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53.いざサンセット・ダービーへ②

 最初に切りかかってきた男の短剣を捌く。

 5人のうち、この男が切り込み隊長らしい。

 そのすぐ後ろにいた武器を持たない2人がこちらに組みかかろうとする。


 体術はその性質上、射程が短い代わりに武器を持たないので素早く動くことが出来る。

 殴る、蹴るだけでなく関節技も体術の範疇。

 こちらの身体に触れることで、動きを封じるつもりだ。


 だが、触れることによってこちらは読心術が発動する。

 こちらの刃渡りの長い剣を振った後の隙を伺っている。


 最も近い3人の心中を覗きながら剣を振る。

 

 ならず者たちと対峙しながら、違和感を覚える。

 向かい合う5人のうち、隊列の後ろで一歩引いて短剣を構えている者を見る。


 その2人は戦闘に不慣れなようで、成り行きを見守っている。


 ―東の厩舎には武術スキルを習得している奴はいないから楽な仕事だって聞いたのに―

 ―話が違うじゃないか―


 違和感とは、そいつの慌てている様子のことではなく。

 まだそいつとは距離があり武器を合わせていないにも関わらず読心術が発動していること。


 先日から馬であるソラの心の声が聞こえてきたこともそうだけど。

 これも読心術がレベルアップした恩恵なのだろうか。

 

 しかし読心術で出来ることが増えたことなど今はどうでも良い。

 囲まれているこの状況をなんとかしないといけない。


 今は幼い頃からやってきた稽古ではなく実践の場。

 我が身だけを守れば良いという状況ではなく、他の者の安全も確保しながら戦わないといけない。


 ならず者たちに意識を向けたまま、チラリと後方を振り返る。

 ギニーは野営する際に建てた厩付きの小屋にシルヴィアと一緒に身を潜めていた。

 小屋の入口から顔だけを出して心配そうな眼差しでこちらをみている。


 とりあえずは後ろを気にせずに戦えそうだ。


 5人もの人間を同時に相手する戦術を頭の中で組み立てながら、敢えて大きく振りかぶり隙を作る。

 俺は剣を空振り地面に向ける。


 その隙を見逃さず、斜め後方で拳を構えた男がこちらに組みかかろうとする。


 剣は振り下ろしたまま、隙を作ることで誘いに乗ってきた敵に右脚を軸にして左足で胴体に蹴りを入れる。

 ライガとの稽古において、彼が見せてきた蹴りだ。

 それの真似をすると、足が敵の脇腹にめり込んだ。

 蹴りを入れたならず者から「ぐふぁ」とうめき声が漏れ、身体がくの字に折れる。


 剣術に割く魔力を少し弱め体術スキルを発動させ蹴り込むことで威力を上げようと試みたのだが、上手く行った。

 まずは1人。


 そのまま手に持つ剣に魔力を込め、心の中で〈ソードスラッシュ〉を唱える。

 剣の威力を高めたまま振り下ろし正面にいた男を短剣をごと切り伏せる。

 これで2人。


 残りのならず者たちはあっという間に仲間が2人倒されたのを見て怯んでしまったのか、腰を落とし後ずさりしている。

 もしかして、逃げようとしていないか?


 「剣術と体術を巧みに使う。何者だ?」

 後方で短剣を構えながら様子を伺っていた男が口を開く。


 「答える道理はない!」

 聞かれて馬鹿正直に答えるものか。

 それに元々、追われる立場だしな。


 一度剣を鞘に仕舞い、剣術よりも素早く動ける体術でもって距離を詰めようとする。


 「チッ。退くぞ!」

 「待て!」


 逃がしてしまうと面倒なことになりそうだが、残りの3人とも別々の方向に散っていった。

 いつの間にか倒した2人も姿を消している。

 追いかけたとて暗闇の中ではどうしようもない。

 それにソラやシルヴィア、ギニーを残してこの場を離れるわけにもいかなかった。


 「カイン、大丈夫か!」

 危険が去った状況を見て、ギニーがこちらに駆け寄ってくる。


 「はい。奴らを逃がしてしまいました」

 「そんなことは今どうでもいい。お前が無事でよかった。

 そうだ!馬は?」

 ギニーはこちらの無事を確認し冷静になったのか、思い出したように馬のことを気に掛ける。

 野営するために建てた小屋に隣接している厩に向かう。


 シルヴィアがソラの様子を見ている。

 3人で厩の中の様子を覗き込む。


 「寝てる・・・」

 

 ソラは枯れ草のベッドの上で静かに寝息を立てていた。

 人間同士の争いなど些細なことで、我関せずといったところだろうか。


 「なんて馬だ。肝が据わってるというか」

 「まったく・・・」


 ギニーがソラの様子を見て苦笑いをしている。


 「すぐにでもここを離れたいが、陽が暮れちまってるし今は休むしかない。

 西へ半日も進めば物資を補給できる集落があるから、そこで落ち着こう」 

 「わかりました」

 

 ならず者たちが言っていた言葉を反芻する。

 ソラの葦毛のことを確認していたし、魔法演舞に出場する他の3頭のうちのいずれかの関係者が襲撃するよう依頼したのだろうか。


 小屋の中で毛布を被り、横になって目を閉じる。

 剣を振るった拳を握りしめると、まだ熱が残っており震えが止まらなかった。


 奴らとの戦闘では一度に多人数を相手取るという初めての経験をした。

 先の大戦を経験したライガやリベル教官であれば、対峙した際に味方と相手の力量を見て戦術を組み立てるのだろうけど。

 初めての経験にも関わらずこちら側の損害を出さずになんとか撃退出来たのは、運が良かったからだろう。


 そして、読心術。

 今までは直接対象の肌に触れるか所持品を伝わることでしか発動しなかった制約がここにきて無くなったようだ。

 それに今まで同時に1人までだったのが、同時に対峙した5人の心中を聞くことが出来た。


 今一度、レベルアップした読心術で出来ることを確かめたほうがよさそうである。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 厩舎を出発してから4日目。

 ギニーの指示で念のために野営の痕跡をなくすため、出発する際に野営するために建てたものを崩すように言われる。


 シルヴィア製の小屋は、それなりに頑丈だった。

 作ったものを崩す際にもまた魔力を消費するので、俺としては魔力切れが気がかりなのでできればやりたくないが、仕方がない。


 「誰でも通りがかったときに使えるから、少しもったいない気もするけど」

 「これも旅の安全のため、仕方ないさ」


 シルヴィアと一緒に野営で使った設備を片付ける。

 早朝の散歩で歩いているときの様に、無駄話をしながら片付ける。


 「片付けは済んだか?

 陽はもう上っている。出発しよう」


 ソラに食べさせるために背負っていた飼い餌は無くなったので次の目的地までは身軽になった。

 飼い餌を背負うために剣を腰に巻いていたが、今は剣を背中に背負っている。


 「カイン、昨日は本当に助かったぜ。

 道中の用心棒を雇おうにも、武術に長けた者なんてウェスタニアにはそうそういないからよ」


 ギニーが俺の剣を見ながら、話しかけてくる。


 「しっかし5人の大人を相手に引けをとらないなんてな。

 武術は旅をしながら身に着けたのか?それとも元々武術の家系とかか?」


 そして、俺の剣の腕の話になる。

 ギニーには世話になってるとはいえ、身の上のことをべらべらと喋るわけにもいかない。


 「カインの剣術はですね。以前モンテブルグで起きた戦争の、」

 「ミア。・・・すいません、言えません」


 鞍上から俺のことを自慢げに話し始めるシルヴィアを止める。


 「そうか。何か事情があるんだな」

 「ここまで世話になってきておいて、申し訳ないです」

 「いや、いいさ。

 それにこっちもお前たちから十分すぎるほどしてもらってるからな」


 そこまで話して3人の間に沈黙が流れる。

 沈黙が流れ、ふとふたりが何を考えているのかが気になった。


 ふたりに気取られないように周囲に薄く魔力を充満させ、まずは馬上のシルヴィアに意識を向ける。


 ーギニーさんになら、私たちの事言ってもいいと思うんだけどなー


 やはり触れていないにも関わらず、読心術が使える。

 周囲に満たした魔力を通じて発動条件を満たすことが出来るようになったらしい。

 

 次はギニーに意識を向ける。


 ー魔法といい武術といい、やっぱりただもんじゃないぜー

 

 ギニーは心の中で、先程の俺たちとの会話の続きをしているらしい。


 ーしかしこのふたりが旅人なんてよ、もったいないぜー

 ーこれからもずっと、あの厩舎で馬の世話をしてくんねぇかなー


 そのギニーの心の呟きを聞き、俺の心臓の鼓動が大きくなる。

 

 あぁ、そうか。

 俺たちは、行方を眩ますための旅の途中だ。


 このサンセット・ダービーが終わったら。

 ギニーやソラとももう、お別れなんだな。

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