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6.ギフトとスキル

 教会にいってきた次の日の早朝。

 目覚まし時計は使わずにいつもの時間に目覚める。着替えて顔を洗い、家の外に出ていつもの散歩道を歩く。

 心地よい穏やかな風が流れ草同士がこすれあうサァァーという音がちょうど良いBGMになっている。今日も良い天気だ。

 遠方に視線を移す。モンテブルグ山脈は今日も雄大で美しい。


 昨日とは打って変わって心配事もなく頭を空っぽにして歩く。両手を広げ、足は肩幅くらいに、顔を少し空に向け深呼吸する。実にすがすがしい気分だ。10分ほど自然を堪能した後、家に戻る。


 昨日は色々あったが今日からいつもの日常に戻る。

 いつものように家族3人で朝食を食べ、祖父の形見の〈ウォーデン〉の腕章をつけ外に出る。養成学校に入学するまで変わらず剣の鍛錬をする。


 今日はライガのほうが準備が早かったようで、先に稽古場にいた。剣を置き、神妙な面持ちで待っていた。いつもと雰囲気が違う。


 「・・・あれから一晩考えてみたんだが」


 ライガはそう言いながら、先代タイガと毎日のようにやっていた剣術の鍛錬を思い出していた。

「親父が俺にしたように、今日までお前に剣術を仕込んできた。俺は剣術のギフトを授かる前も親父にしごかれていたが、ギフトを授かったばかりの時の俺では今のお前に到底適わない」


 俺は黙って聞いていた。


 「俺の教え方が上手かったからか?いや違う。お前に初めて剣を握らせた時からわかっていた。お前は圧倒的な剣の才能があった」


 素振りを目の前で見せただけでいきなり良い音をさせて剣を振り、いまでは剣術スキルをも駆使して大の大人と剣を打ち合っている。体の大きさは違えど全く引けを取らない。


 ライガは生まれた時から今までの子供の成長を事細かに覚えている様だ。


 「だから俺はこう考えることにした。お前は生まれつき剣術のギフトを授かっていたんじゃないかと。だから、お前がノーギフトだなんて信じない。教会や国が何と言おうと、誰が何と言おうと知ったこっちゃぁない。そして、あと数年で死んでしまうなんて、そんなことはありえない。そう思うことにした」

 落ち込んでても仕方ないじゃないかと言わんばかりの、ライガらしい前向きな考えだ。


 「それに帰りの馬車の中で言ってたよな。俺たちに、見ていてくれって。お前自身、あと数年で死ぬつもりもないんだろう?」「もちろんです」


 ライガはニヤリと笑う。俺も表情を明るくしてそれに応える。


 「お前を誇りに思う」

 そう言って父と子ふたりで抱き合った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 フリーデン養成学校。国の真ん中より少し南寄りに位置する首都にある。今から100年ほど前に主に富国強兵を目的に設立されたらしい。


 この国には義務教育という概念は存在しないらしい。貴族以上の身分で入学金を支払うか、国立機関からの推薦で奨学金を得る形で入学できるようだ。

 ライガから入学試験要項を渡され、読んでおくようにと言われた。


 試験は主に3つの分野で試験がある。

・得意とする武器を使った模擬戦

・的に向かって魔法を放つ魔術の試験

・知識についてのペーパーテスト

 試験結果によってクラス分けされる。さらにスキルレベルの鑑定もされるようでそれも加味して決まるようだ。

 あくまでギフトの力を伸ばし訓練する養成学校なので、試験といっても難しいものではなく入学希望者がギフトの力をどれだけ引き出しているかを見るものらしい。


 「フリーデンの校長がタイガ爺さんの知り合いでな。事情を説明したところ試験を受けさせてもらえることになった」


 ギフトの力を引き出すのが目的の学校なのでギフトを得られなかったら入学できないと思っていた。しかしライガが領主の仕事の合間を縫って直々に会いに行き、剣術、魔法を順調に習得していることを引き合いに出したら是非入学試験を受けてほしいと言われたそうな。


 「武器を使った試験と、魔法の試験は全員、適性試験を受験することになっている。知識の試験はどうする?」

 「知識のクラスに入るつもりはないので、受験しないでおこうと思います。」

 とはいえこの世界のことについて学べる授業に興味が無いわけではなく、キッチンで使っている魔石のことを学べる授業があるみたいなので選択したいと思っていた。


 試験要項には日程も書いてあった。適性試験を受け、その結果で編入クラスのお知らせが各家に届く。

 希望者は入寮手続きに進む。家から馬車で通える距離ではないので入寮することになるだろう。その後に養成学校の入学式がある。

 試験結果でどんな評価をされるかわからないが、ライガが言うには剣術のスキルが相当なものになっているとのことなので武術のクラスに編入されるだろうとのことだった。


 フラウは俺がノーギフトだった件で落ち込んでいたが日に日に立ち直りつつあった。ギフトの性質上、本当の事をどうしても言えなかったにしろ申し訳なく思う。いつかフラウには特に親孝行しなくては。

 「魔法について私から教えられることはもうない」と言われ一緒に図書館に行って興味がある本を読むことを勧められた。とはいえ家事の手伝いは魔法の練習にもなるので自ら進んでやっている。


 図書館は首都にあり、この家からよりも養成学校からのほうが近い。知識のギフトを授かった学生がどんどん知識を得られるようにと設立されたらしい。養成学校の学生は無料で何冊でも本を借りられる。

 家族同伴であれば入学前でも6歳から利用可能とのこと。どんな本を借りようか考えたが、今更だがギフトやスキルに関する本について借りることにした。

 あまり関心がなかったのだが、養成学校に入学すれば周りは全てギフト持ちなので一応知っておこうと思った。


 図書館に到着し、フラウに入館手続きをしてもらい早速本を探す。本のジャンルごとに棚がわけられていたのでアタリをつけて探していると、1冊だけやたら分厚い本があったので目当ての本はすぐに見つかった。

 本の名前は「新約~ギフトとスキル~」。人類がギフトを授かるようになってから情報が集められ、毎年発行されているらしい。モンテブルグ国内の教会で記録されたギフトに関してはフラウも過去に一部分を執筆したことがあるんだとか。本の末尾に記されている大勢の著者の中に旧姓でフラウ・リットの名前がある。ギフトに関する歴史やギフトを得る恩恵についてなどが載っている。借りて家に帰ってからじっくり読もう。

 1度の来館で一人につき3冊まで借りられるそうなので他にも面白そうな本がないか探してみる。この世界の常識レベルのことは知っておこうと思い、地名が載っている本や国ごとの特産品について書かれている本を借りた。


 家に戻り早速、「新約~ギフトとスキル~」を手に取り読んでみる。


 第1章、ギフトの種類について。

 おおまかに3種類あり、武術、魔法、知識とジャンル分けされている。ギフトのひとつひとつに詳細な解説が記されていた。


 第2章、スキルについて。

 ・祝福の議でのギフトを授かることでLv1を取得する(ギフトの項参照)

 ・素質ある者が正しい教育を受けた後に習得することがある

 次にスキルの恩恵について。スキルレベルは1から10まであり、未所得の場合は何の恩恵もない。


 Lv1:「武器が体の一部になったかのように手になじむ」

 木剣を使って素振りの鍛錬をし始めたころに、確かに手になじむ感覚があった。その時に剣術のスキルを取得していたようだ。


 Lv2~5:「レベルがあがるにつれ武器使用時の身体能力が向上する」

 次第に木剣が軽く感じるようになったのは単に筋力がついたからという理由ではなかったらしい。


 Lv6:「武器固有のスキル、武技を習得する」

 魔力を使うことで武器固有の武技を使えるようになるとのこと。これ以上のスキルレベルアップには通常の鍛錬に加え、魔力を身体に込めて武技を正しく繰り返し使うという今まで以上に地道な努力が必要。


 Lv10は記録に残っている限りでその域に到達したものはいないらしい。本に書かれている言い伝えとしては


 「一騎当千の武。対峙したものは打つ手全て見透かされ、同じ技量を持つもの以外何人がかりでも敵うものはない。」


 と書かれている。Lv10は一応ありますよという存在だけが知られているようだ。一騎当千とは・・・まるで神話のような話だな。

 前世でも剣道の試合やカンフーの映画などを見たことがあるが、達人同士の戦いは単純な本人らの膂力や技量だけでなく高度な技の読み合いになるのはこの世界でも同じようだ。


 しかし、スキルを取得すると体の一部になったかのように、ねぇ・・・。まさかとは思うが、読心術の発動条件になるのだろうか。知らない者と剣を合わせた時に検証する価値があるかもしれない。


 魔術のスキルについての詳細も書かれている。スキルレベルの説明文の前に注意書きがしてある。

 ※素質がないものは教えを乞うても魔法が発現することはない。

 ※魔力が枯渇すると命に係わるので、ギフトを授かった、或いは余程の事情がない限り生活魔法の習得のみ着手することを推奨する。


 努力するだけ無駄ですよってことらしい。万人向けの本なら希望を摘むようなことは書かない方がいいんじゃないかと疑問に思うが・・・。魔法のスキルもLv10まであるらしく武器のスキルと同じようなことが書いてあった。


 ギフトとスキルについての常識は大体網羅することができた。他に借りてきた本も毎日2~3時間かけて読み込み1週間ほどで全て読み終えた。それからもフラウと一緒に図書館には1週間に1度行くことになり、いろんな本を読んだ。フラウも本を借りていて、本のジャンルは主に人気作家の恋愛小説や文学作品。フラウとは専ら読んでいる本の話をするようになった。


 月日は過ぎ、養成学校の入学試験に行く日になった。


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