1-6. 転移の代償(3)
濃墨は主を探しに行くことを念のためななん達に伝えておこうと、上位ナンバーたちの部屋を覗いた。
しかし彼らの状況は悲惨なものだった。
彼らは主が自分たちを捨てて出て行ったと思い込んでおり、絶望していた。
部屋の隅で茫然自失としているきゅ~に虫の息の3人を助けないのか確認はしてみたが「介錯はできない、眷属同士で傷つけるなというご命令だから」と答えられる始末だった。
他の部屋でも、いたるところにフットマン達がひっくり返って転がっており、Lv1で体力のない彼らはもう長くもたないことが予想された。
入り口ではCとDが転がっていたが、Bの姿が見えないのでひっくり返った拍子に谷底に落ちてしまったのだろうと濃墨は判断した。
「ここに・・・大きな生物が通った跡がある」
巣を出て間もなく、カラスが指さした。
濃墨が見ると、確かにやぶの中を無理やり通ったような跡があった。
「蜘蛛の糸もあるな、しおり糸か?・・・みょんみょん様の糸じゃないな」
カラスはやぶの中から見つけた蜘蛛の糸の手触りを丹念に確認している。
「お前、糸触っただけで誰の糸かわかるのかよ」
「誰のかまではわからない、みょんみょん様の糸かどうか・・・」
「兄貴ぃ~カラスはやっぱり変態だ!むっつりスケベだ!」
「別に、その、探索というのはこういうちょっとした特徴をだな!」
薄墨もまだ冗談を言う程度の元気はあるようだ。
「そもそもみょんみょん様はこんな風に歩いたりはされないんじゃないか?」
「そうだな、みょんみょん様はやぶを飛び越えられることが多い。そもそもこの痕跡は昨日ぐらいのようだな。もしかして誰かほかの眷属がみょんみょん様を探しに出たのか?」
「俺たち以外にもみょんみょん様を探している奴がいるなら、協力したほうがいいな」
カラスはあたりを見回すと、近くの木の枝に飛び乗る。
「ここに誰かの足跡があるな・・・待て、あっちに・・・これは・・・みょんみょん様のしおり糸だ」
カラスは先にある木の枝で主の痕跡を見つけたらしい。
薄墨は蜘蛛の糸を主のものだと断言するカラスを見て笑っている。
「その、しおり糸って何なんだ?」
「みょんみょん様は歩きながら糸を出すだろ?・・・その糸だ。」
蜘蛛という生物は基本的に移動時に糸を出す。そのため足を滑らせて落下しても糸で宙づりにはなるが地面に衝突することはない。
確かに、濃墨もまだデスウィーバーだった頃は歩きながら糸を出していたが、アラクネに進化してヒト型になってからはそんな過去は忘れていた。
ましてや主が糸を出しながら移動していることは気づいていなかった。
「みょんみょん様を探してる奴が他にいるなら、やっぱ探索係<シーカー>か?やぶを歩いてる奴は糸出しながら歩いてるっぽいんだよな?眷属でほかに糸出しながら移動するやつはいるのか?」
「デスウィーバーは基本的に出すが、フットマン達はホームが汚れるからとわざとしおり糸を出さずに移動するらしい。だから足を滑らせた時には床に落下してダメージを受けていて、みょんみょん様が気にされていた」
「フットマン以外にデスウィーバーはいねぇし・・・あぁ、そういや、ふみはどうだ?あいつみょんみょん様の影武者としてみょんみょん様の癖とかも真似てるんだろ?」
「ふみか・・・連絡を取ってみるか」




