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2-5. 峠でのいざこざ(1)

5.峠でのいざこざ


人間の村の手前、最後の峠道、その頂上まで来て目的地まであと数キロというところです。

ここちゃんが言うには、この山脈のもっと西には略奪を生業とする人間が住んでいるとのことだが、このあたりではそういう輩もいないということだ。


ここにきてふみちゃんはお色直しをしたいというので、私達は小休憩を取っています。


「みょんみょん様に頂いたこの衣装、いかがでしょうか?」


木陰から恥ずかしそうにふみちゃんが出てくる。

ベージュのフレアシルエットのワンピースからは2本の美脚がお目見えしている。

そう、ふみちゃんの普段のアラクネ姿はそもそも作り物なので、下半身を人間と同じように作り直すこともできるのだ。

この姿になると、どこからどう見ても可憐な人間の少女だ。


ちなみに、糸で外見を作ると言っても、ふみちゃんの場合はどんな姿にもなれるわけではないらしい。


メタなことを言うと、ふみちゃんのこの人間のような姿は、神アバター師が私のアバターを作ったときにおまけでくれたものを、サブアバターとしてふみちゃんに登録していたものだった。『メガラニカ』では、サブアバターを登録だけして全く使用していなかったが、こっちの世界では“別の姿”として反映されているらしい。


「あら、いいじゃない。派手なフリルも似合うわね。」

「ふみちゃん素敵~!」


人間の国では人間のような姿をしたいと言ったふみちゃんに、私が織糸スキルで服を作ってプレゼントしたのだ。

なお、今回はちゃんとふみちゃんの意向を聞いて服を作っています。

パワハラダメ絶対。


「2足歩行もできるとは聞いていたけど、器用なものね。」

「せっかくみょんみょん様と似た姿を取れるってのに、なんで人間みたいな姿になるんすか?俺っちは蜘蛛の姿の方がいいっす!な、カラス!」

「な、なんで、急に俺に話をふるんだ!ふみの脚になぞ興味ない!!」


薄ちゃんに話しかけられたカラス君はあからさまに動揺して、さも探索しに行くという体でこの場から逃げた。

カラス君もふみちゃんの美脚にドキドキしちゃうのかな。


「濃ちゃん、ふみちゃん素敵でしょ?」

「ん~、蜘蛛の姿の時よりも攻撃を回避しやすそうだなとは思います。」


あたり判定の話をしだすあたり、濃ちゃんはあんまり興味ないんだな。

そもそも『メガラニカ』とは違って、今のふみちゃんは本体こぶし大だから、あたり判定は極小なんだよ!


「ニンゲンの住処で普段の姿を取っていると、ニンゲンらが私のことを神と間違えるのです。彼らは真に聖く崇高なみょんみょん様のお姿を見たことがない故、勘違いすることも仕方がないとはいえ、不快ですのでこちらの姿を取らせていただいております。」

「ふみを見て神だと思うニンゲン達は、きっとみょんみょん様を見ると目ん玉潰れるっす!」


正直、ふみちゃんと私の姿は目の色以外は完全に同一なのだが、仲間NPC達にとっては全く違うものらしい。

彼らには私に後光でも見えているのだろうか。


『みょんみょん様。左前方5kmの林の中に、人間と思われる十数名、なにかしています。』


そろそろ出発しようとしていたところカラス君から伝達<コール>が届く。


『カラス君、なにかって?』

『魔法陣を複数人の人間が取り囲んでおり、儀式魔法の準備に見えます。何か・・・準備ができた・・・と指揮官に報告しているようです。鑑定の許可を。』


敵のレベルやスキルを調べる鑑定スキルは便利だが、使用すると相手に独特の不快感を与えるので、下手に使用すると先制攻撃のチャンスを逃がすことになる。


『そもそも、敵なのかどうかもわからないわ。他にわかることはある?』

『魔法陣は木などを使用し、意図的に隠蔽していることがうかがえます。指揮官と思しき人間は、装備を見る限りは神官系、儀式魔法を行使するための人員と思われる人間は8人、こちらも神官系。そのほかに4人、護衛と思われます。装備からの印象は、剣士3、魔法職1。』


カラス君の報告に私たちはお互いの顔を見合わせる。


「えっと、ふみちゃん。村の人には私が今日行くって言ってるんだっけ?」


一番の懸念は、私達は人間に騙されいいようにおびき出されているところで、儀式魔法で一網打尽にされかかっているかもしれないということだ。


「はい。しかし伝えたのは昨晩です。」

「一晩あれば儀式魔法の用意も出来なくはない・・・か?」

『いや、濃墨。魔法陣だけならともかく、切り立った崖の中腹にそれなりの足場を用意し念入りに隠蔽もされている。人間は器用だと言っても、これだけの用意には数日かかる。』


怪しさだけでいえば攻撃したくなるレベルだけれど、敵だという確証は何もない。

ただ、目的地のすぐ近くで謎の儀式が行われているなんて、いかに楽天的な私でも流石に放置することはできない。


『とりあえず、こうなったら鑑定をしてもらおうかな。私としては、しっかり用意をしていそうなその状況で探索係がいないのが気になるよ。カラスちゃんもやばそうだったら早めに撤退してきてね。』

『了解です。・・・指揮官と思しき人間はLv.35相当、クラスはビショップ、習得魔法はホーリーライトなど神性属性の攻撃魔法を習得しています。スキルは・・・聖い資糧?儀式魔法を行う人員はLv.20程度、クラスは全員クレリック、習得魔法はライトボールや治癒<ヒール>。護衛はLv.25相当の軽騎士、Lv.20程度の戦士と兵士、魔法使い。』


Lv.の差が十分にありそうなので、儀式魔法さえ発動させなければどうってことなさそうだ。

ただ、気になるのは指揮官のスキル。

スキル名が読めるということは裏を返せば『メガラニカ』にも存在していたスキルだ。しかし、たくさんの仲間NPCを育成し、一時はキャラクタービルドに関して熱心に研究していた私でも“聖い資糧”というスキルは知らなかった。

おそらく、一般スキルではない。


『メガラニカ』において、プレイヤーはゲーム開始時にランダムで取得できる固有スキルがある。私の場合、それが「復讐者」なんだけれど、この固有スキル、NPCは持っていない。


「もしかして・・・プレイヤー?」


もしも指揮官が固有スキル持ちだとすれば、私と同じようにこの世界に転移してきたプレイヤーだという可能性が高い。

個人的には同じプレイヤーなのであれば、友好的な関係を築きたい。

しかし、『メガラニカ』ではとある事件をきっかけに虫系種族に対する差別があり、一部では虫系種族を選択するプレイヤーはPKされても仕方がないという風潮さえある。

相手が良識あるプレイヤーとは限らないのだ。


『結局、レベル差があることはわかるけど、相手の目的はわかりそうにないわね。ねぇ、カラス君、鑑定をされた相手の反応は?あと、指揮官って男性かしら?』

『特に相手に反応は認めません。儀式を行っている人員にいくらかメスが混じっていますが、指揮官も含め多くはオスですが・・・まさか。』

『そう、考えたって仕方ないわ。最悪、魅了<チャーム>でなんとかするとして、話しかけてみましょう。』


そう、プレイヤーだろうがそうではなかろうが、大事なのは敵かどうかということだ。

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