2-6. 人間の村(3)
夜。
窓の外では依然雨が降っていて、のどやかな雨音が静かな村を覆っている。
「10km先まで雨が降っていることは確認できました。麦と呼ばれる植物は雨で少し回復したようです。」
「もう数日は様子を見たほうがいいかしら。とりあえず、よいっちゃんも偵察ありがとうね。今日はもう休んで。」
「了解いたしました。」
ここちゃんがいるので門<ゲート>をつかってすぐにホームに帰ってもよかったのだけれど、村長の家の空き部屋を2つ貸してもらって今夜はお泊りにしようと思っています。
ずばり神秘の降雨の効果範囲と効果を確認、という名目で観光です。
2つ借りたお部屋の広い方を女子部屋にして、お部屋の一角にあった低めの机に、ふみちゃんが糸でやわらかいクッションをひいてくれる。
そこに鎮座している私です。
「ここちゃんも、踊りとても素敵だったわ!素晴らしいものを見せてくれてありがとう!」
目の前で片膝をついて畏まっているここちゃんは、私のその言葉に顔をあげてほほ笑む。
「もったいないお言葉、無上の喜びでございます。」
「私のわがままに付き合ってもらったんだし、なにかお礼をしたいんだけど・・・何がいいかな?」
元はと言うと、ふみちゃんが他種族である人間と仲良くしていることがうれしくてこの村まで来た。私が人間の村を見てみたかったってのもあるんだけどね。
そして、流れのままに断り切れずに私が勝手に雨を降らせることを約束したのだ。雨を降らせるのはここちゃんなのに、だ。
ここちゃんは私の役に立てることがうれしいって言ってくれてたとはいえ、お礼はしなきゃね。
「可能でございましたら、人間の男を一人、かどわかす許可をいただければ、と存じます。」
まぁ、そうなるよね。
朝の散歩のときもその話をしたわけだし。
ここちゃんの魅力を使えば村の男性なんてイチコロだもんね。
でも、せっかく私を神と崇めてくれている村人を犠牲にするのは、ちょっと避けたいな。
「村の南西、8kmほどのところに、昼間お話しした略奪を生業とした人間の住処があります。この村の人間も、小麦や薬草等を街に売りに行く際に襲われることがあり、迷惑しているようです。数時間お時間をいただければ、そこの人間を間引いて参ります。」
「そういうことなら、行ってきていいよ。でも、一人だとなにかあるといけないから、ふみちゃん、一緒に行ってもらっていい?」
ここちゃんも、この村の人間を襲いたいと言っているわけじゃないとわかって安心した。
ふみちゃんからすると余計な仕事が増えたわけだから、後で別にお礼をするとしよう。
「こっちにはよいっちゃんと薄ちゃんがいるから大丈夫。二人も、気を付けて行ってきてね、困ったら伝達<コール>してね、ふみちゃん。」
「了解いたしました。」
二人が出ていくのを、手を振り見送る。
薄ちゃんは警護の為に扉の外にいるから部屋の中は私一人になってしまった。
私は座っていた元机に寝転がり、天井を見上げる。
そして昼間のことを思い出していた。
「人が傷ついても、死んでも、あんまり気にならなかったな・・・」
薄ちゃんが相手を攻撃した時、カラス君が相手を殺したとき、嵐で大勢が吹っ飛ばされた時。
相手が敵であったからかもしれないが、あまりなにも感じなかった。
昨日はグロ画像を見て心乱された訳だが、あれもあまりのグロさから気分が悪くなっただけで、人間の死そのものに対してはあまり心動かなかった気がする。
「ゲームのやりすぎで人殺しに慣れちゃうってあるのかな・・・とはいっても、最近は『メガラニカ』もあんまりプレイ出来てなかったしな。」
思い返せば、こっちの世界に来て心を砕いているのはNPC達のことばかりだ。
「NPC達が元気で幸せなら・・・なんでもいいや。」
今日もいろいろあって少し疲れた。
明日は村を見て歩こう、仲間NPC達と一緒に。
そう思いながら、私は眠りに落ちた。
めりーくりすます~~




