1-5. 知的生命体との遭遇(1)
5.知的生命体との遭遇
ホームに帰ってから3日がたって、今私は念願のフットマン全員を観察する会、もとい日向ぼっこをしている。
森の中は直射日光が遮られ、夏でもそこまで熱くは感じなかった。
そしてここは昨日濃ちゃんたちと散歩をしていてみつけた、涼しい風が吹き抜けて木漏れ日がちょうどいいお気に入りのスポットだ。
デスウィーバーに日光浴が必要かはわからないが、外温生物であるらしいデスウィーバーにとって朝ごはん後の日光浴は体が温まって消化にいいはずだ。
何よりホームは照明があるとはいえ暗く、フットマン君達の姿が鑑賞しづらい。
ここなら自然な背景で思う存分フットマン君を観察できる。
「ここは涼しくて快適ですね、みょんみょん様」
「木漏れ日がみょんみょん様の神聖さを引き立てております」
人間で言えば8歳くらいにみえる男の子が二人、木の根にちょこんと座っている。
灰色の髪に赤と紫のオッドアイの彼らは双子設定の単君と竺君だ。
見た目はショタだが、ちゃんとしっかり成虫(=成人済みという設定)なのでご安心を。
Lv1のフットマンたちを連れて外に出ることもあり、今回の日向ぼっこにあたり護衛として仲間NPCも連れてきた。
しかし、護衛はいつもの濃ちゃん達ではなく今回は単君と竺君、そしてふみちゃんを連れて来た。
ちょっと確認したいことがあったのだ。
「まぁ、一応神性属性だしね、神聖さをかもしだしちゃったかな」
こんな化け物みたいな姿なので勘違いされがちだが、「メガラニカ」内ではアラクネは神性属性、ざっくり言うと神様の仲間の扱いである。
なので神性属性攻撃に完全耐性があり、魔属性攻撃にやや弱い。デスウィーバーは外温動物であるせいか冷気にかなり弱く、さらに言えば炎攻撃も弱点だ。アラクネは恒温動物に進化?しているが、冷気や炎には少し強くなる程度で弱点属性であることは変わりない。蜘蛛族というのは結構貧弱な種族なのだ。
「みょんみょん様?いかがなされましたか?」
フットマン達は思い思いの体勢で日向ぼっこをしている。
その姿をより近くで見ようと這いつくばってフットマン達を観察するその奇行をふみちゃんは心配しているらしい。
「ちょっとねぇ~かわいいフットマンのみんなをしっかり見たくてねぇ~」
もう絶好のこの機会に体裁を気にしてはいられない。
私は寝転がってフットマン君達を鑑賞する。
そうして一通りみんなを鑑賞してから、そろそろ頃合いと考えて、私はアイテムボックスから生きた蜂モンスターの幼虫を取り出した。
大量に捕獲したという蜂モンスターの幼虫を一匹生きたままもらい受けていたのだ。
「ね、ねぇねぇ、あのさ、Bちゃん、Cちゃん、Dちゃん・・・おなかいっぱいのところ申し訳ないんだけどさ・・・ちょっとこの蜂の子を狩るところ見せてくれない・・・?」
蜘蛛の魅力はいろいろあると思うが、徘徊性(巣をつくらない)蜘蛛の一番の醍醐味は狩りをする姿だろう。
3匹のフットマンは私のお願いに応じて、意気揚々と蜂の幼虫の周りに一定の距離をおいて構えを取る。
お尻を振り振り、タイミングを見計らって・・・一斉に蜂の子に飛びつく。
「あぁ、かわいい!ねぇねぇ、動画とか取れないのかな・・・スマホ欲しい!」
「フットマン達もみょんみょん様のためとあらばいつでもその姿を披露します。撮影の必要はございません」
今の私は十分すぎる変態なのだが、ふみちゃんも双子ちゃん達も、ドン引きしないでいてくれる。
それだけでもめちゃくちゃありがたい。
「あ、そうだ!ふみちゃんにもお願いしたいことがあって・・・」
「はい、どのようなことでしょうか」
「えっとね、ふみちゃんが嫌なら断ってほしいんだけど・・・その、ふみちゃんの本体・・・見てみたいな~と思って・・・」
ふみちゃんは私の影武者という設定でキャラクタービルドしていて、ゲーム内のアバターも瞳の色が違う以外は私と全く同じアバターを使用していた。
が、その姿は影武者としての偽りの姿という設定だった。
私は設定欄に「実はその外見は、糸で作ったものであり、本体は白く小さな蜘蛛である」と書いていたのだ。
もし設定欄に書いたことが、この世界で忠実に再現されているのであれば、ふみちゃんの本体は白い小さな蜘蛛だ。
みんな蜘蛛族の初期アバターだったフットマン達が私の心の目で見ていた姿で動き回っているのだから、ふみちゃんの設定も再現されていておかしくない。
なお、双子ちゃんも同様、外見は糸で作ったものであり本体は別の姿、という設定だ。
今日はこの3人が、設定した設定どおり本体は別の姿なのか、それを確認したくて連れて来たのである。
「はい・・・」
ふみちゃんは一瞬困惑したような顔をしたが、すぐにいつもの上品な笑顔に戻り、特に恥ずかしがるそぶりもなく了承する。
「・・・御前に」
微笑むふみちゃんの手のひらには、こぶし大の真っ白なもふもふが乗っている。
そのもふもふには8本の脚が生えており、掲げられた第一脚からはたくさんの糸がふみちゃんの体にのびていた。
私が両手を差し出すと、真っ白なもふもふが私の両手に飛び移る。
同時にふみちゃんの体から力が抜けて、ガクンと脚を折る。
そして人形のように無機質な笑みを残して動かなくなった。
つまりこのふみちゃんの体は抜け殻、手の上の真っ白なもふもふが本当のふみちゃんだ。
設定で書いたとはいえ、本当に便利だな、織糸スキル。
「すごい、真っ白!きれい!もふもふ!!」
ふみちゃんは設定欄に「もふもふでその撫で心地は最上級」と書いていたこともあり、至上のもふもふだ。
腹部背面をなでるとふみちゃんの熱と呼吸の運動と心臓の拍動が感じられる。
命ぃ!
「ギギ・・・ギギ・・・(光栄に存じます)」
この姿だとふみちゃんもうまく発語ができないようだが、フットマン達と同様になんとなく言いたいことはわかる。
「「みょんみょん様、お下がりください」」
ふみちゃんを撫でることに夢中になっていると、急に単ちゃんと竺ちゃんが私の前に出た。
どうやら、目の前の藪に何かいるようだ。
「隠れてないで出てこい」
「出てこないのなら攻撃するぞ」
すると10mほど離れたやぶの中から、ゆらりと何かが立ち上がる。
なんと・・・人だ。
「あの・・・神蟲様・・・何か・・・たべものをください!!」
立ち上がったそれはそう言うと、再びやぶの中に倒れこんだ。




