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4.アテナの祝福

「ヒューガ、大事な話がある。座りなさい」「わかりました」

ある日の昼下がり。季節は初夏といったところか。フラウとの魔法の練習も終わり夕方になろうとしていた。親子でリビングのテーブルに対面になるように座る。


「明日で11歳の誕生日だろう。朝から教会に行くぞ。ついに、女神の祝福がもらえる日だ!」「えっ、どうゆうことですか?」

誕生日と言えば未だに転生前の方が意識が強かったのですっかり忘れていた。女神の祝福と聞き、あまりにも寝耳に水な話だと思った。嫌な予感がする。

「もしや・・・ギフトを授かるとか?」「なんだ、知っていたのか?ギフトについて全部話すと長くなるから、簡単に当日の教会で何をするか説明しようじゃないか!」

ばかな。じゃあこの読心術はなんなのだ?


ライガが祝福を受ける際の流れの説明をする。教会には天井まである大きな女神の像がある。その前で膝をつき、目をとじて祈りをささげるとギフトを授かる。

その後どんなギフトを授かったのか鑑定される。本人と同伴者に説明があり、国が管理する教会の帳簿に登録されるとのこと。

「授かったギフトって周知されるのですか?」「そうだ。晴れてこの国に生まれたひとりとして歓迎されることになる。ヒューガはどんなギフトがもらえるんだろうな?」


全身から血の気がひき、冷汗がでてきた。背中に汗をかきシャツが透けてしまっている。まずい、まずいぞ…。


「どうしたんだそんな難しい顔をして、今から緊張しているのか?心配しなくとも役に立たないギフトなんて存在しない!そしてそのギフトの能力を伸ばす養成学校がある!まあギフトが無くたって今のお前の実力でも十分入学することはできるだろうがな!」

ガハハ!とライガは得意気に笑っている。


俺のもらったギフト、読心術は相手に感づかれることなく心が読めるという能力だというのに、それを周知されるかもしれないピンチなのだ。こんなことなら他のギフトを選んでおくんだった・・・!なぜアテナはこのことを教えてくれなかったんだ。

あの白い部屋にずっと籠っているからこの世界のことを知らないんじゃないのか?いやこの世界の生活のことや生物に魔力が宿っていることは言っていたし、知らないはずがない。不安と苛立ち、感情が混じり合い、頭が痛くなってきた。


「すこし・・・部屋で休んできます・・・」「うん?ああ、軽く説明すると言ってもう夕方か!今日は午後から魔法の練習もしたし疲れたんだな!なら、夕飯になったら呼ぶからな!」

6歳になる頃には自分の部屋が与えられていた。毎朝散歩するときにライガかフラウどちらかを起こしてしまっていたからだ。俺はフラつく足取りで階段を上り自分の部屋に向かう。部屋の前に着き、力なくドアを開き部屋に入り力なくドアを閉める。

「・・・あの子どうしたの?」

一人で夕飯の準備をしていたフラウが心配そうに言う。夕食の準備はいつも手伝っていたが今日は明日の説明を受けていたのでフラウ一人で準備していた。

「わからん。普通はギフトをもらえる日になるにつれ待ち遠しくなるもんだが」


部屋のベッドに倒れこむ。どれくらい眠ったかわからないが仮眠したあと、目覚めると部屋のテーブルに夕食が置いてあったが食べる気にならなかった。そのまままた深い眠りについてしまった。


祝福当日の早朝。昨日の夕飯の水分が蒸発しカピカピに乾いているが、片付ける気力も沸かない。

いつものように散歩にでるが足取りが重い。この散歩コースも今日で来れなくなるかもしれない。


もしこのギフトが気味悪がられてこの家から追放されたら。


・・・流浪の旅に出て、この世界の海を一人で見にいくのも良いかもしれない。


「一人で・・・子供の体力でそんな旅ができるのか・・・」

歩きながら、堂々巡りする。不安が募る。不安が不安を呼んでいる状態だ。この家に生まれてやったことと言えばなんだ。

剣術や魔術の鍛錬をひたすらやった。ライガとフラウ、面倒見の良いふたりのおかげでいくつかスキルを身に着けることが出来た。

剣術を身に着ければライガが喜んでくれた。剣が体になじみ、体が大人に近づくにつれ剣技も交えて激しく打ち合うようになった。父親と己を高め合える大事な時間だった。

魔法を身に着けるとフラウが笑ってくれた。鍛錬と言っても家事を手伝わされているので働いているようなもんだが、母親と会話する大切な時間になっていた。

しかしこの充実した日々も気味の悪いギフトを持っていると知られたら終わりを告げる。いつもの散歩道をとぼとぼと歩く。起きたばかりだがなんだか疲れたような気がして、農道の端、草が生い茂っているところにうずくまる。うずくまって、自然と遠くを見る。


遠くの小麦畑の一つ―――小さな穂が迫ってきて―――だんだん近づいてきて―――すいこまれる―――。


「はっ!?」

気が付くと意識を失っていた。10分ほどだろうか。そろそろ家に戻らないと。今日は早くから教会に行く日だ。行きたくないが、速足で帰った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

散歩から帰り玄関を開けるといつもより早くにフラウが朝食の準備をしていた。ライガは余所行きの恰好に着替えて出発する準備をしている。


「私も着替えてきますから、ほらヒューガも着替えてきて。朝飯を食べましょう」

「食べたらすぐに出発だ。お前も部屋に行き着替えてきなさい」「わかりました」

急かされるまま、俺も部屋に行き準備してあった服に着替える。準備していると外から車輪の音と共に馬のいななく声がした。出発する時刻には早いが教会行の馬車が到着したようだ。

朝食を手早く済ませ、家族一同馬車に乗る。お尻が痛くならないよう座席はふかふかのクッションになっていた。

まずライガが座り、その対面に俺とフラウが隣り合わせで座った。

「昨日は楽しみで眠れなかったよ」「あなたったら自分のことでも無いのに」

「だってそうだろう。ギフトなしで剣術は私とまともに打ち合えるほど。それだけでも神童と言われていいのに魔法の才もあるときた。」

ふたりはそんな感じで談笑していた。

そんな馬車内の明るい雰囲気を余所に、俺はというと考える人のポーズでうつむいていた。昨日からやっている堂々巡りの続きだ。これから起こるであろう事態の収束を図ろうとたくさんの”もし”を想定していた。

生前の事を思い出す。マニュアルがない無茶ぶりだらけの仕事もすることもあった。失敗の連続だったことを思い出す。自分でどうにもならない大きな失敗をした時にはクビになった時もあったっけな・・・。


「もしも・・・例えば変なギフトを授かったとしても、僕を見捨てないでくれますか?」

「な、何を言い出すんだ突然」「そうですよ、心配いりませんよ」

今更な質問だった。俺が有能なギフトを授かると期待している二人からは優しい言葉が返ってくる。読心術の発動条件であるふたりの所持品は今家に置いてきているが、俺でもそれくらいわかる。昨日から様子がおかしい俺をライガが励まそうとする。

「言っただろう、ギフトはこの世界に生まれてきたものに対しての祝福だ。ハズレはないし、必ず生きていく上で役立つギフトを授かることが出来るハズだ」

ふたりは正真正銘この世界に生まれ落ちた人間だから、ギフトを授かることに大して何の疑念もない。

だが俺は違う。あの白い部屋を経由して既にギフトを得ている。この世界の人間には想定することができない何かが起こるはずだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

馬車で揺られ1時間ほど、教会に到着した。馬車から降りると見習いとみられる簡略的な礼装の男性の神官が教会から小走りで出てくる。

「グロース家御一同様ですね。祝福の日を迎えられたこと、本当におめでとうございます。それではご案内致します」

そう言われ、我々グロース家一行は教会内に案内される。教会は女神の祝福といった祭事から結婚式まで色々な用途で使われているらしく外観としてかなりの大きさがあった。教会の門をくぐり、渡り廊下を歩く。

「こちらが祝福の間です。お掛けになってお待ちください」

家族で隣り合わせで座れるよう、長椅子が準備してある。ライガとフラウが見習い神官に礼をした後、習って礼をする。

長椅子に3人で座った後、きょろきょろと、周りを見渡す。ギフトを授かる部屋の内装は昨日ライガが説明してくれた通りだ。天井まである大きな女神像がある。白い部屋でみたアテナの顔を思い出すが・・・あまり似てないな。

15分くらいたっただろうか。奥からドアを開閉する音が響き、白く長い髭を蓄えた神官が登場する。まずは女神の像に対して礼をし、こちらを向く。

「この世界に生まれし者よ、この世界に生まれ落ち10と1年の歳月を生き、女神の祝福を受けるときが来た」

威光のある堂々とした声だった。

「早速だが祝福の議を始めたいと思う。ヒューガ・グロース君。女神様の前へ」「はい」

そういうと神官は教壇の前に。俺は起立し、言われたとおりに踏み出す。

「女神像の前で片膝をつき、両手を握り、祈りをささげよ。さすれば祝福をうけられん」

神官の声が響き渡る。それに反応するように天井から強い光が差した。・・・と思ったが、すぐに光が弱まってしまう。


どうやら終わったようだ。早かったな。

「は、はぁあ・・・?ばかな!」


神官は慌てふためいている。明らかに様子がおかしい。

「そんな、これはギフト・・・無しじゃ・・・」


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