1-6. 転移の代償(5)
私ことみょんみょんは今強烈な孤独感に苛まれています!!!
3日前の朝、飲茶RTAで出かけたのはいいんだけど、目的地とした赤い花の木の上で、白いきれいな花を咲かせた木を見つけてしまった。
それでやっぱりあっちでお茶をしようとこの白い花のきれいな木まできて、アイテムボックス内に隠してあったエロ同人誌を読みながら優雅なティータイムをたしなんだわけだけど・・・見事に迷子になりました!!
はい、帰り道がわかりません!!
正確に言うと、ここからでもホームがある大地の裂け目のような谷は見えるんだけど、そこを目指して走ってもいつの間にかこの白い花の木の下に戻ってきてしまうんだから困っている。
それがもう3日目!!さすがに楽観的な私も絶望しています!!
しかも伝達<コール>で仲間NPCに救援要請をしようとしても、誰一人伝達<コール>に出てくれません!
「勝手に一人で散歩に出て行って、みんな怒ってるのはわかるけど・・・そろそろ許してくれないかなぁ・・・」
ここまでくると、もう私のことなんて見放して、ふみちゃんとかここちゃんを新たな主として新体制に移行しているかもしれない。
はたまた、ななんちゃんが巣を乗っ取っているかも。当初危惧してたよりも何倍も自業自得だけど!
「とりあえず土下座でも何でもするからみんな許してくれないかな・・・仲間内順位最下位でもいいからホームに入れてほしい・・・」
3日前の“一人の時間が欲しい!”なんて超絶わがままを言った私の頭を思いっきり殴りたい。
いざ一人になると寂しさと不安で夜もろくに眠れず、疲れ切って座り込んだこの場所で、ほんの数時間じっとしていただけなのに、何故だか木の根が足に絡まって動けなくなってしまった。
食料も、最悪その辺にいるモンスターを狩ってファイヤーボールで火を通したら空腹は満たせるだろうと高をくくっていたが、そもそもモンスターが見つからない。
仕方なくアイテムボックス内の食料を消費していたが、いつかは底をつくことがふと不安になり、今朝は食事もしていない。
空腹になると余計に気分が滅入ってきた。
「うぅ、濃ちゃん・・・薄ちゃん・・・カラス君・・・」
何年もゲーム「メガラニカ」をプレイしてきたとはいえ、彼らと本当に寝食を共にしたのはまだ3日だけだ。
それでもその3日のせいで、私にはあそこが帰るべき家になったのだ。
頭上を見上げると、木の梢の間から柔らかな日差しが差し込んでいて、まだ朝もやが残る森に幾筋もの光の線を落としている。
遠くで鳥や獣の声が聞こえるが、あたりには風の音のみ響いて物悲しい。
「ううっ、帰りたいよぉ・・・」
泣き言を言っていても何も始まらないので、とりあえず脚に絡まった木の根を外しにかかる。
しかし、脚に食い込むほどではないがきつく巻き付いていてなかなか外せない。
短剣を取り出してザクザク切り出しにかかるが、根もなかなかに硬くて疲労困憊した体では骨が折れそうだ。
『誰か、返事してよ~~~!もう一生わがまま言わないから!みんなの言うことちゃんと聞くから!見捨てないでよ~~~!』
そのとき
『みょんみょん様!?!?』
濃ちゃんの声だ!!
『濃ちゃん!?濃ちゃん!?伝達<コール>に出てくれるの?』
『みょんみょん様!今いずこにいらっしゃるのですか?もしかして白い花の木の近くですか?』
『そうだよ!勝手に一人で散歩に出ちゃってごめんなさい~~~!!反省してますっ一生わがまま言いません!だから・・・見捨てないでぇ』
情けないことに、最後の方はガチで泣いてしまっている。
『すぐお迎えに参ります。お怪我はありませんか?』
『ケガはないけど、木の根が絡まって動けないの。ううっごめんなさい!』
『おい、なんでお前ばかりみょんみょん様と話せてるんだ!!幻覚じゃないのか!?』
『そうだよ!もう2,3歩先は固有結界内だぞ!もう幻覚にかかってんじゃねぇのか!?』
『兄貴ばっかりずるいぞ!幻覚でいいから俺っちもみょんみょん様と話したい!!』
カラス君といよちゃん、そして薄ちゃんの声も聞こえる!
『カラス君、いよちゃん、薄ちゃん・・・うぅ、みんなごめんな゛さい゛・・・もうわがまま言わないから許して・・・一人は、寂しいよぉ』
みんなの声が聞こえて気が緩んでしまって、号泣しながら伝達<コール>してたら、急に向こうが静まり返ってしまった。
一瞬の静寂の後に何やら向こうがもめ始めている。
『すぐに参りますから、このネックレスをみょんみょん様が装備すれば大丈夫です!』
『おい、濃墨、鈍足なお前より俺が持っていく、それよこせ』
『みょんみょん様!俺っち、俺っちがお守りいたします!!どんなわがままでも言ってくださって大丈夫ですから!!俺っちも、俺っちも行く!』
『これはみょんみょん様が俺に装備させてくださったものだ!俺がお渡しする!!』
『ちょっとお前ら!喧嘩するなってご命令だろうが!ここは私がそのネックレス持っていってみょんみょん様をお助けするから、お前らはここで待ってろ!』
ネックレスがどうのこうの言っているが、音割れするレベルの大声で4人が口々に話しているもんだから、何を言っているのかいまいちわからない。
とりあえず私を迎えに来ようとはしてくれているらしい。
みんな相変わらず私を慕って、いや、私への感情度が相変わらずカンストしているようなので安心したし、なんだか涙も引っ込んでしまった。
『うわ、こいつ後ろからネックレスかすめ取りやがった!返せよ!!』
『わかった、この4人でみょんみょん様をお迎えに行くぞ、結界内では何があるかわからないしな。とりあえず薄墨、そのネックレス寄越せ』
『やだよ!カラスといよがダッシュでみょんみょん様のとこ行ったら俺っちと兄貴置いてきぼりじゃん!』
『ちょっとの差じゃねぇか!とっとと行くぞ!』
『みょんみょん様は動けないそうだから回復役<ヒーラー>は必要だろ!!』
『は?それは初耳だが?あぁ、もういい!鈍足2人はそのネックレスもって少しでも早く追いついてこい、俺はもう行くぞ!』
『てか、ふみ、お前はこっちくんな!お前は私らがヘマしたときに巣に救援呼ぶためにそこにいろ!結界外で待機しとけ!』
『みょんみょん様~俺っちがすぐお迎えに参りますからね~~』
『だからふみ!!!こっち来んなって言ってんだろ!!!』
急に強烈な悪寒が全身を襲った。
この感覚は覚えがある。
BちゃんとDちゃんが蜂モンスターに襲われた時と同様だ。
今回もBちゃんの苦痛が伝わってくる。
前回のような痛みや恐怖とはまた違う、朦朧とする意識の中でも苛む強烈な惨痛。
助けなきゃ。
私は頭が真っ白になって、いつの間にか走り出していた。




