなりのスピードだ。


急に足音が止み、一瞬の静寂に包まれる。

直後。


先頭の薄ちゃんの眼の前に巨体が着地する。

黒と赤のドレスに身を包んだ黒髪の人間の女性、いや、腰の後ろには大きく黒光りする丸い腹部があり6本の脚が伸びている、蜘蛛だ。


相手は再び大きく跳躍し、瞬く間に私たちを飛び越して私の後ろ5mほどのところに着地する。


さらに相手が連れていた6匹のデスウィーバーが薄ちゃんの前方の藪から遅れて現れる。

挟撃だ。


「東の女王蟲様とお見受けいたします。私はふみと申します。」


ふみちゃんは動じる様子はない。

見回すと、濃ちゃんとカラスちゃんはアラクネの近くへ素早く移動して陣取っている。後ろにも蜘蛛がいるので薄ちゃんは動かないが、3人とも慌てる様子はない。


「くそったれがっ!」


黒髪のアラクネは叫び、目が怪しく光る。

直後、私の視界が大きく揺れる。


「な、何をするの!?やめて!!」


ふみちゃんが叫び、私の視界は腕のようなもので塞がれ、それをふみちゃんが振り払おうとしている。

推測するに、ふみちゃんの背中に何か組み付いているようだ。


『濃ちゃん、薄ちゃん、カラスちゃん、状況を教えて!』


とっさに3人に伝達<コール>をする。


『嫌っす!嫌っす!!めちゃくちゃ嫌な感じっす!!!』


薄ちゃんの要領を得ない返事はあるが、他の2人の返事はない。


『撤退!撤退するよ!!さっきの崖の上で集合!!』


何が起こっているのか判断できないが、とにかく態勢を整えなければならない。

全員にいったん撤退を呼びかける。


『て、撤退いたします!』


相変わらず私の視界は真っ暗だが、とりあえずふみちゃんは撤退できるようだ。

撤退を指示した崖の上はそう遠くないので、ふみちゃんの脚なら1分ほどだ。


『ふみです。薄墨さんと一緒に崖の上まで撤退いたしました。黒いアラクネ、追ってきません。』


どうやら薄ちゃんも一緒であるらしい。


『濃ちゃんとカラスちゃんは・・・?』

『濃墨さんは撤退の命令にも無反応でした。カラスさんは怪我で動けないようでした。』

『え、怪我・・・?』


状況把握ができなくて混乱から思考停止しそうになる。

ただ、呆けている場合でもない。

まず伝達<コール>で濃ちゃんとカラスちゃんに連絡を取ろうと試みるが、やはり反応がない。


『薄ちゃんは怪我してない?』


すると、私の視界が開けて、目の前に薄ちゃんが現れる。

怪我はないようでほっとしたが、その様子はひどくうなだれている。


「すみません、俺っち・・・取り乱しちまって・・・でも・・・でも・・・。」


ふみちゃんの視界越しでも、薄ちゃんがか・な・り落ち込んでいることがわかる。


『とりあえず、ここはまだ相手の陣地。濃ちゃんとカラスちゃんが心配だけど、二人とも巣まで撤退してきて。薄ちゃんも落ち込むのは後回しよ、無事に帰ってきて。』


濃ちゃんとカラスちゃんがどうなっているかもわからない状況での撤退が本当に正しいのか、不安しかない。

でも、私が指示を出すと言ったんだから、私が決めて、その責任を背負うしかない。


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