57.北の国、フエゴース
モンテブルグとは山脈を挟んで北に位置する国、フエゴース。
国土のほとんどが標高の高い山岳地帯であり、鉱山からは鉱石や魔石が眠っている。
出土される鉱石は鉄、鋼、金、銀、銅と選り取り見取り。人が身に着ける武器や防具、日用品、また経済活動に欠かせない硬貨などが主な利用例である。
魔石の多くは熱を生み出す火の魔石。火起こし、暖を取るためなど家庭に欠かせない利便性のあるものとして周辺国に高値で取引される。
それらを求めて周辺国から入民が始まったのが今から300年前のこと。険しい鉱山地帯には人は住めないが、地盤沈下によって生成された盆地がいくつか点在している。険しい山脈の間には渓谷もあり、街道が敷かれ街と街とを経由できるようになった。しかし入民した人々はより利便性を求め、土魔法を主体とする労働力でトンネルを掘り土地の開拓を行った。そうして利用価値の高い金属や魔石が出土する鉱山地帯の麓には人が集まり街が作られた。
そして150年前。産業の主導権を握っていたフエゴース家が国家設立を宣言した。現在も王家として君臨し、主に政治面で国を先導している。長い間周辺国との戦争は起こっていない。そもそもこの国の主要都市が山々に囲まれているので行軍しようにも難しいのである。
以上が簡単ではあるがフリーデンにいたときに通っていた図書館の蔵書を読み漁って得た、フエゴース国内の情勢である。山に向かって伸びる街道を歩きながら、シルヴィアにひと通り説明する。
「何も無いところから道を作ったんだ・・・すごいね」
「そうだね。いまでも鉱石や魔石を求めて地質学者が率いる調査団が開拓を行っている地域があるみたいよ」
国土の半分以上が未だに秘境の地である険しい山脈地帯。既に見つかっている鉱山からは大量の資源が採掘されているが、未開拓の山脈にも実用性の高い資源がまだまだ埋まっているとみられている。
渓谷の間にある関所に到着すると、道の両脇にいた2名の衛兵に呼び止められる。人通りは少なく、俺たちの他に入国希望者は見られなかった。
「フエゴース第2関所にようこそ。入国目的なら手続きをしてもらおう」
「はい、おねがいします」
「何か身分を証明できるものは?」
「えっと・・・、」
しまった、身分証が必要なのか。フリーデンにいた時は学生証を持っていたが、それもグロース家においてきてある。それに、今は身を隠すための旅の途中である。馬鹿正直に名乗ることはできない。
しかしながら、この国である程度の期間身を潜めたい。出来れば穏便に入国を済ませたいが、どうしたものか。
「あてもなく旅をしている途中でして、そのようなものは」
「そうなのか?立派な馬を連れているからどこぞの商人かとも思ったが」
黙っていても仕方ないので、正直に旅の途中であることを申し出る。衛兵はシルヴィアが手綱を引いている馬に目線を移す。立派な馬と呼ばれたソラは「早く通せ」と言わんばかりに行く手を阻む者を見下している。
「では名前と授かったギフトだけ教えてくれ。あとは入国料を払えば通っていい」
「え?それでいいんですか?」
「ああ、あくまでどんな人物が通っていったかという調査目的でやっているだけだからな」
門前払いになるような事態が頭に過ぎったが、大丈夫そうである。
「カインです。ギフトは、剣術です」
「カイン、剣術・・・っと。背負っている長物がそうか?」
「はい。あくまで護身用です。」
本当はノーギフトなんだけど。この衛兵に身の上のことを説明しても仕方ないし、咄嗟に誤魔化してしまった。まあ剣術の腕があることは確かだし、大丈夫だろ。
「はい結構。そちらのお嬢さんは?」
「ミアと言います。ギフトは土魔法を授かりました」
土魔法と聞いた衛兵の目の色が変わる。
「本当か?君、良ければ仕事を引き受けてはくれないか。人助けだと思って」
「わ、私にできることなら」
「こっちだ」
そう言われ、引っ張られるように関所の奥へと案内される。まだ入国手続きは途中のはずだが、フエゴース国内へと入国することとなった。
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入国してまず目に飛び込んできたのは、しっかりと固められた舗装道路であった。幅にして荷馬車同士が交差できるくらいだろうか。それがフエゴースの山脈まで、ずーっと伸びている。
「ここら辺なんだが、酷いもんだろう。直してもらえないか」
関所から離れ、ある程度進んだ場所に案内される。道路の一部が楕円状に凹んでいる箇所が数カ所。どうやら馬車が通った跡だろう、いかにも荷馬車の車輪が嵌りそうだ。
「平らになるように埋めて、更に可能だったら強度も持たせて欲しいんだが、可能だろうか」
「やってみます」
シルヴィアが手をかざすと周辺にあった何でもない土が魔法によって掬われ、陥没している箇所を覆っていく。そのままパキパキと音をさせながら強固に固まっていく。衛兵が近づき強度を確かめようとしたところに、ソラが近づいていき補修箇所を踏みしめるように体重をかけるがびくともしなかった。十分な強度のようである。
「どうでしょうか?」
「すばらしい!俺たちが力任せに埋めたところで、馬車が通るたびに抉れてすぐに再発するからね。参っていたんだよ。直せる人材を送ってもらうよう上には頼んではいたんだが、僻地だからと全然来てくれなくてね。商業馬車が嵌ったりして大変だったんだよ。そうだ、魔力切れの心配はないかね」
「このくらいなら、問題ないです」
シルヴィアは衛兵二人から両手を握られ感謝されている。
「本当に助かったよ。報酬は君たちの入国料でどうだ。土魔法が使えるならどの街に行ってもすぐに仕事が見つかるだろう。路銀に困ったらその街の役所に行くと良い」
衛兵たちはそう言って笑顔で俺たちを送り出してくれた。旅の出発時にライガから、更にはギニーからサンセット・ダービーの賞金の一部を受け取っているので路銀には困っていない。しかしながら困っている人がいたら助けたいというシルヴィアの性格上、そういった仕事は引き受けることになるだろう。
「入国料、タダにしてもらえたね」
「ああ。土魔法を主体に開拓された歴史のある国だから、使えたら歓迎してもらえるのかもね」
ソラの鞍上に乗っているシルヴィアの表情がいつもより柔らかい。入国していきなりその土地の人に両手を振って感謝されたのだから、さぞ気分がいいのだろう。
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関所を通過したのが昼過ぎで、そのまま夕方まで舗装された街道を進み最初の村に到着。INNと書かれた看板がすぐに見つかり、宿はすぐに見つかった。ソラの入厩作業を済ませ、荷物を部屋に置いた後、村を散策することにする。
「食事がしたいのですが、飲食店はありますか?」
「飲食店?ああ、黄色い石が書かれている店がある。そこで飯にはありつけるだろうが・・・」
宿の受付をしていた店員に温かいご飯にありつけないかを聞いてみる。どうやら黄色の石が描かれた看板を探せばいいらしいが、声を曇らせている。
「悪いことは言わねえ、食事をしたらすぐに帰ってくるんだ。長居はしないほうが良い、この時期は特に」
「・・・? わかりました」
すぐに帰ってこないと、何か悪いことが起きるんだろうか。しかしお腹は減っているので、とりあえず行ってみることにする。シルヴィアとともに村を散策していると、黄色い石が描かれた看板の店が見つかった。
「入ってみよう」「うん」
宿の店員は「すぐに帰ってきた方が良い」と言っていたが、店内からは良い匂いがしてくる上、照明が焚かれ明るい雰囲気である。
レストランというよりもお酒が出てきそうな、オシャレなバーという装いだった。確かに二十歳にもなっていない自分たちにとっては場違い感が強い。
店内に入り数歩店内に入ると、カウンター越しにバーテンダーに話し掛けられる。
「いらっしゃい。若いね、何か食べていくかい」
「はい。お願いします」
「じゃあ、カウンターに座りな」
促されるままカウンターの席に座り、メニューに書いてあるものを数点注文する。注文したのち、落ち着いてから店内を見渡す。
テーブル席ではみるからに常連といった風貌の小太りの中年男性が3名。わいわいと話を弾ませながら食事をしている。更に店内を見渡すと、店の奥にはクロスが掛けられた扇状のテーブルが設置されている。興味本位で、自分たちの食事を用意してくれているバーテンダーに話しかけてみる。
「奥にあるテーブルは何ですか?」
「なんだ、金の魔石を知らないのか?」
「金の魔石?」
バーテンダーから帰ってきた言葉は聞きなれない言葉。属性魔法に金の魔法なんて、聞いたことが無い。シルヴィアにチラりと視線を送ると、首を横に振っている。コーラリアでも聞きなじみのない言葉のようである。しかしバーテンダーの口ぶりからして、この国では誰でも知ってそうな様子だった。
「僕ら、旅をしている途中でして。よかったら教えてもらえませんか」
「そういうことなら、実際にやってみるかね。食事をしながら簡単なルールを教えよう。店にはちょうど5人いることだしな。しかし、初めてでも場代はしっかり頂くよ。へっへっへ」
フエゴースでは国民的なボードゲーム<金の魔石>。不敵な笑みを浮かべる店主から、そのゲームの説明を受けることになった。




