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8.入学

 適性試験が終わって数日が経ち、スキルレベルの鑑定結果をライガやフラウに話したり、グロース領内にある呉服屋で制服の採寸をしたりといった動きがあった。


 ライガにスキルレベルの鑑定結果を話すと満足そうにしていた。〈ウォーデン〉の他のメンバーに稽古をつけてもらうように頼めばさらにもっと上を目指せると言われたが、「考えておきます」とだけ返しておいた。


 入学案内が速達で届き、ライガに許可をとって早速目を通す。最初のページには編入クラスの名簿が載せてある。武術のクラスに自分のヒューガ・グロースの名前があることを確認する。授かったギフトの欄には斜め線が引かれている。改めて書面で突きつけられると辛いものがある。デクランの名前もあり、授かったギフトの欄に槍術と書いてあった。総勢で40名の名前があり俺以外全員ギフトの欄に武具の名前が書かれている。

 他にも魔法や知識のクラスに編入される学生の名簿もあったが、関わりがあまりないだろうと思い読み飛ばした。


 次に入寮の案内に目を通す。生活に必要なものはほとんどは寮に揃っており、不足したらどこに申請すれば良いかも書いてあった。また授業で使用するものは人数分全て支給される。授業で使う教科書や筆記用具、訓練用の木製の武具なんかもそれに該当する。なので俺の場合は最低限の肌着と制服と、あとは片手で持てるくらいの荷物を持っていけば事足りるだろう。


 自分にあった家具なんかは自分で作ろうと思っていた。この家で使っているものも成長して身体の大きさが変わるたびにせっせとDIYをしたものだ。土魔法を練習すれば粘土製の家具なんかも作れると図書館で借りた本で読んだことがあるので、それを試してみるのも良い。昼間には学校の外に出て買い出しや用事も済ませられるようだ。


 しかし一番気にかけていることは物やお金のことではなく、こちらの世界でもすっかり日課になった朝の散歩のことだった。学校の敷地内では満足できそうな散歩コースを確保できそうにない。校庭は寮の窓から中にいる人と目が合う距離だ。できれば人目を気にせず歩きたい。残りの開けた場所は武術の授業で使う広場くらいで、そこを散策するくらいしかない。しかしあそこも校舎や塀で囲まれており景色が良くない。


 できれば校舎の外に出て早朝の街の空気を吸いたいが、規則の欄を見ると入寮者には門限があるとのこと。朝9時から夕方17時までは校舎の外に出て良いがそれ以外の時間は校門が閉まってしまう。さらに朝8時の朝食、18時の夕食に学校の食堂に姿を見せていないと処罰の対象になる。在学生を守るためというのは理解できるが、俺にとっては良い迷惑だった。


 「抜け出すか・・・」

 リビングで入学案内を読みながらぼそりとつぶやく。だが毎朝監視の目をかいくぐってまですることではない。もし見つかったりして問題になってライガやフラウに心配させるのも申し訳ない。ただでさえフラウには体のことを心配されている。

入寮すると決めた時は当然のように寂しくなるとフラウがごねたので、1週間の授業が終わったら帰省し休みの日はグロース領の家で過ごすことが家族会議で決まった。なので週末はこちらに帰ってきてグロース領の空気が吸える。


 入学案内のページをさらにめくると詳細な日程が書いてある。

 フリーデン養成学校には入学式といったものも無いらしく、授業の初日は初学年の学生全員が入れる大ホールでガイダンスがある。そこで初めて学生同士の顔合わせと教官方の紹介がある。授業内容の説明もあり、クラスごとに必修の訓練や選択授業の内容がそこで分かる。おもしろそうな授業は全部受講してみたいが、この身はひとつなのでそこで話を聞いてじっくり考えよう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 入寮日、つまり初回授業の前日。午前中に荷物をまとめた後昼食をとり、フリーデン養成学校に向かう馬車に乗り込む時間になった。


 「身体には気を付けてね。これ、お弁当。初日は食堂やってないから夕方に食べてね。あと、週末は必ず帰ってきてね、それから・・・」「わかった、わかったよ母さん」

 心配そうな表情をしているフラウをなだめながら馬車に乗り込む。


 「いってきます!」「おう!頑張れよ!」「いってらっしゃい」

 馬車の窓から顔を出し、両親にいってきますの挨拶をした。見えなくなるまで互いに手を振った。


 1時間ほど馬車に揺られ学校に到着し、校舎の玄関前に寮の名簿が張り出されていたので部屋の番号と場所を確認する。ヒューガ・グロースの名前を見つけるが、ルームメイトになる予定だったもう一人の名前の横に〈入学辞退〉とある。どうやら俺一人の部屋となるらしい。俺自身人見知りだし、朝散歩するときに起こしてしまうかもしれなかったので都合が良かった。


 寮の玄関に入り鍵を受け取る。渡り廊下を進むと、既に荷解きを終え談笑している学生もいたし、大量の荷物を持ってきて部屋に入りきらず廊下にはみ出させている者もいた。入寮する本人と思しき子供の他に数名の大人がせわしなく動いている。・・・まるで引っ越しだな。しょうがないなあと思いつつ、荷物に接触しないようにして横を通る。


 寮の一階の渡り廊下を進んだ一番奥の部屋。支給された鍵の番号を確認し、鍵を開けて入室する。部屋の広さは大体6畳くらいだろうか。十分な広さだ。埃っぽさもなくきれいに掃除されており支給されているタオルやベッドシーツは清潔そのものだった。他の備品の確認をする。辞退した学生の分の物が少ないようだ。机とベッドもひとつずつだった。


 荷解きをし、制服の上着やズボンをハンガーにかける。肌着や靴下はいつでも取り出せるように収納に入れる。グロース領の自分の部屋で使っていた筆記用具なんかも持ってきていたので机に並べてみる。


 そうこうしているうちに部屋の窓から外を見ると既に日が沈んでいた。流石に隣や向かいの部屋の学生には挨拶しておこうと思い廊下に出たが、既に誰もおらず静まり返っていたので明日以降にしようと思い、何もせず部屋に戻った。


 お腹がすいていることに気が付き夕食にする。フラウが持たせてくれた包みを開けるとパン、サラダそして鶏肉のスープが入っていた。いつも夕食に食べているものだ。味も量もほとんど同じ。わざわざ作ってくれたことに感謝し、味わって食べた。


 食べ終わり、火と水の魔法でお湯を作り支給品のタオルを濡らし体を拭く。寮には入浴場があるらしく、そこで学生は身体を清めるみたいだが俺はこれで十分だ。前世で生きていた頃から裸の付き合いというのはどうにも好きになれなかった。おそらくこれからも夕食後はこうしてひとりで部屋でゆっくりすることになるだろう。時間は早いが、移動で疲れたので今日はもう寝よう。


 ベッドに横たわり、明日からの学校生活に思いを馳せる。期待と不安が入り交じる。剣術が十分身についているとはいえ現状に胡坐を搔きたくない。得意な武具を身に着けている準備万端な状況以外の、実践に近い訓練をしてみたい。またそれ以外にも魔力という概念に触れて、試してみたいこともある。


 不安もある。・・・またノーギフト呼ばわりされるのだろうか。毎度毎度死ぬつもりはないと言うのか、と考えるだけでうんざりしてしまう。また、権力を振りかざしてくる輩はデクランだけとは限らない。名簿をざっと見ただけでも半数以上が伯爵以上の高貴な身分出身の学生だった。あのように他の学生も絡んできた場合、今度は剣術を使わないようエドワード校長から釘を刺されてしまっている。


 適性試験の時の校長との会話を思い出す。〈まわりは怪我ではすまない〉ーーー確かにそうだ。武術や魔法を訓練する授業ではある程度の怪我は想定されているみたいだが勢い余って殺してしまっては元も子もない。そうならないように武術のクラスメイトとは良好な人間関係を築き、共に切磋琢磨したいものだ。剣術以外の武術スキルを習得するのは勿論、こちらにはせっかく読心術があるのだから有効活用できるよう努力しないとな・・・。


 そんな事を考えるているうちに眠ってしまったようだ。気が付くと、朝目覚めるいつもの時間だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


第一章 転生と幼年期は以上になります。お読みいただき感謝します。

小説を書くのは初めてですので更新頻度遅めですが最後までお付き合いいただけますと幸いです。

またブックマーク、評価していただけるとモチベにつながります。よろしくお願いします。

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