53.いざサンセット・ダービーへ③
ギニーの厩舎とサンセット・ダービーが行われる都市のちょうど中間にある集落を通過。
都市が近くなるにつれ補給が出来る集落が多くなり、そこからは厩舎が併設されている宿に泊まることが出来るようになった。
ソラの飼い餌も尽きたが、立ち寄った厩舎でちゃんと管理された飼い餌にありついていた。道中に大量の飼い餌を背負う必要も無くなったので、俺の背中に剣が戻ってきた。
そこからさらに西に向けて進み、サンセット・ダービーが行われる都市に無事到着した。
その街の様子は、まるでお祭り騒ぎ。街の通路の端から端まで人、人、人。街灯や花壇には装飾がなされ、背の高い建物からは〈サンセット・ダービーへようこそ!〉と書かれたのぼりが下りている。
道の脇に出ている屋台は食べ物を販売しているのか、良い匂いがしてくる。
「速報~!サンセット中央新聞だよ~!速報~!」
紙の束を抱えた青年が人ごみの中を駆け大声で叫びながら紙をばらまいている。テレビやインターネットもないこの世界では、主に紙媒体で情報共有が行われる。魔法演舞が開催される前日まで馬同士の速さを競うレースも行われるが、決勝が行われるまでの予選の結果が朝刊、昼刊、夕刊で伝達される。
そんな賑やかな街の様子を見て、俺たちは街の入口で立ち止まり呆気に取られていた。
「この人だかりの街の中を進むんですか?」
「いや、これじゃ馬を連れて入れないな」
「そうですね・・・」
「ウェスタニア中の人がこの街に集まってくるからな・・・。それにしても例年よりも人が多いみたいだ。街の外を回ろう」
都市の北部にレースが行われている競馬場、そして魔法演舞が行われるアリーナがある。とてもソラを連れて街の中に入れそうにないので街の外を回り込み、都市の北部に向かう。
「すごい歓声・・・」
「そうだね」
大会本部が運営している厩舎に向かう途中。既にレースが行われている会場からは、観戦しているであろう大衆からの歓声が会場の外まで聞こえてくる。
「魔法演舞も同じ数の観客が入るアリーナで行われるからな。明日はレースの決勝。この1年で最も速い馬が決まる。
俺たちの出番は、その後だ」
地響きがするほどの歓声。大会の雰囲気にのまれそうになる。ギニーは今までに経験があるようで、平気らしいけど。大勢の人の前で魔法を披露する場面を想像すると、緊張してきた・・・。
「道中お疲れさまでした。なんとまあ、綺麗な馬ですね」
「ありがとう。出番まで馬を頼みたい」
「わかりました。馬房に案内します」
大会本部が運営する厩舎に到着し、向こうの第一声がこちらの旅路を労い、馬を称賛する物だった。
「そちらの方、止まってください」
「僕ですか?なんでしょう?」
しかし、俺は厩舎の受付がある建物に入る際に指を差されてしまう。何か悪いことした・・・?
「背中のそれは何ですか?厩舎に刃物を持ち込まないでください。大会当日も持ち込めませんよ。規約を読まれませんでしたか?」
「え、えっと・・・。わかりました」
怒られてしまった。剣を背中に背負うための装着具を今最も素早く動ける早さで外す。旅の相棒を持ち込むなと言われ、落ち込んでしまう。
「忘れてた。ダービーが行われる期間は向こうもピリピリしてんだ。まあ気にするな」
ギニーに耳打ちされ、小声でフォローされる。
前に大会規約を渡された際にちゃんと隅々まで読んでおけばよかった。道中に剣術で大立ち振る舞いをしたせいで俺も気が大きくなっていたのかもしれない、反省。
厩務員に連れられ、3人でソラが世話になる馬房に向かう。ギニーの厩舎でソラが入っていた馬房よりもひとまわり大きな、手入れが行き届いた清潔な馬房だった。既に馬がくつろげるように枯れ草が山盛りになっており、それを見るや否やソラは馬具も外さないうちに寝転んでしまった。
「ふふ、嬉しそうだね。ほら、休む前に外さなきゃ」
シルヴィアの言うことを理解したのか、ソラは少しだけ身を起こし、馬具を外されていた。
「お前たちの宿代も払ってある。当日までゆっくり休んでくれ」
ソラを預けた厩舎の側には立派な宿が併設されていた。出場する馬の関係者にも万全を期してほしいという過去のダービー主催者の粋な計らいの下で建てられたらしい。
ギニーの厩舎で厩務員として働いていた間、見習い厩務員として給料をもらっていたので路銀には余裕があったが、ここはギニーの奢りらしい。
「ありがとうございます」「お言葉に、甘えます」
「いいってことよ。荷物を部屋に置いたら俺は大会本部に行ってくる。決めた馬の名前や、乗り手の変更の申請とか、色々あるからな。
あとは、あの馬鹿野郎どものこともな。道中の警備を増やすように文句を言ってくる!」
ギニーは思い出したように怒りを顕わにし、荷物を預けた後にすぐ宿を走って出て行ってしまった。
番号が書かれた鍵を渡され、シルヴィアとも別れ番号が書かれた部屋へ。
旅を始めてから、最も質の高い宿だった。部屋には、触れることで水が出る魔石が備わった鏡のある洗面台。側にはカミソリ、石鹸、清潔なタオルなどアメニティグッズが備え付けられている。身体を清めたい者はこれを持って大浴場へいけば良いらしい。
剣はいつもは部屋の入口の側に立て掛けるが、邪魔にならないような少し離れた場所に置く。ついさっき怒られたばかりだ。ここを発つまで出番は無いだろう。
なんか、どっと疲れた。部屋に入った時の恰好のまま、ベッドに身を投げる。仰向けになり部屋の天井を見つめる。
ソラと出会ってからの日々を思い出す。
最初の火魔法しか使えなかった時期は全くと言っていい程、世話のし甲斐がない馬だった。しかし空を飛ぶ夢を見てソラに風魔法を見せたあの日から一変し、毎日魔力切れ寸前まで魔法を練習するようになった。
あんなに、自分で努力できる奴だったとは。
それから数日して、ソラの生まれ故郷の森に連れられ、一緒に空を飛んだ。後になって考えたが、自分が生まれ育った場所を見せてくれたあのとき、俺たちはソラに認められたんじゃないかと思う。それからも努力を重ね、ついにはたった1分の間限定ではあるが、空を駆けることができるまでになった。
その努力を見てきたが故に、姑息な手で他者の足を引っ張ろうとすることが今までのソラの努力を踏みにじる様で。どうしても、許せなかった。
その日は何もする気が起きず、静かに宿の部屋で一夜を過ごした。
その翌日。魔法演舞本番の、1日前。
宿の1階にある食堂で俺、シルヴィアそしてギニーの3人そろってテーブルを囲みビュッフェ形式の朝食を取っていた。
「昨日、馬の名前と乗り手の変更の申請をしてきたぞ。乗り手の変更には特に問題はないらしい。
順番も決まったぞ。インザスカイは一番最後だ」
ギニーがその日の朝刊をテーブルの上に広げる。見開きで魔法演舞に出場する馬の下馬評が書かれている。先日見たものより詳細な情報に更新されている。魔法を披露する順番や披露する魔法、さらには色付きで印刷されているようで馬の毛色が再現されていた。
1番手は栗毛の白いたてがみをした、見た目が愛らしい馬。
風魔法を除き最も優勝経験が少ない土魔法。支持を集められず4番人気。
2番手は全身が黒い毛並みをしており、たてがみは黒く薄く青みがかった色をしている。
水魔法は火魔法の次に成績が良いらしく、2番人気に支持されている。
3番手は黒鹿毛の毛並みでたてがみが赤く燃えているような色をしている。
今まで最も優勝経験のある、火魔法を使う馬。大衆からの支持も厚く、1番人気。
「3番人気か」
「そうみたいですね」
そして4番手、最後に魔法を披露するは、葦毛の毛並みに銀色のたてがみ。
カッコイイ字体でインザスカイの文字。披露する魔法は風魔法。
ギニーが馬の名前を申請しに行ってからその名前がすぐさま夕刊にて公表された。本当に空を飛ぶのではないかという期待の表れなのか、最低人気だったのが3番人気に浮上している。ギニーはそれでも不満があるみたいだけど。
「度肝を、ぬいてやろうぜ。俺たちの馬は・・・本当に空を飛ぶんだって」
「はい」
俺たちは3人テーブルを囲みながら顔を寄せ合う。
目を見合わせると、ギニーがニヤりと笑っていた。




