58.金の魔石
店のカウンターに座った自分たちの前に、手際よく食事が並べられていく。
「ごゆっくり」
「ありがとうございます」
目の前に出された暖かいスープをひと口、ふた口すする。パンも一緒に頬張る。悪くない。
「それでは〈金の魔石〉の説明をしよう」
食事のオーダーを終えたバーテンダーは、クロスが掛けられたテーブルの側に向かう。テーブルの引き出しをゴソゴソと漁り、手に袋を持ってカウンターに戻ってくる。
「名前の通り、これらの石を使う」
バーテンダーは袋から中身を取り出し、並べていく。数字が書かれた金色、銀色、赤色の石が入っている。
「わあ、綺麗だね」
「ああ」
本当の魔石と違って魔力を込めることで魔法が発動することは無いだろう。しかしどれも手垢ひとつなく手入れがなされ、輝きを放っている。
率直な感想を述べると、バーテンダーは肩を揺らしながら不気味に笑いだした。
「綺麗、か。まあ、このゲームに参加したことがないならそう思うかもな、へっへっへ…」
ゲームの経験者からしてみれば、違う印象を受けるらしい。
ラウンド1から始まり、ラウンド5終了時点で最も点数を持つ者が勝者となる。
各ラウンドは3つのフェイズにわかれる。
・会議フェイズ
ラウンドの初めにプレイヤー全員で話し合いを行う。ここで自分がどの魔石を入れるかを他のプレイヤーと話し合う。
・投票フェイズ
話し合って決めた魔石をひとつ袋に入れてディーラーに渡す。最初に配られた大きな袋の中にもうひとつ小さな袋があり、他者に見えないように小さな袋に魔石を入れる。
・開示フェイズ
投票した魔石に応じてプレイヤーは得点を得る。
「開示フェイズで得られるポイントは条件が複雑だ。初心者には難しいが、〈金の魔石〉の奥深いところでもある」
バーテンダーは得点表を取り出し俺たちに見せてくる。金、銀、赤の魔石それぞれにポイントを得られる条件が書いてある。
金の魔石を入れた者には3ポイント。しかし2人以上のプレイヤーが同時に投票していた場合、それらのプレイヤーは逆に3ポイント失う。
金の魔石を入れたプレイヤーが1名のみの場合、他のプレイヤーの得点の増減はなく次のラウンドに進む。
「金の魔石によって3ポイントを得られるのは一人だけということですか」
「そうだ。勝利に大きく近づけるのはひとりのみ、まさに王に相応しい魔石ということだ」
次に、銀と赤の魔石について。
銀の魔石、赤の魔石が入れられた数で多数決が行われる。投票された魔石の数で数を競い、多かった魔石を入れたプレイヤーは1ポイントを得る。逆に少なかった魔石を入れたプレイヤーにはマイナス1ポイントが付与される。
但し、全員が銀の魔石に入れた場合、全員がマイナス1ポイント。
全員が赤の魔石に入れた場合は、全員がプラス1ポイントを得る。
赤の魔石はフエゴースの産業の根幹である火の魔石をモチーフとされているらしい。
開示フェイズにてポイントの増減がマイナス3点以上になったプレイヤーはその時点で脱落、以降のラウンドに参加できない。
以上が、簡単ではあるが〈金の魔石〉のルールである。
「・・・これってさ。全員で赤の魔石を入れ続ければ、負ける人がいないってことだよね」
「そうだね」
ひと通りルールを聞いた後に、まずはシルヴィアが口を開いた。そう上手くいくかな・・・。
「話し合いでそうなって、もしそれに全員が従えば全員が勝者だな。へっへっへ・・・しかしそう上手くいくかな?」
バーテンダーに思っていることを言われてしまった。このゲームのルールを聞いた際に、皆一度はそう思うのだろう。ルールの説明をする間、こちらの反応を見ては、不気味に笑っていた。楽しそうだな・・・。
どの魔石を投票するかを話し合いで決めるという点が、どうもひっかかる。というのも・・・コミュ障の俺にとって苦手分野だ。まともにゲームに参加出来るのだろうか。
「ルールに関してわからないところは?もっとも、やってみないとわからないだろうが」
始まってからゴネるのも他の参加者に煙たがられると思い、少しの間ゲームのルールについて思考を巡らせる。ルールの粗なんていくらでもありそうだけれども。
「例えば投票する袋に何も入れなかったり、2つ魔石をいれた場合は?」
「ルールに基づいていない無効な投票をした場合、問答無用でマイナス1点が課せられる。投票フェイズでは必ず魔石をひとつだけ入れることだ」
なるほど、そこそここの国において歴史のあるゲームの様だし、かなり細かい部分まで取り決めがされているようである。
「ここまではルールの説明だったが、先程言った参加料の話もしておこう」
参加料は、この店で腹を満たせる程度の食事代くらいの金額。
ゲームで勝利すれば参加料の3倍の金額が戻ってくる。ゲームの参加人数は5人なので、残りの2人分の参加料は胴元である店に入る。それを場代として回収し、この店の利益としているわけだ。
「ルールの理解とカネの準備が出来れば、とりあえずやってみるか?」
頷くと、バーテンダーは店の中に響く大きな声でテーブル席に向かって声をかける。
「おい!場が立ったぞ!今日の相手はこちらの旅人お二方だ!」
その声に応じるように中年男性ら3人がゆっくりと立ち上がる。
「なんだ、ガキじゃねえか。カネはあんのかよ」
「ええ、よろしくお願いします」
見るからに清潔感の無い鳴かず飛ばずといった男性に面と向かってガキ呼ばわりされたが反発せずに丁寧に挨拶をする。中身の年齢は同じくらいだってのに。
「ハッ。いいぜ、席に着きな」
バーテンダーがクロスが掛けられたテーブルの側に向かう。テーブルにかかっていたクロスがバサッと音を立てて捲られる。
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〈金の魔石〉をプレイするための、専用のテーブルが姿を現す。
扇上のテーブルの上面には中央に格子状に白線が引いてあり番号が振られている。プレイヤーの点数や、投票された魔石の数をわかりやすく表示するためのものだ。前世で見たポーカーテーブルにどこか似ている。動物の毛皮が使用されているのか、フェルト生地の加工がしてあり少し弾力がある。
テーブルの周りには椅子が5人分用意されている。長時間座っても身体が痛くならないように配慮されているのか、ふかふかで座り心地がとても良いものだった。中年男性ら3人が固まって座り、最も端の席にシルヴィア、その隣に俺が座った。
「さて紳士淑女の皆様、本日は私がディーラーを務めさせていただきます」
ゲーム開始の口上が始まる。このバーテンダー、テーブルの真ん中に立った途端にピンと背筋を伸ばし言葉遣いが丁寧になり、まるで堂に入ったというか別人のような振る舞いである。どうやら元々こちらのほうが本職のようだ。
「席に座りましたら、魔石を配布致します」
ディーラーによって配られた袋の中身を確認する。ひとつの袋には全て同じ数字が刻印されており、それがゲームにおいてのプレイヤーの番号となる。俺の石には〈3〉と書かれている。即ちこのゲームにおいて、俺はプレイヤー〈3〉として参加する。この数字は、ゲーム終了まで他のプレイヤーの番号はわからない。他者からは、番号つきの点数表でそのプレイヤーがどれだけ点数を稼いでいるかがテーブル上の点数表で見えるだけである。
「私は〈4〉だったけど、カインは?」
「ミア。・・・それを言っちゃいけないよ」
「あ、えへへ」
最初のラウンドが始まってもないのにシルヴィアがいきなり自分に与えられた番号を言うというヘマをした。隠し事をしてはいけないというコーラリアで育った環境のせいもあるが、彼女のような性格の人物は〈金の魔石〉に向いてないんじゃないか。
「なんだよ、ルールを聞かなかったのか?まあいい、カインに、ミアってんだな」
「はい、よろしくお願いします」
シルヴィアは照れながら、名前を憶えてもらえたことに対して挨拶を返している。
「よろしいですかな。ではラウンド1、会議フェイズとなります。皆様で、どの魔石を投票するのかを話し合っていただきます」
ディーラーの進行により、ゲームが始まる。〈ラウンド1〉と書かれた札がテーブルに置かれる。
「さあ、まずは様子見ってことで最初は全員で赤の魔石を入れるのがよくある定番の流れだ。わかるな?」
先程から最も口数の多い男性がまずは口を開く。それに対し向かって対面に座る他の男性たちが頷いている。
「みんなで赤に入れるってことは、まずはみんな1点もらえるってことだよね。カイン、どうする?」
全員で赤に入れる、という提案がなされる。シルヴィアの言う通り、従うか、それとも他の色にするかーーー。
「そうですね。僕もそれに従います」
と、快く返事をした。
「よろしいですかな。では皆様心に決めた魔石を袋に入れ、渡して下さい」
続いて投票フェイズ。袋の中の魔石を他者に見えないように入れ、ディーラーに渡す。
「全員分の魔石が出そろいました。では、開示フェイズに移りましょう」
慣れた手つきで番号が刻印された面は伏せられたまま、投票された魔石が全員に見えるようにテーブルの中央に並べられていく。赤、赤、赤、赤と4連続で赤の魔石が続く。
「まずは全員、赤の魔石だな。ヨーシヨシ・・・」
「いえ、・・・ただひとり、金の魔石を入れたプレイヤーがいらっしゃいます」
「ああ?」
最後にディーラーが持っていたのは金の魔石である。予想外の展開だったのだろう、俺の隣に座る中年男性の表情が崩れる。そしてテーブル上の点数表には、プレイヤー〈3〉の欄にプラスのポイントを示すマーカーが3つ並べられる。
ラウンド1の投票フェイズで俺が入れたのは金の魔石。読心術でもって、他のプレイヤーが入れる魔石を色を読み取り、全員が赤の魔石を入れたことが分かったので、金の魔石にしたのだが・・・うまくいくとは思わなかった。
他者が入れる魔石がわかれば、このゲームで負けることはない。〈金の魔石〉は読心術を持つ俺にとって、うってつけのゲームだった。




