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1-9. 異世界での日常(3)

すぐに濃ちゃんと合流でき、そしてそのケット・シーは濃ちゃんの足元にいた。

正確には釘バットで脅されて怯えきっていた。


その姿はちょっと大きいがほぼ完全にリアルな猫だ。

猫と違うのは水晶のような細長い構造物が背中に羽のように浮いている。

短毛の青に近いグレーの縞々模様で、アメショー(アメリカンショーヘア)のような柄だ。

そんな愛くるしい存在は腕や足に深い傷をいくつも負っており、滴る血が痛々しい。


「傷を癒してあげてくれる?」

「いいですが、脚が治ればおそらく逃げますよ?」

「それはしょうがないわ、お願い」


すると、濃ちゃんが詠唱し始めたと同時に薄ちゃんがケット・シーの首根っこをつかんで持ち上げる。


「これで逃げれないっすね」

「ぎゃー!!食べないでください!食べないでください!!」


しゃべった!


「おい、手足ばたつかせるとみょんみょん様に汚ねぇ血がかかっちまうだろ、暴れんなら首へし折んぞ」

「ちょ、薄ちゃん、やめて。ねぇ、ケット・シーさん。私たち別にあなたを食べたりしないわよ。ケット・シーって珍しいからお話してみたかっただけ。傷も治してあげてるでしょ?」


濃ちゃんの治癒<ヒール>のおかげでケット・シーの傷はみるみる回復している。

回復した傷をみてケット・シーは信じられないとでもいうように傷があった場所をつんつんつついたり舐めてみたりしている。

その所作がとても人間臭いので、完全な猫の見た目とのギャップに違和感しか感じなくて面白い。


「あ、ありがとう・・・助かった!」

「ねぇ君、お名前なんているの?おうちは?このあたりに住んでいるの?」

「オレはエイネの首領タヤオラヴの息子のメルヴァシェルシュだ。もうすぐ8になる大人だから、子ども扱いはやめてく・・・ださい」


最後の方で威勢がなくなったのは、多分私の後ろにいる濃ちゃんに睨まれたためだろう。


「メルヴぁ・・・メル君は、どうしてこんなところで魔狼に襲われてたの?」

「なぁ、お前は東の女王蟲なんだろ?女王は何でも捕まえて食べてしまうって聞いたぞ!あ、でも女王蟲は蜘蛛だから脚が8本あるって聞いたけど、お前は4本しかなっ!!」


偉そうな態度を取り続けるメル君に薄ちゃんが耐え切れなくなったらしい。かわいいしっぽを乱暴につかむとメル君を宙づりにする。


「じょ、女王なんなら強いんだろ!?オレの村を助けてくれよ!賢者の手下に襲撃されてるんだ!」


逆さづりになっても、メル君は虚勢を張り続けている。


「う~ん、確かに強いんだけど・・・」


なにやら事件が起こっているらしい。

助けてあげたい気もするけど、敵勢力が未知数である以上、安請け合いもよくない。


それにしても、私って東の女王蟲って呼ばれているの?

ここにきてまだ2週間足らずだけど。


「頼むよ!俺ができることなら何でもするから!!」


濃ちゃんをうかがうと、意外と「御好きにドウゾ」って顔してる。

カラス君はこの場にいないから表情はうかがい知れないけど、私達の話は聞いてると思うし、絶対だめって思ってたらすでに伝達<コール>で説教されてると思うんだ。


「ん~、じゃあ、もふもふさせてくれる?」

「は・・・え・・・?」

「私の思う存分メル君をもふもふさせてくれるならいいよ、もちろん後払いで」


宙づりにされた愛くるしい存在は、少し考えてから「す、好きにすればいいさ!助けてくれるならなっ」って答える。


ということで彼の村を救うというミッション開始だ。

申し訳ないけど、敵が強ければ見捨てさせてもらうけどね。


これで1章おしまいです。

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