2-2. 王道の序章(5)
捕虜となったポンゴ、その姿を見て私は困惑した。
「ち、チンパンジーだよね?」
森の賢者というからにはゴリラのような種族かと思っていた。
そっちか~やられた!何もやられてないけど。
「なんだこのブレイなムシわ!オレわモリのケンジャであるガラーネサマのシンライアツいポンゴ、ポーニヌだぞ!あわわわ、ここサマ、おこったかおもカワイイ!!」
捕虜は私が質問する前から聞いてもいないことを多く話す。
ここちゃんを見つけたとたんに足にほおずりしようとて、ここちゃんに足蹴にされているあたり、考えるよりも先に行動するタイプのようだ。
「ニンゲンがたくさんアツまっても、カトウなムシをツレてきても、ガラーネサマのヒッサツファイヤーボールでイチゲキだ!」
首輪をつけられ鎖でつながれている姿だというのに、その捕虜はとにかく威勢がいい。
あと、隙あらばここちゃんにしがみつこうとしている。
魅了<チャーム>って怖いね。ここちゃんはスキル使わなくても魅力的だけどね。
「結構・・・その、多弁なのね。」
「御しやすくて大変助かっております。」
ななんちゃんがふわりとほほ笑む。
あいかわらず顔がいい。
「それで、このゴミを直接御前に出してきて、お前は何が言いたいんだ、ななん。」
「その前に確認なのだけれど、ケット・シーの村を襲っていたモンスターのリーダーはこれと同じだろうか?なにせカラス、君しか視認していないものでね。」
カラス君はこの目の前のモンスター、ポンゴの独特な匂いが心底嫌であるらしい。早く切り上げたさそうだ。
私にとってはそこまで不快な匂いでもないんだけど、なんというか、獣臭い。
「これよりもう少し大柄だったが、同じ種族だろう。鑑定した時に出る種族名が同じだ、読めないがな。」
「その個体はリーベーとか名乗っていなかったかい?」
「カタコトのような発語が独特で聞き取りづらいのもあって、そこまでは。」
「そうですか、そこは与一にも聞いてみましょう。」
そこまで言うと、ななんちゃんは私の方に向き直り改めて片膝をつく。
私の後ろからふみちゃんが大きな扇で風を送ってくれていることもあって、長い黒髪が凛と風になびく所作が美しい。
それはそうとふみちゃん、夏の暑さに対して私を扇いでくれているというより、ポンゴの匂いを私から遠ざけようとしているようだ。必死に扇いでいるのがかわいらしい。
「このポンゴに直接与えられるお言葉はありますでしょうか?」
「そうね、森の賢者に関する情報が欲しいわけだけど、もしかしてあらかた聞き出した後なの?」
「ご明察の通りでございます。」
たぶん、ななんちゃん達はもうこのポンゴから情報は得られるだけ得ているのだろう。
ななんちゃんとしては一度この生物を私に見せたかったようだ。
いや、この個体の浅はかさを見せたかったのかな。「この情報、ソースはあいつです」ってだけで察せられることがあるというか。
「ん、じゃあとりあえずは聞きたいことはないかな。ななんちゃんにまとめて教えてもらうね。」
「では、再度ホームで情報共有させていただきます。ご足労申し訳ございません。」
「自分の目で確認することも大事よね。それじゃあね、ポンゴさん。」
私がその場を離れようとすると、それまで私の傍を離れなかった薄ちゃんがポンゴに走り寄った。
興味津々といった様子で槍の先を使ってつんつんしている。
「毛だらけっすね、どこ刺されるのが一番痛い?やっぱ目??」
「薄ちゃん~帰るよ~、そのポンゴさんはおもちゃにしないでね。」
「は~い、みょんみょん様~!」
私の言葉に薄ちゃんはこっちに走ってくる。
他の子たちはポンゴをつんつんした薄ちゃんの槍を不潔がっている。
「あれに自ら近寄るなんてあなた正気?ねぇ、ななん、あいつはもう用済みってことでいいかしら?足にまとわりついてくるのよ!気持ち悪いったらありゃしない。」
「残念だけど、まだまだ使い道があるからもう少しあのまま置いておこう。魅了<チャーム>がどのくらいの時間効力があるのかも知りたいしね。」
きゅ~たんは何も言わなかったけど、解剖したかったりするのかな。触りたくないほうが勝るのかな。




