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42.決闘

 週末の決闘に向けての準備。

 騎乗する馬や手に持つ剣もそうだが、心の準備も必要だった。


 一週間の間ずっと、気が付くと体がぶるぶると震えていた。

 これが武者震い、というやつなのか。

 いや、単に緊張していたんだと思う。


 朝起きて目が覚めると、無意識に足が外に向きいつの間にか外を散歩をしている。

 そんな日が続いた。

 シルヴィアの手を取ると、なぜか自然と体の震えが止まった。

 いつもやっているルーティンをすることでやっと、落ち着きを取り戻し日々を生きることが出来た。

 

 ジェロームの従者であるエドガーとは敵城視察と称し遭遇した日以外には訪ねてくることはなかった。

 週末の決闘のことは周りの誰にも知らせていない。

 彼女の従者であるアイリにも、同様に伝えられてはいないようだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 週半ばの午後。

 授業の無い時間を見て、注文しておいた刃を取りに再び鍛冶屋のもとへ。

 

 「ごめんくださーぃ・・・」

 鍛冶屋に到着し、店内を覗くと相変わらず誰もおらず、薄暗い照明が焚かれていた。

 鍛冶職人が出てくるまで時間があったので、陳列されている武具の中から決闘するにあたって扱いやすそうな剣を見繕っていた。

 

 特別切れ味が良いとか、希代稀に見る一振り、なんてものは求めていない。

 武器が良かったから勝てたのだ、などと言いがかりを付けられても困るからだ。

 俺の体格にあった扱いやすい剣なら何でも良い。


 「来たな小僧。言われたものは出来ておるぞ」


 初めて来たときと同様に老いた鍛冶職人がのそのそと出てくる。

 鍛冶職人は俺が渡した図面と注文した品と見られる円形の刃を店頭のカウンターに並べていく。

 とりあえず1枚あれば良かったのだけど。同じものが3枚並べられる。


 「勢い余ったもんでな、3枚作らせてもらった」

 「3枚も?ありがたいです」


 3枚の金属製の円盤には、どれも規則正しくのこ刃が付けられていた。

 手でひとつひとつ刃を付けたのであれば相当な技術だ。


 「剥き出しだと運ぶのに不便だろう。包んでやるから待っておれ」


 刃が剥き出しにならないように包装してくれるようだ。

 また少し時間が出来そうなので店内を見渡す。


 「どうした?剣が欲しいのか」

 「武術を修める者として一応1本くらい持っておこうかなーと、ははは・・・」

 反射的に適当な理由を述べ、作り笑いをしてしまう。


 「そんな理由で体を震わせておるのか」

 「え・・・」

 「どんな事情は知らんがな。ほれ、お前の体格ならこの辺だ」

 鍛冶職人は陳列されている剣の中から1本を取り出す。


 言葉にすると、ザ・平凡な一振り。

 幼い頃からライガと打ち合いの稽古で握っていた木剣をそのまま金属にしたようなものだった。

 鞘は背中に抱えるもので、馬上でも左肩に手を伸ばすだけですぐに剣を抜けるように調整してくれた。


 「何度も戦場に向かう剣士を送り出してきたからの。

 戦場に向かう奴のことはわかるのよ」

 

 そう言えば前来た時にタイガ爺ちゃんの剣を打ったって言ってたっけな。

 それ以外にも過去に大勢の兵士がここを訪れたのだ。


 魔石を加工するための刃と剣の代金を支払い鍛冶屋を出る。

 剣は校舎に持ち込むわけにはいかないので、早朝に散歩に向かうときに通る地下道の出口に置いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 来る週末の早朝。

 いつも実家に帰省する厩舎に寄り、馬を1頭借りて首都南部に向かう。


 「再度入厩を確認できない際は馬1頭分の代金を請求しますのでお忘れなく。

 では良い旅を」


 マニュアル通りの文言を従業員に言われて気付くが、決闘で馬が傷つけば返せないかもしれない。


 グロース領の両親には週末の午前中に用事を済ませてから帰るので、いつもより遅れた時間に帰省すると手紙を送った。

 そういった準備もぬかりなく。諸々の準備を終え、決戦の場へ。


 決闘で使う剣を取りに地下道の出口側に行くと、そこにはシルヴィアがいた。


 「おはよう」

 「・・・おはよう」

 

 馬から降りて彼女に挨拶する。決闘の様子を見に来たようだ。

 地下道の出口に置いてある剣を持ち出して背中に背負う形で身体に括り付ける。

 それからいつも帰省するときにやっているように馬の蹄に土魔法を施す。


 彼女の心配そうな様子を余所に、淡々と準備を進める。

 

 「それ、何をしてるの?」

 「馬の蹄って割れやすいからさ。保護してるんだ」

 「私にやらせて。ヒューガ、これから戦うっていうのに。魔力使わない方がいい」

 俺がやったのと同様に残りの3つの蹄にも保護がなされていく。

 例に漏れず圧倒的なクオリティだったので俺が最初にやったものはバラされ、4つの蹄にシルヴィア製の蹄鉄が施された。


 「ありがとう。ちょっと、散歩しようか」

 「うん」

 俺は馬に跨り馬上から彼女を誘う。

 シルヴィアは鞍の高さまで階段状に土魔法で乗り台を作ると、馬の俺の前に乗ってきた。

 そういうことではなく、馬の側についてくるのだと思ったけど。乗ってくるとはね。


 「うわぁ、すごい。高いね」

 馬上から毎朝歩いている散歩道を眺める。

 いつもより目線が高く遠くまで見渡せるので新鮮な気持ちだった。

 

 そよそよと風が吹き、身体をくすぐる。

 耳を澄ますと、ちょろちょろと川のせせらぎが聞こえてくる。

 

 いつもと違うのは、目線の高さ。

 それから足元からは、馬の蹄の音が聞こえる。

 

 そうして散歩すること、10分ほど。


 「2人して呑気に散歩か?いいご身分だな」


 決闘の相手が現れた。

 そしてその後ろにはジェロームとエドガー、そして近衛兵2人。

 全員が馬に乗っており戦う準備万端と言ったところか。

 決闘の相手ってジェロームだけじゃないのかよ。

 

 「まずは逃げなかったことを褒めてやろう!ヒューガ・グロース!」

 彼の口から俺の名前が。

 そう言えば面と向かって名乗ったことはなかったな。


 「お前の祖父や父親が〈ウォーデン〉の一員として先の大戦で武功を挙げたことは調べさせてもらったぞ!

 武術の家系らしいな!」


 戦うにあたって俺の身の上を探ったことを告げられる。律儀なことだ。

 これから刃を交えるというのに、急に小物臭がしてきた。

 こんな相手に俺は緊張していたのか。


 「はぁ・・・いいよ。4人まとめてでもいいから、早くかかってきなよ。

 エドガーさんも何らかの武術が使えるんだろ?」


 俺はシルヴィアの顔を見て、降りるように促す。

 乗るときと同じように側に台を作って足を伸ばし、ストンと降りていった。

 

 「なっ・・・減らず口を!お前ら、絶対に手を出すな!」

 俺の言葉にジェロームが激昂している。

 挑発したつもりはなかったんだけどな。


 馬上で向かい合う俺とジェロームとの間にエドガーが入ってくる。


 「コーラリア王室使用人、エドガー・ナイトローズが決闘の見届け人をさせて頂きます!

 馬上から落馬、もしくは戦闘続行が不可能となった場合、決着とする!」


 決闘前の口上を述べ、エドガーがジロりとこちらを見てくる。


 「早く始めろ!」

 「いつでも」

 「それでは、始め!」

 相手との距離、10メートル。

 開始の合図とともにエドガーは下がっていき、側で見ていたシルヴィアも邪魔にならない場所に下がっていった。


 「ジェローム・シュッツ・コーラリア、推して参る!」

 「くっ!」

 ジェロームの槍の突きに合わせ穂先を剣で払う。

 俺の剣とジェロームの槍。武具が合わさった衝撃と共に、読心術発動。

 相手の思惑がこちらの脳裏に流れ込んでくる。


 ひとまず馬と共に突っ込みながら槍を突き出しこちらの剣術の力量を測る算段らしい。

 彼の性格とは裏腹に、意外にも慎重だった。


 ジェロームは槍を両手で扱い、手綱を握っていないにも関わらず馬を意のままに操っていた。

 馬上での戦闘も相当経験しているようだ。


 一方の俺も剣は聞き手の右手だけで振れるのでもう一方の手で手綱を引き馬を引く。

 それに馬の旋回速度が向こうに比べて段違いに早い。蹄鉄の差だろうか。


 相手が慎重な戦法なのでこちらから攻める。〈ソードスラッシュ〉を頭の中で唱え、振りかぶる。

 魔力で剣が少し発光したのを見たのか、向こうも槍を握りしめ魔力を込め剣術の武技を防ぐ。


 誰もいない瓦礫の街に砂埃が舞い、一際鋭い金属音が鳴り響く。


 「剣術の武技か!相手にとって不足なし!それに馬に相当乗り慣れていると見受けられる!」


 決闘の最中というのに無駄口を叩く余裕があるようだ。

 

 「こちらからもいくぞ!」

 シルバとの模擬戦で見せた槍術の武技をもって突進してくる。

 それに対し、武技を合わせる。剣術レベル7の武技〈パリィ〉。


 自分の槍の推進力とこちらの武具を弾く力とが合わさって踏ん張ることが出来なかったのだろう。

 馬から身体が浮いてそのまま宙に身を乗り出し馬から離れてしまった。


 ジェロームが落馬した。

 総合すると五分の戦いといったところだったが、最後はスキルレベルの差で決まった。

 俺は側まで寄り、馬上から相手の顔に剣を向ける。

 

 「見事・・・だ」

 落馬した衝撃で全身を打ったのだろうか、掠れた声で言葉を発している。

 転げ落ちた後に力なく、自分の力で姿勢を仰向けに直す。

 意識はハッキリしているようだ。


 「だが・・・私は何度・・・でも、シルヴィアを連れ帰るため・・・鍛錬を積み、またここに来る・・・。

 今回は負けたが・・・諦めんぞ・・・」


 今回は無事勝てたが、何度来られようと追い返す。

 しかしその度にこうして刃を交える事態になるのか。


 いくらなんでも付き合いきれない。

 ならば、シルヴィアのことを諦めてもらうためにいっそのこと武具を握れないくらいには手負いにしてしまおうか、という考えが一瞬よぎる。


 だが、相手は曲がりなりにもシルヴィアの家族だ。

 終わった後に彼女から恨み言を言われるかもしれない。


 剣を鞘に納め、シルヴィアを見る。

 

 〈絶対に嫌!勝手に何でも決めないでよ!〉 〈帰りたくありません〉


 呼吸を整え周囲を見渡し、少し落ち着いてから、過去の彼女の言葉を反芻する。

 彼女が心底からコーラリアに帰りたくない、ということを知っている。


 〈私も連れていってくれないかな〉


 ・・・であれば。

 馬に乗ったままシルヴィアに向けて手を伸ばし、彼女に駆け寄る。


 「逃げよう!ここから!」

 決闘の勝ち負けとは関係なく、全く別の解決法。


 「え!?・・・でも」

 「行こう!」

 シルヴィアは髪を揺らし顔ごと目線を振りながら、俺と倒れたままの兄、交互に目配せする。


 「貴様、待たんか!」

 エドガーが俺たちを止めようと、こちらに向かってくる。


 「うん!」

 しかし決意が固まったのか、三度みたび土魔法で乗り台を作り、今度は豪快に飛び乗ってきた。


 勢いよく駆け出す馬の鞍上で、俺は彼女を受け止めた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第二章 養成学校編 これにて完結となります。

 いつも読んでいただきありがとうございます。

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