1-1. 異世界転移(3)
移動は快適だった。
空調こそないとはいえ、日傘いや日盾のおかげで直射日光は避けられ、移動による風もあり乾燥気味の気候も相まってそこまで熱くはない。
移動速度はおそらく原付バイクくらいだが、人力?とは思えないほど揺れはない。
私は一般市民として生きてきたため、当然他人に仕えられるような経験はない。
それがこの30分は4人もの優秀な仲間NPCにかしずかれている。
それは小市民である私の気分を高揚させるには十分だった。
さらに、情熱と時間とお金をかけて育て上げた仲間NPCが生き生きと動いている姿を見る感動はすさまじいものだ。
そんなこんなで自分が下半身蜘蛛の異形の姿になり知らない土地に放り出された衝撃は意識の隅に追いやられていた。
しかし、少し時間がたち冷静さを取り戻してくると色々な不安がこみあげてくる。
わからないことは山ほどあった。
この状況は小説などでよくある異世界転移だ。
であるのならば人間としての神原美音は死んだのか?
それとも元の世界に戻る手段はあるのだろうか。
この世界でアラクネとなった自分は生きていけるのだろうか。
仲間NPCである眷属たちは自分をどう扱うのだろうか。
今ここにいる4体の仲間NPCは明らかに私を主人として崇め、よくしてくれている。
だがこんな情けない姿をさらし続けていたら、そのうち私を見放してしまったりしないだろうか。
『みょんみょん様』
頭の中にカラス君の声が響く。
どうやら伝達<コール>で話しかけてきているようだ。
『なに?』
魔法の使い方はなぜだか“なんとなくわかった”。
ゲームの中で取得していた魔法やスキルは問題なく使えるようだ。
これであれば以降はこっちからも仲間NPC達に伝達<コール>が使える。
『少し先に大きな岩があり、岩陰で少し休めそうです。そろそろ御休息されてはいかがでしょうか』
まだそんなに長く移動したわけではないので、私としては特に疲れはない。
しかし、私を運んでいる二人や腕を一生懸命伸ばしながら日傘の役目をしてくれている薄ちゃんはしんどいだろう。
『そうね、少し休みましょう』
「濃ちゃん、ふみちゃん、少し先に岩陰で休めそうな場所があるそうよ。休憩にしましょう」