1-7. 主の務め(1)
7.主の務め
帰る途中も薄ちゃん以外は私が聞いたことに返事をするという最低限の受け答えしかしてくれなかった。
なんだか、みんな何か思い詰めている様子だった。
みんなと一緒だからか、今までの苦労が嘘のようにホームに帰ることができ、ホームでは私を待ち構えていたNPC達が歓待してくれた。
でも、上位ナンバー達やちろちゃん、そしてフットマン達の姿が見えなかった。
えっ君曰く、体調が芳しくなくてきゅ~たんの治療を受けているらしい。
比較的元気なNPC達がホームで出迎えてくれたとのことだが、みんな顔色が優れない。
誰に聞いてもちゃんと寝て食べているので体調はいいと答えるが、私には不安がぬぐえなかった。
私室に入ると、Aちゃんはおらず、私室の外で警護のエッ君が控えているとはいえ、3日前にはあれほど欲した一人の時間が待ち構えていた。
防音のきいたこの部屋ではほとんど外の音が聞こえず、一人でいると自分の息遣いでさえうるさく感じる。
しかし、疲労は限界に達しているらしく、ベッドに腰かけると、睡魔が襲い掛かってきた。
「いけない、やっぱりみんなに謝らなきゃ」
私の疲労は自業自得によるものだ。
だが、NPCのみんなは主である私のわがままに振り回されて、体調を崩してしまったのだ。
とはいえ、もしかするとNPCのみんなこそ疲れ切って早く休みたいと思っているかもしれない。
そんな時に謝りに来られても迷惑なだけだ。
おそるおそる私室の外の様子をうかがうと、えっ君は上機嫌に何かメモのようなものを読んでいた。
「えっ君、濃ちゃん達の部屋に行きたいんだけど、いい?」
「主が行きたいところに行けばいいよ。でも、濃墨君達に合流するまで、僕がついて行ってもいいかな」
「勿論よ、ありがとね」
とはいえ、濃ちゃん達の私室は隣なので、目と鼻の先だ。
「何を読んでいたの?中断させてごめんね」
「いや、護衛として美しい主の傍に控えることにまさる喜びはないよ。ちなみに、読んでいたのは料理レシピだね。」
と言ってえっ君はメモの一枚を見せてくれる。
「ちろが料理を作れない間は、主の食事はアイテムボックスにあるものを使うしかないけどね。ちろが回復した後は、ストックも含めてたくさん作る必要があると思うんだ。病み上がりの体では厳しいかもしれないから、少しでも手伝えたらいいかなと思って、勉強してみてるんだよ。料理スキルはないから限界があるけどね。」
えっ君は少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
えっ君は高身長の細マッチョだが、攻撃魔法に特化した殲滅戦に強い魔法使い<キャスター>だ。ちなみに本当の名前はえっくす君ね。
スパダリをイメージして性格設定しており、って別にお金を稼いでいるわけではないからスパダリって言うのも変なんだけど、でもスパダリって彼女に優しくて家事も全部できるでしょ、まぁそういうキャラ設定なわけ。
ドアをノックすると、中から「おぅ、勝手に入れ~」という濃ちゃんの声が聞こえる。
どうやら他のNPCが訪ねて来たと勘違いしたらしき声に、えっ君と顔を見合わせて笑ってしまった。
えっ君は右手でドアを開けると、左手で私に部屋に入るように促す。
どうやらえっ君は外で待っててくれるらしい。
気遣いのできる男め。




