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幕間3. ノウン宛の手紙

「遅いぞ、ノウン」


入学してから3ヶ月ほど経った、とある日の午後。

魔道具の教室に着くと珍しい顔が席に着いている。隣国コーラリアの王室に遣える従者のアイリさんだ。

いつも主人のシルヴィアさんといるがその主人はヒューガさんと共に失踪してしまっている。学長の勧めでこの学校に留まって引き続き授業を受けているらしいけど・・・。

魔道具の開発に行き詰ったときに話を聞いてもらうことはあった。向こうから訪ねてくることは珍しいことである。何か用事なのだろうか。とりあえず挨拶を返す。


「こんにちは、アイリさん」「ご機嫌よう。ほら、君へ手紙だ」

「へ?僕に手紙?」「あの男からだ」

「え?あの男って・・・もしや、ヒューガさんから?」


呆けた顔で間の抜けた声を出して返事をしてしまう。


「もしかして遺書ですか?死んだ人からの手紙をもらったってことなんですかね・・・?」

「なんでそうなる。生きているんだよ。あの男は」


返事を返したアイリさんの声のトーンが低くなる。もしかして、機嫌が悪いのだろうか。


「え?だってだって、食堂の張り紙に書いてありましたよね?亡くなったって」


言われたことに混乱してしまう。もしそれが本当なら学校の掲示板に嘘の情報が張り出されていたということになる。

そんなことあっていいことなんだろうか。


「あの男が魔力切れなんぞで死ぬものか。ともかくあの男は現在この国から離れ、異国の地でのうのうと生きている。しかも我が主人シルヴィア様と一緒に・・・!」

「ええ!?」


遠方にいる二人の情報をアイリさんはどこから仕入れたのだろうか。

内心ふたりが生きていたことに安堵するが、対してアイリさんはむしろ怒り心頭、ギリギリと拳を握りしめている。

もしかしなくても機嫌が悪いことが確定した。慎重に言葉選びをせねば・・・!


「どうゆう事情があるかは直接会って問いたださないといかんがな!」

「ヒィ」


怖い。怖いが、言葉を選んでいる余裕も、怒っている女性をなだめられるような人生経験など、僕にはない。


「あ、あの、手紙っ、読んでみても良いですか」


怒り心頭の彼女が落ち着くまでなんとか時間を稼ごうと、苦し紛れに渡された手紙を読もうと試みる。


封筒の中身を覗くと便箋が何枚か入っている。他にも封筒の底には小さな金具のような堅いものがひとつ、入っている。

無理に封筒に入れたのか、ギチギチに便箋が詰まっている。力を入れないと取り出せないほどであった。破かないように取り出すのに、少し手間取ってしまう。


「私宛のとえらく違うじゃないか・・・」


アイリさんがぶつぶつと何か言っている。怖い。

その様子を見ないようにして便箋に書いてある文字に目を落とす。びっしりと文字が書かれている便箋と、絵や図が書かれていてそれを補足する文が書かれている便箋が数枚。旅先の宿で落ち着いて書いたのだろうか、どれも読みやすく丁寧なものだった。


「よ、読みますね・・・」


ーノウンへー

ー魔道具の開発を手伝うと言っておきながら、現状学園を離れてしまっているためー

ー開発には関われなくなってしまったー

ー本当に申し訳なく思っているー

ーモンテブルグから離れる期間は大体1年くらいだと思うー

ーその間魔石液晶の開発が滞ってしまうのは心苦しいー


そもそもヒューガさんとシルヴィアさんのふたりがなぜ在学できなくなったのかを僕は知らないので、そこを説明してほしかったけど。

手紙では魔道具のことについて触れられているので、そのことに頭を切り替える。


ーそこで、魔道具開発の手助けといっては何だが俺の部屋にあるものを自由に使ってもらって構わないー

ーおそらくだけど、魔石液晶を作るのに必要な同じ形状に魔石を細かくカットする作業に行き詰まるだろうー

ーそのための刃は鍛冶屋に頼んで作ってもらったものがある。俺の寮の部屋の机の引き出しに入っているー


ヒューガさんの部屋にあるものっていったって・・・その部屋には鍵がかかっているんじゃないかと思ったけど。

封筒に残っている小さな堅い物体を取り出してみると、それは鍵だった。3桁の数字が刻印されている。


「アイリさん、これって?」

「寮の部屋の鍵か?」


僕はこの学校の寮には入らず、叔母が経営している商店から通学しているのでその鍵は見慣れないものだった。しかしアイリさんはこの鍵の形状に見覚えがあるらしかった。


ー同時に使うのは1枚だが失敗したり刃こぼれすることもあるだろうから、予備で3枚あるー

ー刃を回転させる魔道具の全体像を記した図面もあるー

ー他にも原案ではあるけど、いくつか魔石液晶を作成させるために必要な作業をさせるための魔道具を考えているー

ーその図面や魔力回路も羊皮紙に書き起こしてあるので参考にしてくれー


確かに魔石液晶を完成させるために必要な作業はいくつもあり、どうするのかというのは懸念材料だった。だがそれも既にヒューガさんの頭の中にあったらしい。

ヒューガさんからの手紙の内容は僕にとって有意義なものばかりだった。しかしアイリさんの様子を伺うとーーー依然表情が曇ったままだった。


そして、文章のみが書かれた便箋の最後に。


ー開発に行き詰ったらアイリを頼れ。良いアイディアをもらえるはずだー


この文だけは彼女に見られてはいけないと思い咄嗟に便箋を隠そうとしたが、遅かった。


「ほう、何様のつもりだ・・・。自分たちが帰ってくるまでただ待つのではなく、これでも作っておけと言わんばかりじゃないか」

「まあまあ。そんなこと、書いてないじゃないですか・・・」


聞こえるようにそう呟くと鋭い眼光をこちらに向け僕の肩をがっしりと掴んできた。動けない。ものすごい力だ。


文章が綴られている便箋の他にも、いくつか僕らのためになるであろうものが書いてある便箋が同封されている。しかし今はその便箋に目を通している場合では無かった。


「ノウン君!あの男が返ってくるまでになんとしても・・・!何としても魔石液晶を完成させるぞ・・・!」

「帰ってくるまでにって、1年でですか・・・?」

「できない理由なんて考えるな!いいか、君は一人じゃない。あの男の言う通りになるのは癪だが私も知恵を貸す。それにもう一人、優秀な魔力科学者が側にいるじゃないか」

「ふふ。忙しくなりそうですね」


ここまでの話を聞いていたのか、リンネ教官がいつの間にか隣の席に座っていた。ヘラヘラと笑い、なんだか楽しそうである。

今まで自由気ままに魔道具の開発を進めていたけど、これからは3人でやることになりそうである。


「ヒューガさん、生きてるなら早く帰ってきてぇ・・・」


机に突っ伏し涙を浮かべながら、そう呟いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


北の国に向かう旅路の途中。陽が昇りいつもの休憩時間になる。道端でソラを休ませながら広大な草原を見渡す。


ウェスタニア首都の宿から出した手紙は届いただろうか。

アイリはどうしているだろう。シルヴィアから学園に留まっていてほしいという旨を記した手紙を書いたことは聞いている。それにあの学長のことだから主人がいなくなった後でも在学することを勧めそうだ。


俺が記したあの素っ気ない手紙は彼女に届いただろうか。旅の間一年間も彼女に対して何もないわけにもいかないので取り敢えず手紙は出すだけ出したけれども。


手紙の内容について弁明させて欲しい。いや、弁明させてください。手紙の内容は散々考えました。散々考えた上で、敢えて素っ気ないものにしたんです。


アイリが俺に対して言いたいことを想像する。

まずは主人であるシルヴィアの身の安全はどうなっているか、だろう。それから彼女の同意も得ずに主人を学園から連れだした事に対する弁明はあるのか。


学園から飛び出す時はシルヴィアの身の上のことを考えるだけで精一杯だったのだ。

頭の回転が速い上聡明なアイリに対して、いかなる言葉を尽くそうと無駄だと思った。

手紙を出すこと自体を大事だと思うことにして、敢えて素っ気なくこちらの身の安全のことだけを書き記した。


ふと、先日レベルアップした読心術のことを考える。魔力を充満させれば直接触れていなくても読心術が使えるようになった。

国境を跨いで遠方に居るアイリに対して読心術を使えないかと思い、モンテブルグがある方向に魔力を放ってみる。


「何してるの?」

「いや、ちょっと試したいことがあったんだけど、何も起こらなかった。気にしないで」


何もない場所に対して手を伸ばし魔力を放っている俺を見てシルヴィアが声をかけてくる。

魔力を放ってはみたが、何も聞こえてこなかった。読心術がレベルアップしたとはいえ、射程距離はそこまで長くないようだ。

レベルアップに伴う新しい発動条件についても追々試していこう。


北に向かって広がる草原を歩くにつれ、段々と勾配がきつくなってくる。気温も少し肌寒くなった気がする。

険しい鉱山地帯の麓には、ウェスタニア地方と次の目的地であるフエゴース国との国境が見えている。

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