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59.国民大会

「ラウンド1終了、各プレイヤーの得点はこのようになりました。それではラウンド2、会議フェイズに移ります」


 ラウンド1での投票結果により得点の変動があった。プレイヤー〈3〉の欄にポイントを示すマーカーが置かれる。


得点表 ラウンド1終了時

○・・・プラス1ポイント、●・・・マイナス1ポイント


〈1〉

〈2〉

〈3〉○○○

〈4〉

〈5〉


その結果を受け、次の話し合いが始まる。


「お前らどっちか知らんが、金に入れたってのか?ふたつ金の魔石が入ってればいきなり脱落だってのに」


 ラウンド2、再度会議フェイズが始まる。まず口を開いたのは隣に座る中年男性だった。

 この男の言う通り、高得点を狙って他にも金の魔石を入れる者が居れば共倒れというリスクを孕んでいる。マイナスが3点以上になった時点でゲームから脱落するという取り決めがされている。

 しかし俺は初心者なのに加え読心術があるのをいいことに、何も考えずに金の魔石に投票してしまった。このゲームの経験者からしてみれば、最初の投票で金の魔石に入れるのは大博打なのである。


「私は赤に入れました」


 シルヴィアは慌てた様子でラウンド1での提案に従ったことを言う。この様子で金の魔石を入れていたのだとしたら名演技である。


「僕も赤に入れたんですけどね」

「チッ」


 俺もシルヴィアの言葉に合わせてシラを切って提案に従ったフリをする。男は苛立ちを隠せない様子で、こちらに睨みを利かせながら舌打ちをしている。


 「全員で赤の魔石を投票する」という提案に俺かシルヴィアのどちらかが逆らったのは明白である。それに加え、ゲーム開始時にシルヴィアが自分の番号が〈4〉だということを漏らしてしまっている。あの言葉が本当ならば、プレイヤー〈3〉が俺だということが他のプレイヤーからは推察されてしまう。とはいえ、ゲーム終了時にはどの番号がどのプレイヤーだったかわかるので、誰が嘘をついていたかはわかるのだが。

 得点表には〈3〉の欄にプラスを現す白のマーカーが3つ、大きく点差が開いている。他のプレイヤーはどうにかしてこの点差を覆さなければならない。


ークソ、いきなり金だと!?無茶苦茶しやがってー


 ふいに男が人差し指で机を叩くようにトントンと鳴らす。するとそれを受け、他の男が指をトンと鳴らす。一見、考えを巡らせているようなただの仕草に見える。


ーお前ら、銀に入れろー

ーおうよー


 この店の常連である男達3人は確実に勝つために手を組んでいた。机の上で指の鳴らす仕草は、この男達にのみ共有されたサインである。


「まあいい・・・点差が開いた今こそ、足並みを揃えようじゃないか。全員で赤に入れよう」


 それから俺たち二人に赤の魔石を入れるよう誘導する。

 銀の魔石で得点を得る条件は、赤の魔石より投票数が多いとき。そのときに赤の魔石に入れていた者はポイントを失う。つまり、開示フェイズで自分たちで入れた銀の魔石3個、俺とシルヴィアが入れる赤の魔石2個とすることでポイントを得ようとしている。


「わかりました。僕も0ポイントなので点差が開いてるので金の魔石を入れたいのはやまやまですが、脱落するのは怖いので僕は赤に入れます」


 俺は男の提案に従い赤の魔石を入れる意向を示し、更に「脱落するのは怖い」というフリをする。シルヴィアはまだどの魔石に入れるか迷っているようだ。


「ミア。ラウンド1でみんなで赤に入れようって提案があったけど、金の魔石を入れた人がいたでしょ。もし逆転したいって思うなら金の魔石に入れてみてもいいんじゃない?」

「金?でも他の人も入れてたらマイナス3点でしょ?怖いよ・・・」


 手を組んでいる3人は銀の魔石を入れるつもりなので、金の魔石を入れるよう提案する。だが彼女からしてみれば他のプレイヤーが金の魔石を入れないという確証なんてどこにもない。高得点が欲しいとは言え、おいそれと金の魔石を投票することなど出来ないのだ。


 全員の投票が済み、開示フェイズ。


 銀の魔石が4つ、赤の魔石が1つ。銀の魔石の投票数が赤の魔石のそれよりも多かったため銀の魔石を投票した者にプラスの得点が与えられる。得点欄の〈4〉にはマイナスを現す黒のマーカーがひとつ置かれ、他のプレイヤーには白のマーカーがひとつずつ置かれる。


得点表 ラウンド2終了時

○・・・プラス1ポイント、●・・・マイナス1ポイント


〈1〉○

〈2〉○

〈3〉○○○○

〈4〉●

〈5〉○


 中年男性らが銀を入れるなら、俺もそれに合わせて銀に入れるまで。点差が詰まることは無い。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「最後の開示フェイズの結果、皆様の得点はこのようになりました」


 ラウンド1で金の魔石を入れたことで点差が開いていたが、流石にやりすぎだと思い、それ以降金の魔石を入れることはしなかった。


「今回の勝者はプレイヤー〈3〉ーーー旅人のカイン様です」


 3人の間で意思疎通ができる男性らが一人だけ金の魔石を入れるかもしれないと、読心術を使い警戒はしていた。

 しかし結果としてラウンド1で金の魔石を入れたことが、彼らからしてみれは「再度どこかで金の魔石を入れるかもしれない」という抑止力になった。以降は銀の魔石と赤の魔石でポイントを得られる側に投票した。


「カイン!?すごい!」

「マグレだよ」

「ぐっ・・・」


 シルヴィアからは称賛の声。初めてにも関わらず勝ってしまった。

 一度開いた点差に詰め寄るには残り少ないラウンドのどこかで金の魔石を投票する以外無い。しかしごく平凡な男性らには、それができない。それ故ラウンド1で得た3ポイントという大きな点差を詰められることは無かった。


「カイン様。こちらが賞金となります。初めて〈金の魔石〉に参加されたにも関わらず、お見事でした」

「ありがとうございます。もう一度同じメンバーでプレイしたいのですが」


 〈金の魔石〉を始めてプレイした感想として、俺はこのゲームに惚れこんでいた。こんなに面白いなら一度と言わず、何度でもやりたい。


「やるかってんだ!お前ら、帰るぞ!」


 しかし中央の席に座っていた男性は席を立ち、声を荒げながら店を出て行ってしまった。こちらが初心者と聞き俺たちから金を巻き上げるつもりだったのだろうが、あてが外れたのだろう。残された男は食事の代金を支払い、そそくさと帰っていった。


「残念ですが、今日はここまでですね」

「仕方ないですね」


 バーテンダーはやれやれといった様子で、〈金の魔石〉専用プレイテーブルの片づけを始める。


「お二方。少しお話しませんか。喉が渇いたでしょう、お飲み物をお出ししましょう、カウンターにお戻りください」


 促されるままカウンターの席に戻り、待つこと数分。カップに入った冷たい果実ジュースが2つ差し出される。


「ありがとうございます」

「へっへっへ・・・やってみてどうだった?」


 カウンターに戻ってきたディーラーは不気味な笑い方をする元のバーテンダーに戻っていた。


「何度もやってみたいくらい、気に入りました。今日は帰りますが、この国にいる間に別の店でもやってみようと思います」

「そうか。それほど気に入ったのなら、今年の大会に参加してみるか?勝ち上がればこの国のトップになれる」


 国民的ボードゲームというくらいだから大会も行われているらしい。しかし、国のトップというのはどういう意味だろうか。


「どうゆうことですか?参加はしてみたいですが」

「〈金の魔石〉は元々はフエゴースの初代国王によって考えられたものでな。酔狂な初代国王は〈金の魔石〉で最も強い人物を権威ある者とし、側に置くことにした。それ以来任期ごとに国王の側近である、宰相の座を決める大会として開催されている」


 なるほど、前世でも将棋や囲碁などの強者がプロとして収入を得て生活している人たちがいた。この国では人の上に立つ王者として君臨することとなるらしい。


「そんな国の重役を決める大会に、僕も参加して良いんですか?」

「参加料さえ払えば誰でも参加できる。これで過去にこの国の一般家系から成りあがった者もいるくらいだ。しかし本当に参加するなら用心していけよ。勝つためになら何でもやってくるからな・・・この国の連中は」


 何でも、というのは〈金の魔石〉ゲーム内での純粋なルールに則った戦いにならないということだろう。現に初回プレイで3人で票を合わせてくるといった輩に遭遇したし、ゲームプレイ以外でも何をされるかわからない。


 今夜宿泊する宿の店主がこの時期に出歩かない方が良いと言っていたのは、国全体が殺気立つという意味なのだろう。


 「それでも、是非参加してみたいです」

 「へっへっへ・・・。そうか。来月になるが、この集落を出て西に進み、更にトンネルを抜けた先にある街で予選が行われる」


 バーテンダーから大会が行われる場所の案内を受け取り、店を後にする。

 旅の途中に〈金の魔石〉というボードゲームと出会い、そしてフエゴースに滞在する数か月の間国中から猛者が集まる大会に参加することにした。


 しかし、調子に乗ってこの国の頂点になるなどという挑戦なんてしなければ良かった。この時はまだ、他者に読心術のことを言うことになるなんて思いもしなかった。

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