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7.入学試験

 入学試験の日の朝。本来ライガとフラウも同伴する予定だったが、どちらも外せない緊急の仕事が入ったとのことで一人で臨むことになった。


 「校門前までいく馬車は予約済みだ。当日の朝に馬車が来て出発から1時間ほどで到着するはずだ。まあお前なら俺たちが付いていなくても心配いらんだろう」


 ライガにそうは言われたが、一人で大勢の人がいるところに行くとなると途端に緊張してきた。それにこの世界でノーギフトというのは圧倒的少数派。仲間外れにされたり、最悪いじめられたりしないだろうか・・・。などと考えているのもつかの間、馬車が停車する。

 「到着しましたよ。運賃は頂いています。良い1日を」


 業者に言われるがまま下車する。校門に取り残される形で馬車は去っていった。少し心を落ち着かせた後辺りを見渡すと、わかりやすく試験受付と看板が掲げられていたのでそこに向かう。


 「次の方どうぞ。あなた一人?親御さんは今日いないの?一人でこれて偉いわね、受験票を見せて」

 言われた通り受験票を見せると受付嬢が表情を曇らせる。


 「あなたがグロース家の子供ね・・・ギフトを授からなかったとか」

 まるで腫れ物を見るような視線を送ってくる。どうやらノーギフトの子供が受験しにくることは知られているらしい。周りの受付も「かわいそうに・・・」などと言いながら嘲笑している。口元を隠していても聞こえてるんだが。辺り一帯が騒然となる。珍しいのはわかるが、あからさまに引かれてしまっているのは普通に傷ついた。早く試験を終えて家に帰りたくなってきた。


 「あのー・・・試験会場はどちらですか?」「ああ失礼、武術のクラスを希望する子はこれ。この紙を持って案内に従って進んでください」


 案内表を押し付けられるように、邪険に扱われた。しゅんとしながら試験会場に向かった。


 案内表の通りに校内を進むと広場に出た。校舎から見て広場の入り口には「訓練場」の看板が壁に掛かっていた。広場は土が固く踏み固められておりかなり広い。ところどころに何かを示した白線が引いてある。広場の中央に木製の武具が揃っている。

 どうやらここが試験会場らしい。試験時間にはまだ時間があるので辺りの様子を伺うことにする。試験を受ける子供の数を数えると40人ほどだろうか。来賓は別室で待機させられるらしく、大人の姿は無かった。


 「おーい!今年はギフトをもらえなかったやつがいるらしいなぁ~?どいつだぁ?」


 身なりの良い男子が大声を出しながら歩き回っている。まだ指示もされてないのに勝手に木槍を持ちだしている。何か用でもあるんだろうか?


 「・・・それ僕だよ」「お前か。ノーギフトらしいじゃないか」

 言いながら子供がこちらに振り返る。にやついた表情を浮かべながら近づいてくる。


 「ギフトもらえなかったら15歳で死ぬんだろ?ここを卒業するまでの命なのに大金払って学校通ったって無駄じゃんかよ?」

 初対面でいきなりお前呼ばわり。その上高圧的な態度だった。在学中は子供の戯言なんてある程度聞き逃そうと思っていたが、これは挑発と受け取って良いのだろうか。


「そうかな?その記録だって曖昧だし、身体はこの通り健康そのものさ。それに初対面にしちゃえらく馴れ馴れしいじゃないか」「馴れ馴れしいだと?ハン!僕は偉いからいいんだよ!僕の名前は公爵家次男デクラン・ワイルドハート!この国の由緒正しき貴族の家系の血だ!それにギフトを授かってから毎日稽古をつけてもらって槍術のレベルも2になった。すごいだろ!」


 こちらの基準で捉えると相当低いが、入学前にスキルレベルをあげたのだからそこそこ努力はしたんだろう。


 「レベル2まであげたんだね。すごいね。すごいすごい」

 手を叩いて努力の功績を称える。しかし棒読みだったのと顔が無表情だったのが癪に障ったらしい。デクランはみるみるうちに顔を赤らめる。煽り耐性というものが無いのだろうか。


 「この学校はお前みたいな才能が無いやつが来るところじゃない!僕の強さを見れば絶望するだろう!相手してやるから武器を持て!」

 試験を受けに来る子の力量を見ておきたいとも思っていたので、ちょうど良いと思った。周りの子供たちは見ているだけで止める様子もない。木製の武具の中から剣を選び、手に持つ。他の武具でも良かったけど向こうから相手しろと言われたんだし、容赦はしない。2人向かい合って武器を構えていると、


ー待てーぃ・・・ー


 遠くから呼び止められる声がする。声がした方向を見る。教官と思しき人物が校舎の中から慌てた様子で駆け寄ってくる。


 「ハァ、ハァ、ふぅ。探したぞグロース家の息子よ。お前たち、まだ試験は始まっておらんのになぜ武器を持って向かい合っておるんじゃ?それにライガは今日来ておらんのか?何も話を聞いておらんのか」


 見た目は還暦といったところか。白髪が混じっているが整髪されており、眼鏡をかけ目元にしわが入った知性を感じさせる風貌をしていた。ジャケットを羽織り全体的に気品の感じられる服装だった。


 「失礼、私は校長のエドワード・スペルウッドと言う。君は模擬戦などしなくとも良い。こっちにきたまえ」


 この人がライガの言っていた校長先生らしい。俺は素直に剣を下ろし、元あったところに片付けた。デクラン以外の他の子の様子もみておきたかったのでもう少し居たかったが、校長に捕らえられ連行されることとなった。


 「ふん、僕の槍術を試す良い機会だったのに。入学するならもう一度勝負しろよな」


 デクランの発言に一緒に歩いていたエドワード校長は立ち止まって振り返る。


 「黙らんか!貴様は今命拾いしたのだ!」「ヒィっく」


 公爵の子供に向かって効き手で指を差し、ものすごい形相で一喝した。この国の中央貴族を貴様呼ばわりである。デクランは息を詰まらせたような変な声を出し、その場で尻もちをついてしまった。

 〈教官は社会的な身分など関係なく正しく学生を導かねばならない〉と言わんばかりの、校長の激しい一面を見た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 校舎に入り、渡り廊下を進む。後ろをついていくこと5分くらいだろうか、校長が重厚感のある部屋のドアを開ける。ドアの横の壁に校長室と書かれている。


 「入りたまえ」「失礼します」「うむ」


 校長に続いて部屋に入り、静かにドアを閉める。校長はどかりとソファに腰かけ、テーブル上のティーカップに淹れてあった紅茶を飲み干す。


 「ふぅー・・・驚かされるのぅ。今日の事もそうじゃが、まさかあのタイガの孫がギフトを授からんとは。掛けていいぞ。茶でも飲むか?菓子も食べていいぞ」「あ、ありがとうございます」


 校長は初対面にも関わらずフランクに接してくれた。その歓迎してくれる姿勢が、こちらが緊張していたのでありがたかった。喉が渇いていたので取り敢えず飲み物だけ頂くことにする。


 「儂とお主の家のこととの関係なんぞ色々聞きたいことはあるじゃろうが、簡潔に言えば先の大戦のときに助けられたんじゃ。詳しい話は入学後時間があるときにでも聞かせてやろう」


 世間話をしながら、おもむろに校長が立ち上がる。


 「さて、スキルレベルを計測して欲しいとライガに頼まれておる。儂が直々に鑑定してやろう。どれ、こっちにきてこの装置に手をかざせ。装置のここじゃ」「こうですか?」


 前に教会で見たような水晶に少しごちゃついた装置が取り付けられている。言われた通りにすると透明だった水晶がたちまち真っ赤に反応し、激しく震えている。装置の反応を見た校長は目を見開く。


 「む!?手を離せ。装置が壊れてしまう」

 言われた通り手を引くと、装置の振動が止まり、元の透明色に戻っていく。校長が装置をもう一つ用意し接続する。装置の回路を直列につないだようだ。


 「入学前の子供でこんな装置の使い方をするのは前代未聞じゃよ。どれ、もう一度手をかざしてみなさい」

 再度装置が真っ赤に反応し、つないだ方の2つ目の水晶も薄く赤く反応している。


 「お主一体何者じゃ?こんなことあってはならんぞ。ヒューガ・グロースよ、君の剣術レベルは7じゃ。入学前にして君の父親の域に達しておる」

 ギフトとスキルについて書いてある本で剣術のスキルレベルについて確認済みだ。ライガと毎日武技を使って打ち合っていたのでそのくらいかなと予想していた。


 「そうですか」「驚かんのか!?何かの冗談かと思ったが、まあお前さんのぶ厚い皮した掌を見てなるほどとも思ったんじゃ」

 装置に手をかざした時に見たのだろう。校長は学生の見た目や言動などから才能を見抜くことに慣れているようだ。


 「実はライガと話して今日の鑑定をする前に武術のクラスに入ってもらうことは決めておった。じゃが授業が始まったら武技は絶対に使用してはならん。中には貴族の家から来ている高い身分の人間もおるから挑発もされるじゃろうが、そこは堪えてくれ。できれば学校の構内で剣に触れることも禁じたいくらいじゃ。周りは最悪怪我ではすまんからの」「わかりました」


 流石に剣術の伸びしろはもう無いと思っていたので、フリーデンでは他の武術を教わろうと思っていた。ライガ以上につきっきりで剣術を教われる育手も他にいないというのもある。傍に剣が無い場合の戦い方や、他の武術にも興味はあるし、馬上の戦闘もできれば経験しておきたい。


 「随分聞き分けがいいな・・・普通スキルを習得したら気持ちが高ぶって他人に見せたがるもんじゃ。お主のその謙虚な姿勢は気に入ったぞ。戦争で傷を負ってしまった平和を願う父親の教えか?ふぉーっほっほ!まあ良い」

 俺の言動がこうなのは単に目立ちたくないし、他の学生と波風を立てたくないからだ。力を誇示してマウントをとる趣味も無い。校長には謙虚な姿勢だと前向きにとらえられたようなので良かった。


 ーゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・ー

 低めの音の鐘の音が校内に響き渡る。


 「む、試験が終わる頃合いじゃ。迎えの馬車も来ているだろうしそろそろ帰りなさい」「はい。今日はありがとうございました」「うむ。また会おう」


 面談している間校長は終始上機嫌だった。帰りの馬車で食べるよう菓子の包みや飲み物が入った水筒を持たせられそうになったが遠慮した。

 なんかすごい子供扱いされている気がするな・・・。そんなに甘いものは食べないので、美味しすぎる紅茶が入った水筒だけ受け取った。

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