1-5. 知的生命体との遭遇(2)
「いやぁ~本当に助かりました!私が常日頃より敬虔に神蟲様を崇め奉っているから、神様が神蟲様に引き合わせてくださったに違いない!!」
髪もひげもボサボサに伸びた赤茶色の毛むくじゃらは私があげたおにぎりをほおばりながら意気揚々と語る。
そのすぐ後ろで単ちゃんと竺ちゃんが尋常ではない殺気を漂わせているのによく能天気にしていられるものだ。
「こんな森の奥深くで何をされていたんですか?」
パッと見た印象では30代の男性だ。
まだ20代の私こと神原美音からは年長の相手ということで丁寧な会話を心掛ける。
「それが神蟲様!私、ブラハという薬師なんですけどね、この時期にしか取れないピコロ草の群生地を見つけて、夢中になって取っていましたらね!あら不思議、気づいたら自分のいるところがどこかわからなくなってしまったのですよ!」
「つ、つまりブラハさんは遭難されたということでしょうか・・・」
「それで3日3晩、この大森林をさ迷い歩き・・・ある時は巨大な獣のモンスターに追われ、ある時は妖精たちの悪戯に翻弄され、朝露と夜露で喉を潤し、ついに神蟲様にお目にかかる光栄な機会を得たのです!」
それにしても、言葉が通じるようでよかった。
鑑定系スキルを誰も持っていないので、ブラハと名乗るこの男性のステータスの詳細はわからないが、服は粗末でぼろぼろ、持っていたナイフもまともな手入れがなされていない。
本人が言う通り、村人Aが森で遭難しているところのようだ。
「それにしても、この森に人間が住んでいるのね、知らなかったわ」
「おそらく森の向こうですよ、いよと森の北側を捜索した時に小さな村を見つけました」
「あの山の切れ目のさらに先です、30kmくらいありますよ?」
単ちゃんも竺ちゃんも目の前の人間は無害と判断したようで、先ほどと打って変わって殺気は引っ込んでいた。
代わりに不快害虫を見るような目つきでブラハさんを見ている。
「その、ブラハさん、さっきからおっしゃっている神蟲様って何なのですか?」
「神蟲様は神蟲様ですよ!神様は神獣様と、神鳥様と、神蟲様を従えているのでしょう?私は敬虔な信者なので、神蟲様は美しい女性の姿を取った蜘蛛というのを知っていますよ!私は今まで小さな蜘蛛であっても決して害したことはありません。模範的な信者ですので!!」
それを聞いて、私は単ちゃんと竺ちゃんを見る。
二人とも、この話は初耳のようだ。
「神獣様と神鳥様もいらっしゃるのですか?」
「はい、私の村では主に神蟲様を信仰しているので、詳しくは知らないのですが・・・神蟲様は・・・あれ、昔のことすぎてお忘れとかですか??」
「私は、おそらくだけどあなたのいう神蟲様ではないわ。私達、つい最近この森に引っ越してきたばかりだもの」
それを聞くと、髭もじゃは残りのおにぎりを口に突っ込み、大仰な態度で地に伏せる。
「では、きっとあなた様は神蟲様の生まれ変わりに違いない!神様が敬虔な我々に再度御使いを遣わしてくださったのだ!!」
このブラハという人、言葉は通じるが話は通じなさそうだ。




