1-7. 主の務め(3)
「え、死にかけ・・・?」
「ほら、みょんみょん様、眷属が瀕死になったらバーサクっちゃうじゃないっすか。眷属がある程度回復するか、もう完全に死ぬかするまで着けといたほうがいいっていう意味だと思うっす!」
話がつかめなくて、私は濃ちゃんの方を見る。
濃ちゃんは気まずそうに視線を合わそうとしなかったが、観念したようで話はじめた。
まず、私がいなくなった時、私はもう帰ってこないのではないかという憶測のもと、NPCのほとんどが体調を崩してしまったらしい。なかでも上位ナンバーの数人はかなり容態が悪いらしく、私に気を使わせないように探索妨害の結界を張ってきゅ~たんと一悟君が手当てしているということだ。
そして、NPCが死にかけると私が体調悪くなるあれ、カラス君の考えでは私の個別スキルの『復習者』の効果らしい。このスキルは、仲間が瀕死になると私の攻撃力と防御力が跳ね上がる代わりに狂戦士<バーサク>状態になってしまうというもの。「メガラニカ」ではPCが狂戦士<バーサク>になっても魔法が使用不可になったり逃走不可になったりするだけで、もともと前衛で戦士職の私が困ることはあまりなかったけど、なるほどまぁ確かに狂戦士化かぁ・・・
それで、もともとは別の目的で薄ちゃんはこのネックレスを私につけてくれたんだけど、ちょうどそのおかげで狂戦士<バーサク>が解除されたのを見て、少なくともNPC全員が瀕死状態を脱するまで私にはこれを着けといたほうがいいだろうという話になったというのだ。
とりあえず・・・
「上位ナンバーの子たちの部屋に行くわね」
「なんでっすか?」
「私のせいでみんな苦しんでるんでしょう?確かに私には何もできないかもだけど・・・」
NPCの瀕死状態を故意に秘匿されてたのはすこし腹が立つけど、元を返せば私のせいなのでとがめないことにした。
そもそも、改めて二人を見ても、二人だって体調が万全とは思えなかった。
「薄ちゃんも、濃ちゃんも、私の身勝手で迷惑かけちゃって本当にごめんなさい、土下座でも何でも、いくらでもお詫びするから・・・その、ごめんなさい、許してください」
そう、そもそもは謝りに来たんだ。
早く上位ナンバーの子たちの顔を見に行きたいのはやまやまだが、二人にもしっかり謝らなくちゃ。
「みょんみょん様・・・」
「なぁに?」
「あの・・・後生ですから・・・みょんみょん様は謝らないでください。」
濃ちゃんの顔は苦悶に歪んでいた。
「みょんみょん様が・・・一人で散歩に行かれたのも、森で迷われたのも、帰ってこれなかったのも、脚を怪我されたのも、眷属が死にかけてるのも、全部全部っ・・・俺たち眷属のせいです。俺たちが悪いんです!」
「そうです、そうですよ!気に入らない眷属も、役に立たない眷属も、ぜんぶ殺せばいいっす!!無能な眷属のせいでみょんみょん様が心痛められてるのっ胸糞悪い!!」
濃ちゃんから私に頼み事言うことなんて初めてだ。
だから、今回の発言は完全に濃ちゃんの本心で、自分たちに責任があると思い詰めているのになぜか私から謝られるからきっと困惑してるんだよね。
ていうか、ちゃっかり薄ちゃん過激な発言してるけど、こっちもたぶん本気だな。
「ですから・・・俺たちがどうすればよかったのか・・・教えていただきたいです」
「どうすればよかった、かぁ~」
寝不足で呆ける頭をなんとかフル回転させる。
「えっと、どうして私を見つけるのに3日もかかっちゃったのかな」
と言ってみたものの、この鬱蒼とした原生林で遭難した私を、3日で見つけたのだからむしろすごいことじゃない?やっぱりうちの子たち優秀だよ。
「やっぱりもっと早」
「だってみょんみょん様が『探すな』って書置きされてたじゃないっすか~!あ、俺っちは探してたんじゃないっすよ!ちょっと森の中歩いたらみょんみょん様を見つけただけっすから!!」
濃ちゃんの発言を薄ちゃんの声が大音量でかき消す。
「え、私そんなこと書いたっけ」
完全に忘れていた。
言われれば確かに書いたような気がする。
「これっす!!」
薄ちゃんはダッシュで一度部屋から出ると、ものの数秒で帰ってきて、手にしている私の書置きを見せてくれる。
うん、書いてたわ、私。やっぱ私ギルティーじゃない?謝るべきは私だよね?
濃ちゃんを見ると、両手で頭を抱え込んでる!
あぁ~濃ちゃん、これのせいで初動が遅れちゃって、それを気に病んでるんだ!
しかも、この私の書置きが私にとってそれほど大切じゃなかったことを今知っちゃって余計落ち込んじゃってるじゃん!!
「確かに書いてるわね。これをもとに私を探してるわけじゃなかった薄ちゃんも正解だし、帰ってこない私を心配して探してくれた濃ちゃんの判断も正しかったわね」
正直、謝りたい気持ちでいっぱいだが、相手が謝意を求めていない以上これ以上謝るのも変だ。
もうここは感謝の意を伝えるために褒めちぎる方向にシフトするしかない。
「でっすっよっね!俺っち、役に立つ蜘蛛ですよね!」
「うんうん、薄ちゃんはとっても役に立つ蜘蛛よ!」
薄ちゃんは私の下の方の腕にしがみついてくるので、私は上の方の腕で薄ちゃんの頭をなでなでする。
「濃ちゃん、私本当に感謝してるのよ。私一人じゃ永遠にホームに帰れなかったと思うし、バーサク化しちゃって自分の脚を引きちぎっちゃったのもすごい痛かったけど濃ちゃんがすぐ治してくれたし」
濃ちゃんは何か言おうとするそぶりを見せたけど、すぐに俯いちゃって何も言ってくれなかった。その代わりにすぐに顔を上げて笑顔を見せてくれる。
まぁ薄ちゃんみたいに満面の笑みとはいかないけど。
濃ちゃんってNPC達の中では一番『素の私』を理解してくれているっぽくてついつい甘えちゃうんだけど、どうも自分を押し殺しちゃうところあって気になっちゃうな。
「とりあえず、どうすればよかったか、はまた一緒に考えよ?カラス君にもあんまり思いつめないように言っておいて。」
カラス君は私の命令とかよりもずっとずっと私の身の安全を優先させることが多いから、きっと初動が遅れたの濃ちゃんよりもずっと気に病んでると思う。
今までの散歩中だって、安全が確認されていないところに行こうとする私をカラス君はガチで説教してたし。
「で、私は上位ナンバーの子たちを見に行くね。このネックレスはもうちょっと借りるわね。」




