2-3. 森の賢者(5)
主がきゅ~や濃墨に介抱され大方落ち着いてきたところで、カラスは会議室に戻ってきた。
あそこにいてもなにも出来ずに遠巻きに見守ることしかできなかったからだ。
「みょんみょん様の御様子は?」
ななんの表情も暗い。
「少し取り乱されただけだから、特別治療の必要もなさそうだった。今は濃墨ときゅ~がお気持ちを楽にしようと色々話しかけていた。」
「アレの存在を把握していたのにもかかわらず・・・私のミスだ。」
ななんは大きなため息をつく。
「・・・とはいえ、起こってしまったことは仕方ない。大切なことも知れたしね。」
ななんは持っていた扇子を弄りながら、近くにあった椅子に腰かけた。
「何か情報があったのか?」
「いやいや、あの猿のことではなくてね。みょんみょん様は・・・人間に特別な慈しみを持たれているということだよ。それこそ、蜘蛛よりもね。」
「人間に?」
「ああ、私としては、蜘蛛のあの姿はみょんみょん様は御心をお痛めになるだろうと想像していたのだがね、実際にお心を乱されたのは人間のあの姿だった。」
カラスにはあれが残酷な行為だということは理解できるが、どうしてあの腐朽した汚物がそこまで主の精神に影響するのかがよくわからない。
あまりにも汚らわしいので主が吐き気を催したのだと理解していたが、ななんの口ぶりから察するに、人間への惨たらしい仕打ちに主は悲しんでいるらしい。
「幼体もまじっていたし、最悪だよ。」
その言葉にはポンゴへの憎しみが染み出ていた。
「まぁまぁ、これであの猿に多少手荒なことをしたとしても、みょんみょん様は御納得されるでしょう。」
ななんを気遣って、ここが紅茶を差し出す。
昼に主に供したものの2番煎じだが、めったに飲めるものではないので眷属内では人気の飲み物だった。
「17時に総攻撃をかけるって・・・どうするんですか?ななんの高範囲魔法で焼き払うんでしょうか・・・ぼ、僕も悲鳴を聞きに行こうかな・・・」
「はっち、攻撃は今日の17時なのか?」
「は、はい・・・あの猿ども、時間をあげてもロクなことをしなさそうなので、兵士をかき集める時間程度の猶予を与えたんです・・・。一応、17時までに非戦闘員は他の村へ逃がせって警告はしたんですけど、案の定聞く耳はないみたいで・・・」
カラスはスクリーンを見る。
スクリーンにはいよの視覚を通じて村の様子が映し出されている。
村の入り口ではあわただしくポンゴが出入りしているが、避難している様子ではない。
「攻撃はジュナに頼んでいるんだよ。ジュナには言われた通りの準備は済んでいるから、17時きっかりにアレの村の入り口に行くよう伝えてくれないかい、はっち。」
しばらくうなだれていたななんだったが、ようやく顔をあげる。
「は~い」と言って、ジュナがいる部屋に向かうはっちにななんは申し訳なさそうに付け加えた。
「悲鳴を聞きたいなら、村に行く意味はないよ。」




