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5.ノーギフト

 「そんな・・・これはギフト・・・”無し”じゃ・・・」


 神官が弱々しい声で言う。ギフトを授かる祝福の儀式の途中で異変が起きたようだ。身体には異変は見られないようだが、何が起きたのだろうか。ギフト無し、とはどうゆうことだろうか。


 「馬鹿な!そんなことあるか!」


 後方から叫ぶ声が聞こえ、ライガが駆け寄ってくる。


 「もう一度、もう一度やってくれ!」「グロース殿落ち着いて下され。何度やっても同じです。女神の祝福はあくまで子供が生まれ持った魔力の流れを安定させるもの」


 神官がライガをなだめる。


 「魔力が安定することで生まれ持った才能が引き出され、はっきりと認識できるようになるというものじゃ」


 祝福というから宗教じみた祭事だと思っていたが、実際は祝福を受けた子供の体の中で何が起こるかは魔力の流れを研究する部門で理論的に研究されているらしい。


 周囲が騒然とする中、俺はというと祈りを捧げた最初の姿勢のまま俯いていた。皆には見えていないと思うがその時の表情はーーー口角が上り、にやけていたんだと思う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 稀有な事態ということで神官に促され教会の別室に案内してもらう。神官、ライガとフラウ、最後に俺と順番にぞろぞろと入室する。

 神官の執務室だろうか、グロース領のライガの執務室と似たような様式の部屋だった。

 人の大人の頭蓋骨よりも少し大きいくらいの水晶が置いてある。体から出る魔力の色やその強さを見る装置のようで、その水晶を通して身体を見てもらう。


 「ふぅー・・・」


 神官が深いため息を突き、天井を見つめる。


 「やはり勢いの弱い白色、ノーギフトじゃ・・・。ご家族の皆さんよく聞いてくだされ。ギフトを授からなかったものは年齢が15歳になる前に例外なくこの世を去っておる」


 俺以外皆顔面蒼白になる。


 「ああ・・・知っている・・・」「そんな・・・」


 そういえばアテナもなんかそれらしいことを言っていた気がする。あれは、別世界からの転生者がノーギフトと認定されてしまうからという意味だったのだろうか。再度アテナに会う手段が無いので確認はとれないが・・・。

 この時はまだ知らなかったが、ギフトがもらえないと短命ということはこの世界で常識らしい。


 「我が国ではほぼ前例のないこと。ギフトを授からなかったという記録があるのは他の国のことじゃ、詳細まではわからぬ。そもそもギフトを授からないことも、記録をとってあることも稀で、公表もされないじゃろう」


 両親が悲しんでいる状況で俺だけが無表情で飄々としているので、気にかけた神官がのぞき込んでくる。


 「ヒューガといったか。ギフトを授からなったことに何とも思わんのかね」「はい?そうですね、どうすればいいんでしょう」


 俺の反応を見て、神官が語り出す。


 「ふむ。この世界の歴史は知っているかね?300年も昔、まだ国の境も安定しない戦乱の世だった頃、生命に魔力が宿っていると発見されさらに研究が進み人によって偏りが見られたり特性が違うことがわかった。それまで生まれてくる者がどんな才能があるか、時間をかけて鍛錬したり試行錯誤するくらいしか方法がなかったんじゃの」


 そういうと神官は壁に掛けられているギフトの一覧を指さす。


「そして女神様の祝福によりはっきりと認識できるようになった。それが由来で祝福で授けられる個人の能力をギフトと呼ぶようになった。これが過去に発現されたものの一覧じゃ」


 そこで見たギフトの種類の総数は数えると30くらいだった。なんか少なくないか?転生するときに見たあの白い部屋のリストを出来る限り思い出してみる。確か全部で50種類くらいあったので、半分は言いすぎだが明らかに少ない。

 剣術や魔術に関するもの、知識を得られるものが書いてあるところまでは同じだ。しかしそこで途切れている。読心術といった相手の意識に干渉するものが書かれていないし、錬金術など他にもまだ種類があったはずだ。

 ここに書かれていない残りの能力はこの世界で存在しないことになっているのだろうか。


 「あの、質問して良いですか」「ん。何じゃ何でも聞くが良い」


 神官の見た目は厳格な雰囲気だが性格は寛容な人物のようだ。子供が好きなのだろうか。


 「ほかにギフトの種類は無いのですか?」「ない。女神から祝福を受けられるようになりこの装置で鑑定できるようになってから漏れなく記録がとられておる。女神様から才能を見出され、この30あるギフトの中から必ずひとつ授かることになっておる」


 ・・・となると、俺が既にもらったはずのギフト、読心術はその中にはなく、鑑定装置に反応しなかった。なので今日俺はノーギフトの烙印を押された、というわけだ。


 ライガとフラウは表情を曇らせたまま黙ったままだった。神官が見かねたように口を開く。


 「グロース殿、教会側からしてやれることはもうない。ひとまず今日のところはお引き取り下され。今日の事はすぐに広まることは無いじゃろうが教会の帳簿には登録されることになる。国が管理する情報じゃ、ギフトを持たない者が出たと広まるのも時間の問題でしょうな。・・・御子息のことは家族皆でよく話し合う事じゃ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 帰りの馬車の中。俺以外皆落ち込んでいた。俺が今朝やっていたように、今度はライガが眉間にしわを寄せ考える人のポーズをしてうなだれている。フラウは馬車に乗ってからずっと泣き止まない。


 「例え、努力して力をつけたとしてもっ・・・!」「15歳、あと数年しか・・・うぅっ・・・」


 今まで育ててきた自分の息子がノーギフトという事実を受け止めきれず絶望していた。追い打ちをかけるように15歳の誕生日を迎える前に亡くなってしまう。あくまで他人の記録だが。


 天気は変わり、雨が降っていた。まるでこの状況を表しているのかのようだった。ひたすら馬車が進むガラガラという音とフラウのすすり泣く声だけが響いている。この状況ばかりは読心術の能力があったとて、どうにもならない。というか事前にギフトをもらってしまっていたことがこの事態を招いたのだ。それに気付いてから、段々と申し訳なくなってきた。何か言うべきだろうか。今この状況で子供が親に言うべき言葉か・・・。


 「例え15年と短い人生だとしても精一杯やらせていただきます。あなた達から頂いた大事な命です。見ててください。父さん、母さん」


 精一杯の出まかせだ。自分でもよくわからない事を口にしてしまった。俺のコミュ障は治る気配はない、というか読心術に頼るあまり会話の質が低下している気もする。

 ふたりが俺の言葉を聞いているのか聞いていないのかよくわからなかった。


 そりゃあ、実は俺が転生者であるとか、ギフトを既に持っていると打ち明けてしまえば解決するんだろうけど。それならお前はどんなギフトをもっているのだと聞かれてしまうだろう。打ち明けたくても打ち明けられない。ならば本当に何のギフトを授からなかったという体裁でこれから過ごしていくしかない。


 その後の馬車内の雰囲気は変わらず暗かった。


 家に着くころには日は沈みかけていた。神官からギフトを授からなかった場合の話を長々とされ、教会から家に帰るころには昼食の時刻はとっくに過ぎ、既に夕方となっていた。

 いつものように夕食を作る手伝いをする。今日という日のために準備してあったのだろうか、いつもより食材の質も良く種類も豊富だった。

 準備が終わりそのまま夕食となった。俺とライガはいつものように食べた。揚げ物や、肉や魚と至れり尽くせりでとてもおいしかったが、フラウはほとんど口にしていなかった。


 ライガといくつか会話しながらの食事だったが、ギフトやスキルの話を避けている様だった。剣術や魔法の話をしてしまうと話が広がって今日起きた件に繋がってしまう可能性があるからだろう。領内の出来事とか天気の話とか、あとは取り留めの無い話をしたと思う。


 食事が終わったのでいつものように火と水の魔法で風呂を沸かし、そのまま入浴。就寝するために部屋に向かう途中、フラウがリビングで食器の片づけをしていたので声をかける。


 「母さん!ご馳走おいしかったよ!父さんもおやすみなさい!」

 「おやすみなさい」「おう、おやすみ」


 いつものようにふたりにおやすみの挨拶をし、自分の部屋へ。


 時刻はまだ21時過ぎで、いつもは図書館で借りてきた本を読んでいる時間だがベッドに入る。


 「くくくっ・・・!」


 両手で掛け布団を引っ張り、自然とにやけてくる顔を覆う。なんとかこの日を乗り切った。そして読心術はなんてものがあることを知られることはなかった。もしそうなった場合の今後のことも考えていた。

 しかしそれも杞憂になり、昨日ライガの言った通りこの世界に生を受けるものとして例外なく最高の日となった。まあ俺だけにとっては、だけど。


 帰ってきてから確かめたが、ギフトを授からなかったからといって読心術が使えなくなっていると言う事はなかった。剣を握って確かめたが、スキルレベルのほうも問題なし。


 ノーギフト。この世界でギフトを授からなかったものは今まで15歳を超えたことはない。

 おそらくは俺と同じ他の世界からの転生者で、あの白い部屋を経由してギフトを選択してこの世界にきた者たちだろう。どんな生き方をしたのだろうか。元々生きてきた世界にギフトなんて概念がなかったもんだから、その力を得たことで舞い上がってしまったのではないか。

 俺が生まれてくるすぐ前まで戦乱の世だったのだ。アテナから授かったギフトの力を過信し、それに頼りっきりで他の力を伸ばすことまで手が回らなかったのではなかろうか。でも、ギフトの力を最大限生かすことなんて大前提だろ・・・。才能があったところで胡坐をかかずにもっと努力しなかったら厳しい世界で生き残れないのは当然のことだ。もったいない。


 そんな事を考えながら、深いまどろみの中へ。

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