1-4. 巣の経営(5)
昼ごはんの時は自分の部屋に食事が運ばれてきて、私のおつきフットマンであるAちゃんがかいがいしく世話をしてくれた。
Aちゃんはフットマンのリーダーという設定のある子だ。
ゲーム内では初期アバターだったが、こっちでは設定欄に書き込んでいた姿通りになっていて、つまりは巨大なアシダカグモの姿だった。
蜘蛛好きな私でも、部屋に全長1mほどの巨大なアシダカグモがいるとちょっとびびった。
それでも、触肢と第3脚を使って丁寧に料理を運ぶさまは蜘蛛好きとして少し感動する。
「夕飯はみんなと一緒に食べたいかな」
せっかくNPCと会話ができるようになったのだし、みんなのことをたくさん知りたい。
そう思って昼ごはんを食べ終わったときにAちゃんにお願いしたのだった。
Aちゃんは慌てたように「ギギギッ(了解しました)」と鳴いた。
蜘蛛には声帯がないので声が出ないが、デスウィーバーはモンスターなので鳴けるらしい。
発語はさすがにできないので詳細まではわからないが、私にはなんとなくフットマン達の言いたいことが分かった。愛ゆえに。
そういう経緯があって、夕飯は準備ができると食堂に呼ばれた。
部屋を出ると、広間で全員畏まっていて、私が食堂に入って一番奥の長いすに腰かけたところで、みんなが部屋に入ってきて席に着く。
う~ん、もう少しみんなと距離を詰めたいのだが、どうすれば仲良くなれるだろうか。
テーブルには人数分のカトラリーが並べてあって、私のだけ数が異様に多い。
何品出てくるのだろうか・・・
しばらくするとコック姿のちろちゃんがキッチンカートに乗せた料理を運んできて、私の前に料理を並べる。
ちろちゃんはレベル86でアイテム生成系の職業をとっている。ポーションなどのアイテム作成でも活躍しているのだが、料理系アイテムが得意分野だ。
姿は仲間NPCの中でも珍しい蜘蛛らしい見た目の子で、2足歩行だが腕が6本あり、脚が短く胴がまるいずんぐりむっくりした見た目で、デフォルメされた大きなおめめが魅力的なかわいらしい子だ。
「一品目は飛竜の目玉のテリーヌでございます」
目玉がきれいに並べられてこっちを見てるのは、美的感覚の差異によるものだろう。
感性の違いというやつだ。
「わ、ワイバーンはこっちにもいるのね」
「みょんみょん様をお迎えに上がる道中で数体仕留めました。飛竜は美味ですので、すべて下処理をして保存しております」
意を決して口に運んでみると、これがなかなかにおいしい。
周りのゼリーの味でごまかされているだけかもしれないが。
そこで周りの仲間NPC達の方を見ると、お皿の上にはハンバーグのような四角いミンチ肉を焼いた塊のような料理が出されている。
野菜も何もないので華やかさには欠けるが、なかなか文明的な匂いがする。
さすがちろちゃん、ナイス。
その肉料理をみんなナイフとフォークで食べている。
濃ちゃんみたいにナイフが使えずに、にぎりしめたフォークを豪快に突き刺して文庫本サイズの肉料理をほぼ一口で無理やり詰め込むような食べ方をする子もいれば、カラス君みたいにちゃんとナイフとフォークを使っている子もいる。
特にここちゃんとふみちゃんの所作は優美で、私の方が彼女たちを参考にしたほうがいい。
にしても、みんなやればできるんじゃん!
NPCたちの食事はお代わり自由のようで、一つ食べ終わるとフットマン達に次を要求していて、みんな個性が出ていて面白い。
「ねぇねぇちろちゃん、他のみんなは何を食べているの?」
「先ほど大量に入手した蜂の肉をミンチにしたものメインに、食料班が入手したそのほかの肉を配合したものでございます。」
「いやぁ、1,2個目はおいしいんですけどね、おかわりも4個目くらいになるとなんか糞まずいの出てくるんすよ~。谷を少し下ったところにうじゃうじゃいる虫らしくって、まずいんですけど腹の足しになるからって出されるんっす」
さっきから話をしたくてうずうずしていたらしかった薄ちゃんだったが我慢できなくなったらしい。
私はおしゃべりしながらご飯を食べたいので、話をしてくれるのは非常に嬉しい。
「そうなの?」
「味は悪いですが、あの虫はビタミンとカルシウムが豊富で脂肪が少なく、栄養素という面では非常に優秀な虫です。眷属の食事として最適かと」
薄ちゃんに不味いと言われたのがちろちゃんの気に障ったらしい。
「肉に味の違いなんかねぇだろ」
「兄貴は食えれば何でもいいんだろ~けどさ!つか、その草の根っこばっかりまざった偽物の肉なんてよく食えるな!!」
もう10皿目くらいに突入した濃ちゃんの肉料理は、ここからみてもにんじんがふんだんに使われていることが見て取れる。
薄ちゃんと濃ちゃんが話し始めてくれたおかげで、他の子たちもぽつぽつと会話し始めている。
うんうん、食事はみんなで楽しくした方がいいよね。
「5品目は一角獣の新鮮な血液で作ったグラニテ、一角獣の目玉添えでございます」
ああ、もう、だから美的センスが合わないのは勘弁して!!!




