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1-1. 異世界転移(1)

前略

お母様


勝手に死んでしまってごめんなさい。

親不孝な娘でしたね。

私はというと今、異世界で逆ハーレムをやっています。

それなりに楽しんでいますので、心配しないでください。


かしこ



・・・ことのはじまりはあの日だった。

挿絵(By みてみん)

Ⅰ 神蟲の来訪

1.異世界転移


あと10分。


私こと神原美音は真昼間からゲームをしている。


「剣と魔法のメガラニカ」、通称「メガラニカ」


自由度の高さが売りの人気オンラインゲームで、私はこれにドはまりしている。

今日は夜勤明けでたっぷりゲームができると意気込んでいたのだが、13時から緊急メンテナンスが入ることが決まったのだ。

今日こそは仲間NPCのレベリングをしようと思っていたのに出鼻からくじかれた。

そう、きっとすべてコロナが悪い。そうに違いない。絶許コロ。


あと7分。


仲間NPCの一人、ふみちゃんは目の前にいるこのモンスターを撃破すればレベルアップできる。こいつらを4分で倒して、1分でホームに戻って、ログアウト。完璧な計画だ。


がむしゃらに攻撃ボタンを連打していたところでヘッドギアからけたたましい警告音が鳴りひびいた。


「あと5分で緊急メンテナンスとなります。

すべてのユーザーはログアウトお願いいたします。」


運営からの警告だ。


最近、メンテ前に運営の警告が入るようになった。

なんでも、有名プレイヤーがこのゲームをプレイ中に亡くなったらしいのだが、その原因がメンテに入るタイミングでもログアウトしていなかったからだという。

私みたいなポンコツ看護師にでもわかる、荒唐無稽な作り話だ。


あと2分。


思ったより手間取ってしまったが、なんとかなりそうだ。

ゲームの仕様上、最後の一撃を放ったキャラクターが経験値を一番多く獲得できるので、面倒だがふみちゃんに決めてもらわないといけない。


「ふみちゃん、おねがいしますよ・・・っと」


他の仲間NPCに攻撃をやめさせ、ふみちゃんにファイアーボールという火属性の魔法を使うように指示する。


ふみちゃんから放たれた火球が敵モンスターに直撃した・・・その直後


燦爛たる光に視界を奪われる。


あまりの光量に驚いて椅子から転げ落ちて腰を落とした。

するとどうだろう、何故だか地面が熱い。


閉じていた目を開けて地面を確認すると、そこには砂漠が広がっていた。


「え・・・ここ、どこ・・・?」


さっきまで自分たちは平原のフィールドで戦闘していたはずだ。

しかし、眼前には見渡す限りの砂の大地が広がり、照り付ける強い日差しが肌に痛い。

・・・痛い?


思わずヘッドギアを外そうとして、ヘッドギアがないことに気づく。

瞬時に、その視界に見えている世界が、ヘッドギアのモニター越しの映像ではなく、己の眼球を使って脳が認識している現実だということに気づいた。


「みょんみょん様、お怪我はございませんか」


みょんみょんとは私のプレイヤーネームだ。

呼びかけられたその声に視線を上げると、髪の長い女性が心配そうに自分を覗き込んでいた。だが、その女性の下半身は人間とは違う異形の姿であり、見慣れているはずの私も一瞬たじろいでしまった。


「ふみちゃん・・・だよね」


その姿は仲間NPCのふみちゃんのものだった。

ただし、本来NPCは表情が変わったり会話したりはしない。


「はい、ふみです」


ふみちゃんは淑やかな笑顔で答え、両手を差し出した。

私は立ち上がろうとその手を取ったが、立ち上がる途中でバランスを崩してまた座ってしまった。


自分に脚が、4本ある。


正確には8本ある、腕が4本で足が4本だ。


そこでやっと、自分が目の前のふみちゃんとおなじ、異形の姿をしていることに気づく。

それは「メガラニカ」のゲーム内で自PCが使っていた姿だ。


アラクネ。


そもそもはギリシャ神話に出てくるものらしいが、「メガラニカ」内では上半身が人間で下半身が蜘蛛の化け物だった。

私はアバターを特注したので細部は少し違うのだが、上半身が人間で下半身が蜘蛛という基本スタイルは変わらない。


「だ、大丈夫でしょうか」


ふみちゃんは座り込み、今にも泣きだしそうな顔で私の様子をうかがっている。


すると、地面が緑色にうっすらと光り、砂からの熱とは違う柔らかな温かさに包まれる。


「脚を怪我したんですか?治癒<ヒール>で間に合いますかね・・・」


後ろから声をかけてきたのはチンピラ風の大男、仲間NPCの濃墨君だ。

どうやら私が立てずに転んだのを、脚に怪我でもしたせいと思い、治癒魔法をかけてくれたらしい。


だがしかし、私が立てないのは急に2足歩行から4足歩行の生物にクラスチェンジしてしまったせいであって、怪我をしているわけではない。


ついでに補足しておくと、私とふみちゃん以外は二足歩行だからね。

私は蜘蛛好きだけど、一般婦女子らしくまっとうな人間のイケメン好きでもあるのだ!


「だ、大丈夫なの、ふみちゃんも濃ちゃんもごめんね、治癒<ヒール>も不要よ」

「でも、日差しからみょんみょん様を守る盾は必要っすよね??俺っちにお任せください☆」


そういいながら巨大な盾を持ち上げて、私のために影を作ってくれたのは仲間NPCの薄墨君。ちょっとチャラい雰囲気の赤毛の優男だ。


「いつでもどこでも24時間、みょんみょん様をお守りする盾、薄ちゃん君に何でもかんでもお任せくださ~~い☆」


そういって薄ちゃんは満面の笑みを浮かべ、得意げに盾を振る。


「ふふ、ありがとう」


生き生きと動く仲間NPCを見ていると、非常事態だというのに思わず笑みがこぼれた。


「みょんみょん様。索敵<エネミーサーチ>を行いましたが、周囲1kmエネミー反応はありません。現在の座標は34.6551、133.9195・・・座標ではヨニ平原のはずですが・・・」


左側から声をかけてきたのは仲間NPCのカラス君だ。

黒髪の小柄な男性で、探索を得意とするキャラクターだ。そして、こういう非常時に頼りになるスキルを多く所有している。


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