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1-3. 急襲(5)

カラスがホームの入り口に着いたときには、入り口から飛び出している主の背中が見えただけだった。

入り口には小さな血だまりがあり、蜘蛛のものと思われる脚が散らばっている。

それとは別にモンスターと思われる大型の蜂が転がっていた。

胸部で一刀両断にされており、一瞥して死体だとわかる。


傷を負っているとみられるフットマンのCが外に向かって「ギィ、ギィ」と鳴いていた。


「お前はここにいろ」


Cにそう言い放ち、カラスは外に飛び出す。


ホームは本来、山のすそ野にあった。

だが、今はホームの外は断崖絶壁、下はどこまで落ちるかもわからない、深い谷となっていた。

幸い、谷の幅は狭く、そそり立つ絶壁も蜘蛛にとっては足場も多く、下るのに困難は多くはない。


しかし、主は織糸スキルを使ってほぼ垂直に落下しながらの移動であり、カラスには全く距離が詰められない。

その点、よんよんも織糸は得意分野であり、主にしっかりとついて行っているようだ。


「ちょっと待ってって!俺っちを置いていかないで!みんな早いよ~~」


上からうるさい声が聞こえてくる。

薄墨もついてきているようだ。


それにしても時折躓くようなそぶりがあったとはいえ、昨日まで歩けなかったようには見えない主の素早さだった。


カラスは出来るだけ主との距離を詰められるように急ぎながら、今起こっていることを推測していた。


いつも門番であることを誇らしげに入り口に詰めているBとDがいないこと

入り口には蜘蛛の脚が転がっていたこと

文字通り真っ二つになった、討伐済みの蜂型のモンスター


推定でしかないが、おそらくBとDは蜂型のモンスターの急襲を受け、奴らの餌として解体されて連れて行かれたのであろう。

何故だかそれを主は感知し、入り口に向かったところでまだ残っていた蜂型モンスターに遭遇し、一刀両断にした。

その後主はどこかに向かって走っている。

どこに向かっているのか?

考えられるとしたらBとDを連れ去った蜂を追いかけているのではないか?

蜂はどこに逃げているのか?

敵を迎撃しやすい場所または食料を貯蔵する巣・・・


カラスは脚に力を入れ、今まで以上に強く壁を蹴る。

そして右目を手で覆った。


敵がどれほど強いかはわからない。

入り口に転がっていた敵モンスターは、一瞬で倒されていたことから低レベルモンスターだろう。

しかし、あれは恐らく働きバチで、この先により上位の高レベルの蜂が待ち構えている可能性は高い。


しばらく下ると、カラスは主が入っていった横穴にたどり着いた。

横穴の先は暗闇で見えなかったが、けたたましい羽音が響いてくる。

おそらくかなりの数だ。


洞穴に入って暗闇を右目で見ると、おびただしい数の蜂モンスターに主が手間取っているのが見えた。

主は無数の蜂モンスターに取り付かれ、巨大な団子のようになっている。


「ああ、鬱陶しい!!」


幸い、主は低レベル攻撃無効スキルという一定レベル以下の攻撃ではダメージを受けないパッシブスキルを持っているため、蜂モンスターの猛攻にも全くの無傷のようだ。

しかし、あれだけまとわりつかれるとさすがの主も前進できないようで、周りの蜂をがむしゃらに攻撃していたずらに蜂の死体の山を築きあげている。


「みょんみょん様、一度お下がりください!!」


カラスは声を張り上げる。

十分に近づいたとはいえ、その声は羽音にかき消された。


カラスにも大量の蜂がまとわりついてくる。

低レベル攻撃無効スキルがあるので痛くはないが、まとわりつく蜂達の熱で蒸し殺されそうだった。

さらに蜂は顔にもまとわりつき、うかうか呼吸も出来なかった。


「みょんみょん様・・・っ」


それでもなんとか主を救出しようと、カラスは懸命に腕を伸ばす。


「おぅら、クソダサくて魅力の欠片もねぇ女王に飽きたのは仕方ねぇけどよ、お前らの相手は俺っちがしてやんぜぇ!!」


カラスの背後から、そんな声が響いた。

同時にギュリギュリという不快な音が蜂達の触角を震わせた。


それまで主やよんよん、カラスにまとわりついていた蜂達が、一斉にその方向を睨みつける。


声の主は薄墨だ。

挑発というスキルを使って、蜂の意識を自分に集中させたようだ。


「薄ちゃんナイス!」


蜂の意識が薄墨に向かった隙をついてすかさず走り出した主に、カラスはぴったりとついて行く。

カラスも眷属の中ではAGI(素早さ)は高い方だ。


「みょんみょん様、止まってください」

「この先にBちゃんとDちゃんがいるの!助けなきゃ!!」


そう言う主の目は赤く光っていた。


カラスの目の前には蜂の巣らしき大きな構造物が見える。

どうやら主はそこに入っていこうというらしい。


『濃墨、聞こえるか?』


カラスは伝達<コール>で濃墨に話しかける。


『カラス、みょんみょん様は??』

『今のところお怪我はない、それより、誰がこっちに向かっている?』

『ろくろと、はっちはさっき俺を追い抜かしていった!』


続けざまに伝達<コール>でろくろとはっち、そして横にいるよんよんに話しかける。


『俺とよんよんはこのままみょんみょん様を護衛する、行先は恐らくやつらの食料庫だ。ろくろとはっちは女王蜂を撃破してくれないか、蜂が多くてかなわん』

『了解だ、任せろ』

『が、頑張りますぅ・・・』


未知の敵に戦力不足は否めないが、あまりの敵の数に頭を撃破する方がいいとカラスは判断した。

その提案に後ろにいるという2人も乗ってくれるようだ。


主はファイヤーボールで敵の巣の壁面を破壊すると、微塵の躊躇もなく敵の巣に突入する。


何が何でも主だけは守る


作戦でも何でもないが、いつも通りそうするだけだ。

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