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56.2人と1頭の旅

 「ソラ!?どうしたの!?」

 「わからないけど・・・毛色が変わっただけで特に問題は無いみたい」

 各馬の魔法を披露する出番が終わり、観客席にいたシルヴィアとギニーがアリーナに降りてきた。たてがみや尻尾が金色に輝きだした事にシルヴィアが驚いている。


 各属性の魔法使いにより、厳正な審査の元、各馬が披露した魔法の格付けがされる。


 〈〈風魔法を披露したイン・ザ・スカイ!その空を飛ぶ様はまさしく風魔法エアライド!〉〉


 ソラが披露した風魔法への評価が下る。自分もしくは他者に魔力を放つことによって身体能力を向上させる魔法の名前が挙がる。


 〈〈ダービーが始まって以来、銘打たれた魔法が披露されることは前代未聞のことであります!〉〉

 〈〈そんな魔法を披露してくれたこの馬に、サンセット・ダービー最高の栄誉を与えたい!〉〉


 興奮冷めやらぬ観客から再度大きな歓声が上がる。今年の最優秀賞はソラの風魔法に決定し、賞金とともに大きな4色の魔石をあしらったトロフィーが授与されギニーがそれを受け取った。

 その後会場前の広場で大衆を巻き込んだ祝勝会が行われた。街中の建物と建物の間に〈イン・ザ・スカイ〉の文字が書かれた垂れ幕が掛けられている。こちらにそんな用意があるわけもなく、大会側が用意してくれたもののようだ。民衆に無料で食べ物や酒を振舞うことで「来年のダービーでも集まってね」という意味もあるそう。ほとんどの人が予想だにしていなかった風魔法を披露する馬が優勝したので、大勢の人が大損をこいたはずだがそこにいた人は誰もが幸せそうにしていた。

 広場の中央で最優秀馬としてソラの馬体が披露されることになった。枯れ草が盛られ膝を折りその上に鎮座している。大勢の人にベタベタと触られているにも関わらず落ち着きはらい、堂々としていた。金色のたてがみを携え一層風格が増したといったところか。道行く人々には馬の事で根掘り葉掘り聞かれることになった。厩務員として側にいた俺やシルヴィアは特にどうやって風魔法を教えたのかを聞かれることとなった。何度同じ話をしたかわからない。

 魔法演舞全体のレベルのことを考えるなら、あの魔力に満ちた森のことも言うべきなのだろう。あの場所に連れて行けば良い魔法の練習になる筈だ。しかしソラは俺とシルヴィアだけにあの場所を教えてくれたようなので、言わないでおく。ここで広めてしまうとソラの生まれ故郷が荒らされてしまうかもしれないという懸念もある。


 「ニンジン、あげてもいい?」

 「いいよ。優しく撫でてあげてね」


 幼い子供が馬の好物とされているニンジンを片手にソラの下へ駆け寄ってきた。シルヴィアが笑顔でそれに応え餌のあげ方を教えている。本来なら危険な行為だが近づけられたニンジンを子供に合わせて少しずつ食べている。厩務員に火魔法でいたずらをしていた頃の事が噓のようである。


 「旅に出てから、3ヶ月だね。あっという間」

 「ああ、本当に」

 

 モンテブルグの国境を越え、ギニーと会い、ソラと出会ったあの日がまるで昨日の様だ。

 そして3ヶ月と言えば、グロース領の声明で俺の死が公表される頃だ。コーラリアでも、行方知れずのシルヴィアの捜索が始まっているかもしれない。

 

 「出発する前にフラウさんに手紙を出すんだけど、ついでにヒューガも誰かに出さない?」


 シルヴィアが他人にその名前が聞こえないように話しかけてくる。


 「手紙?俺が?う~ん・・・誰に出そう?」

 「それは、あなたが決めて」


 旅に出ることにしたあの日に散々話したライガやフラウは良しとして、今頃フリーデンのみんなはどうしているだろうか。今更わざわざ手紙で何かを伝えるとなると気恥ずかしい。

 満点の星空を見上げながら、考える。・・・そうだ。今手紙を出すなら、あいつと、彼女にかな。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 祝勝会をした翌朝。


 「ホースマンとしての夢を見させてくれて、本当にありがとう。達者でな」

 「はい。ギニーさんもお元気で」

 「短い間ですがお世話になりました。・・・ソラも、元気でね」


 ギニーとソラに別れの挨拶をする。シルヴィアは別れ際、ソラの頭を入念に撫でていた。俺は敢えてソラには触れず、姿を見ないようにしていた。触れるともう離れられないような気がして、怖くなった。

 出発する際、シルヴィアを乗せるための馬を借りることは出来なかった。ダービーを観に来る人々の帰路に使われるため、都市にある厩舎の馬はどこも予約でいっぱいだった。馬を借りられる厩舎がある集落までは歩いての移動になる。


 「あ、あれ・・・」


 ふたりだけで北へ伸びる道を歩き始めて小一時間もした頃。シルヴィアは次第に歩幅が狭くなっていき嗚咽と共に泣き出してしまった。歩くのもままならないようで、馬を借りられる厩舎がある集落まで行くどころではなくなってしまった。


 「急ぐわけじゃないしさ。落ち着くまで休憩しよう」

 「ごめんなさい。さっきまで、平気、だったのに」

 「うん。一旦落ち着こう」


 泣きたい気持ちはすご~くよくわかる。俺自身、ダービーが始まる前から別れる時の気持ちの準備はしていたが結局気持ちの整理が出来ずにいた。以後出会う馬がどれほど素晴らしくとも、ソラと比べれば駄馬になるだろう。

 休憩できそうな手ごろな樹を見つけ、その側で腰を落ち着かせ、彼女の背中を摩る。周囲の鳥の声、心地よい風が吹く音にすすり泣く声がかき消されていく。


 その時。ふと来た道の脇にある草むらから、ガサッと何か飛び出す音がする。急にそんな音がするもんだから驚いてしまう。大きさからして、馬だ。この辺に住む野生馬だろうか。

 でも。もしかして、もしかすると。鼓動が早くなる。飛び出してきたその物体の正体を確かめようと立ち上がり、武術スキルを使って身体を動かすことも忘れ、無我夢中で足を動かす。


 「はぁ、はぁっ・・・ソラ、ソラっ・・・!」


 武術を修めた者とは到底思えないような無様な格好で走りながら、無意識にその名を口に出す。見間違る筈もない、金色のたてがみ。全身白の葦毛あしげ。何があっても動じる事のない、空を駆ける馬。


 「なんで、お前」

 「ソラ!」


 どうしてここにいるんだ?ギニーと一緒に帰ったんじゃないのか?嬉しい感情と、この状況を理解しようとする疑問とが、交互に浮かんでくる。頭の中がぐちゃぐちゃだ。


 「あ、これ。あぶみに何か挟んであるよ」


 本来は乗り手が身体を安定させるために足を掛ける部位に、巻き紙が挟んであった。固定するために括り付けてある紐を解き、その内容を読む。


 ーお前たちが居なくなった途端暴れるもんだから手が付けられなくなったー

 ーどの道連れ帰ってもダービーで優秀な成績を収めた馬は二度出場できないー

 ーあの厩舎で持て余すくらいならお前たちにくれてやるー

 ー旅の安全を祈っている ギニー ー


 馬が暴れる側で急いで書いたのであろう、走り書きでそんな内容が書いてあった。おそらく人が発する匂いを追ってきたのだろう。馬の嗅覚は非常に優れており匂いで人を認識している、なんて前にアイリから聞いたことがある。


 「本当に、これからあなたと一緒に旅ができるの?」


 シルヴィアが近づき首を撫でると彼女の頭の高さまで首を下げ彼女の顔に鼻を摺り寄せている。ソラとシルヴィアがじゃれている様子を見ていると今度はこちらの視界がぼやけてきて、涙が出てきて止まらなくなった。


 「もう、なんで泣いてるの?」

 「だってぇ・・・。もう二度と会えないって思ってたから。大会が始まる前から、終わったらもうお別れだって」

 「もしかして、それで元気が無かったの?私よりよっぽどじゃない」


 ソラの鞍上にシルヴィアが跨る。その横で俺は嬉しさでぐすぐすと泣きながら歩いていく。2人と1頭、北へと向かう。モンテブルグとは北の国境で接する国、フエゴ―スへと向かう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次回から残された人たちの幕間話をいくつか挟んだ後に北の国編が始まります

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