2-6. 人間の村(5)
日が変わる前になっても雨は降り続いていた。
儀式が行われていた山の中腹。
魔法陣の真上には、ななんが用意した灯り用のファイアーボールが炎の渦を巻いている。
その魔法陣の横に3番目の眷属であるカラスは苦労して運んできた荷物を無作法においた。
運んできたのは人間の死体だ。
「これで、指揮官を除けば全員だな。」
「俺、必要なかったな。」
濃墨は倒れた石灯篭に腰を掛けている。
彼は主に「負傷者がいたら治療するように」と命令を受けてここにいる。
しかし、カラスが見つけてきたのは全て負傷者ではなかった。
「死体も丁重に扱うようにとのことだが、ここに並べておけばいいのか?」
「その、3つに分離しちまってるやつ、みょんみょん様が見たらお心を乱されそうだが・・・1回蘇生させて傷を修復してから、見た目奇麗な感じで殺すか?」
「今見た目を直したところでどうせ明るくなれば犬やら鳥が食いにくる。そもそも、この暑さだとすぐに腐る。帰りはここをお見せしないほうがいいだろう。・・・それにしても、いつも魔法の無駄撃ちを嫌がるお前がそんなこと言うとはな。」
「みょんみょん様のお傍にいるときは、いざって時にMP尽きると困んだろ?今は別に・・・どうでもいい。」
濃墨は頬杖をついてその場から動く気配はない。
締まりのない顔で転がる人間を見つめていた。
「前は、みょんみょん様はまたきっと来られるだろうってだけで嬉しかったのにな。」
「明日の朝合流できるだろう。それまで我慢しろ。」
濃墨は返事の代わりに石灯篭に寝そべる。
「指揮官の人間は逃げたということかな?」
7番目の眷属であるななんは手に持った大きな傘をカラスの上にかざす。
木の枝と糸で作ったらしき傘は二人が入っても十分に余裕がある大きさだった。
「指揮官が単独で逃げることができるほど体に損傷がなかったとは思えない。だがニンゲンと交渉中、ちょくちょく背後に視線を感じた。おそらくだが高レベルの探索係が潜伏していた可能性が高い。そいつが指揮官を抱えて逃げたのかもしれない。」
「なる、ほど。どちらにせよ、“敵”が確認しに戻ってくる可能性は高い。高レベルの探索係に対応できるとなると君か・・・あとはいよかな。朝にはいよに来てもらって、監視してもらおうか。いよは貴重な人材で他にしてもらいたいことがたくさんあるんだけれども、ほら、君はみょんみょん様の元に行きたいだろう?人手は本当に足りないんだけれども。高レベルな君がここに残ってくれると助かるのだけれど、無理だろう?」
「・・・高レベルとは言ったが、与一でも十分だ。」
その言葉にななんは意地の悪い笑みを浮かべる。
「そういうことなら、与一にお願いするとしよう。」




