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51.下馬評

 ソラの風魔法は日を追うごとにレベルアップし、その魔法でもって身体を浮かせるまであと一歩といったところまで来ていた。


 魔法のギフトを授かったシルヴィアが言うには、フリーデンでやっていたようにとにかく魔法を使って練習するしかない。

 俺もそれに納得し、ソラの魔法の練習に付き合う日々を送っていた。


 ダービーまであと1ヶ月といったところのある日。

 時刻は午後にさしかかり、魔法の練習時間になった。

 シルヴィアと共に、いつものように放牧地へ。


 「今日も気合が入ってるな。

 どう、どう」


 ソラの手綱を引いて落ち着かせようとするが、四肢を地面に着けたままヒヒンといななく声を上げている。


 ー乗れー

 「え?」

 「どうしたの?」


 乗れ、と言われてもね。

 今日の風魔法の練習は良いのか?


 ー行きたいところがあるー

 ーいいから、乗れー

 「・・・乗れってさ」

 「乗る?ソラに?」


 明らかにソラの様子がおかしいので心の中を覗いたところ、俺たちを乗せて何かしたいようだ。

 どこかに連れていきたい、といったところか。

 今は放牧中とはいえ、厩務員としてれっきとした仕事の最中だと言うのに。


 まず俺が鐙に足をかけて飛び乗る。

 その後にシルヴィアが土魔法で乗り台を作りソラに負担をかけないようにゆっくりと乗ってきた。

 

 俺たちを乗せ、ソラは勢いよく駆け出す。

 放牧地の柵に向かって走っていき、軽々と飛び越えた。


 ソラの魔法の練習に付き合わない他の厩務員は午後の放牧の時間は別の場所で休憩している。

 柵を飛び越えたところを見られてはいないと思うが、抜け出したことが明るみにならないと良いのだが。


 ソラは風を切り、銀色のたてがみをなびかせながらひたすらに走る。

 魔法が使える馬とはいえ、その速さや脚力は競走馬に引けを取らない。


 「どこへいくの!?」

 「わからない」


 何もない草原を駆け、小1時間。

 大きな樹が生い茂る森が見えてくる。

 森の側まで近づくと、身を包まれるような温かい魔力を感じられた。

 

 ソラはその森に入る前に少し立ち止まった後、再度森の中へとゆっくりと進んでいく。


 「知ってるところなのかな?」

 「さあ・・・?」


 周辺の茂みや四方の樹の上から、絶えずガサガサと葉の音がする。

 森に住む昆虫や小動物たちだろう。

 森の奥からは心地の良いそよ風が吹き、顔や露出している肌を洗う。


 全身に鳥肌が立つくらいに美しい緑が視界を覆う。

 まるで、森全体が俺たちを歓迎してくれているかのようだった。


 馬上に乗って進むこと数分、底まで見える澄んだ水が溜まる湖に着く。

 いたるところで鳥や小動物が水面に口を付けている。


 ソラが動かなくなったので、ふたりで下馬する。


 生い茂る樹の葉の間から日が差す、筆舌に尽くしがたいなんとも神秘的な光景だった。

 周囲一帯から身を包まれるような温かい魔力を感じる。

 

 周囲を見渡しながらソラの頭を撫でる。

 どうして、俺たちをここにつれてきてくれたのだろう。

 

 ーここで私は生まれ育ったー

 ー魔力に満ちたこの森で、父と母と共に暮らしていたー

 

 家族と共に湖の側で過ごした日々を思い出すソラ。

 親の見ている側で、魔法の練習をする。

 両親の全身の毛色は葦毛で同じだが、たてがみや尻尾はソラとは違って金色に輝いている。


 父馬は土の魔法。母馬は水の魔法。

 そしてソラは、両親の見ているところで火の魔法を練習する。


 魔力に満ちているこの環境は、魔法の練習をするのに最適な環境だったのだ。


 ー私が成長する頃に人間に捕らえられ親と離れ離れになってしまったー

 ー父も母も、今はどうしているかわからないー


 ギニーからはどういった経緯でソラがあの厩舎にやってきたのかは聞いていなかったけど。

 この森を訪れた御者に捕らえられ、ギニーの厩舎に売られるという形でやってきたというわけだ。


 「この森がソラの生まれ故郷らしい」

 「そっかぁ。きれいな森だね」


 ふと、魔力に満ちているこの環境で魔法を使ったらどうなるのだろう、と興味が沸いた。

 ソラの前で見せた、身体を浮かせる風魔法をもう一度試す。


 軽く魔力を放っただけなのに、足元に空気の塊を帯びさせることに成功する。

 そのまま、湖の水面へ歩き出す。


 「ヒューガ!?・・・大丈夫なの?」

 「こりゃすごい」


 シルヴィアに止められるが、俺の足は水に沈むことは無かった。

 水面と足の裏の間にしっかりとした空気の層ができ、ふわりと水面を歩くことが出来た。

 

 高度な風魔法を使っているにも関わらず、俺は魔力をほとんど消費していない。

 魔力に満ちたこの森の環境が、魔法の補助をしてくれているおかげだろう。


 ソラも真似をして湖の上を歩いてくる。

 足元に空気の層を纏わせ、水面を歩いているようだ。


 今なら、水の浮力も合わさって浮いているように見える。

 横から見た絵から水面より下を切り取れば、宙に浮いているという風に見ることもできるかもしれない。


 ダービー当日は今のような周囲に魔力が満ちている環境でもない上、魔法演舞が行われるアリーナ全体に水を張るわけにもいかない。

 空を駆ける魔法を披露するのならば、風魔法の力以外は何も使用してはいけないというルールだ。


 ならばこの森にいる間に、空を駆けるイメージを持ち帰るくらいはしないとな。

 ソラと共に湖畔に戻り、おもむろに鞍上へ飛び乗る。

 それから馬体が宙に浮くようにソラの足元を強くイメージし、風を纏わせて宙に浮かせる。


 「いけるか?」


 ソラが空を駆けるイメージをしやすいように、鞍上の俺が補助をする。

 こちらの意図を読み取ったらしく、足元を浮かせたまま走り出した。


 馬特有の脚力でもって飛び上がり、飛び上がった高度を維持するように俺が支える。

 高さは地面から5メートルといったところか。

 俺たちは、今確かに空中を走っている。


 「すごい!」


 下から見上げるシルヴィアが歓喜の声を上げている。


 しかし、徐々に高度が落ちていく。

 それに逆らうようにソラ自身も四肢に魔力を込め馬体の高度を保っている。


 これでは空に留まっているだけというか、ホバーしているだけだけども・・・。

 一応は、空中を走っているようには見える。


 高度を保ったまま、湖の上の開けた空間を1周、2周した後。

 少しずつ魔法を解き高度を下げていき、シルヴィアがいる湖畔に戻る。


 「ソラ!すごいよ!」

 「まるで本当に空を飛んでいるようだった・・・」

 

 俺の手綱を握る手が、興奮で震えている。


 初めて風魔法を発現させたときと同様、シルヴィアがソラの首元に抱き着いている。

 これでソラの頭の中に空を駆けるイメージが固まれば良いのだが。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夕暮れが近づき、森を出て厩舎に戻った。

 馬房の中でソラを就寝させるための作業をしていると、ギニーが身なりの良い人物と話しながら歩いてくる。


 「ウェスタニア中央新聞の記者でケントといいます。

 今日はよろしく、ギニーさん」

 「よろしくお願いします」

 「早速馬を見せてもらっていいですか?」

 「はい。馬房がそこに。

 おぉ、カインにミア、ちょうど良い。

 こちらの記者の方がダービーの記事を書くために、取材に来てくれたそうだ」


 ギニー、ケントと合わせて4人でソラの馬房の前へ。

 記者が取材しにきたにも関わらず、ソラは我関せずといった様子で枯れ草を山盛りにしたベッドの上で横たわってくつろいでいる。


 「なんというか、のんびりした馬ですな。

 本当にこの馬なんですか?」

 「気性が穏やかな馬でして。

 それと、前に火魔法を使う馬だと言いましたが、ダービーでは風魔法を披露するから、記事にはそれで」

 「風魔法ですか!?ギニーさん、正気ですか?」

 「ああ。まだ魔法を見せることは出来ないがね。

 馬の名前も、ダービーの当日に申請するつもりだ。

 日に日に魔法のレベルも上がってきている」


 それを聞いた記者のケントは下を向いて俯き、わかりやすくクスクスと笑っている。


 「いや失礼。しかしよりにもよって風魔法とは。

 ・・・ククク」


 記者のケントは言い終わっても、まだ笑っている。

 あくまでこちらに失礼のないように、と笑いをこらえているらしい。


 「笑うなら笑ってもらって構わない。

 俺はこの馬のことを、そして気難しいこの馬を毎日世話してくれている厩務員のことを信じている。

 大会当日を楽しみにしておけ」


 記者の失礼な態度に対し、それでもギニーは自信に満ちた表情で答える。


 「そうですか、まあ記者としての仕事は果たしますがね。

 良い記事には期待しないでくださいよ」


 それだけ言い残し、記者のケントは帰ってしまった。

 風魔法と言っただけで笑われてしまったが、どういうことなのか。


 「風魔法で出ちゃまずいんですか?」

 「せっかく馬もお前たちもやる気になっていたから悪いと思って黙っていたんだが・・・。

 風魔法で魔法演舞に出るのは圧倒的に不利なんだ」


 ソラの馬房の前で、ギニーがバツが悪そうに話し始める。


 「今まで風魔法を披露してダービーで優勝した馬はいないんだ。過去一度たりとも」

 「一度もですか?」

 「ああ。魔法演舞は性質上、披露する魔法の見た目でどうしても評価されちまう。

 火魔法は炎を、水魔法は水を、土魔法は土で魔法を見せることができる」

 「あぁ、なるほど」

 「ええっと・・・?」

 

 ギニーの話を聞いて俺は納得したが、シルヴィアは首を傾げている。


 「思い出してみて。大会規約に当日の会場の見取り図が書いてあったでしょ。

 アリーナの中央で魔法を披露する馬を観客も審査員も遠目でしか見ることができない」

 「馬が使えるとされているレベルの風魔法は風を起こすだけで目に見えないからな。

 評価もし辛いんだ」

 「そんな・・・」


 取材を受けた数日後。

 ギニーの家の郵便受けに投函された新聞に目を通す。

 新聞の見開きに下馬評と称された表には、馬の絵と共に詳細な情報が記載されている。

 前世であった競馬のように、今回の大会でも馬に投票する方式で馬券が販売されるらしく、その人気も書かれている。


 「・・・4番人気か」

 「そのようですね」


 下馬評を見たギニーが、ポツリと声を漏らす。

 記者のケントが言っていたように、風魔法を披露する馬を支持するものはほとんどいないらしかった。


 魔法が使えるようになる馬は貴重らしく、今回の魔法演舞に集う馬の頭数はたった4頭。

 その中でも、ソラに対する人気は最低のものだった。

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