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41.命運を懸けて

 武術訓練場の見学をひとまず終え、ジェロームと学園長を先頭とした列が次の見学の目的地である魔法の訓練場へと向かう。


 その列の最後尾。

 呆然と歩くシルヴィアの側に寄り、小声で話しかける。


 「大丈夫?」

 「・・・うん」

 「お兄さん、いつもあんななのかい?」

 「・・・ううん、いつもと違うよ。城ではあんな風に他人に振舞ったりしなかったのに」


 俺にとってのジェロームの人となりは王族として堂に入ってるというか、自然にやっているように見えたけども。


 「じゃあ後で聞いてみないとな」

 「・・・うん」


 どうしてシルヴィアが思っている通りの御兄様を演じないのかは、後に問いただすとしよう。


 フリーデン養成学校における魔法の授業。

 土魔法のギフトを授かったシルヴィアが在籍しているクラスだ。


 「・・・これが魔法の訓練か」

 魔法の授業の様子を見てジェロームが呟く。

 授業の内容としては、魔力切れ寸前まで魔法を使うことでスキルレベルアップを図る授業だ。

 

 魔法の授業は人に対して魔力を放つような、武術の授業で行われているような模擬戦は行われない。

 人を殺めるような威力のある高度な魔法は、高レベルの魔法を習得した複数の人間が魔力を合わせる必要がある。

 つまり国単位の武力として勘定に入れるにはあまりにも燃費が悪いのである。


 そのためこのモンテブルグやコーラリアではそれ以外の、生活基盤を支えるためというのが主な魔法の使い道であった。

 

 「私は魔法が使えないのでな。まあ使えるようになる必要もない。

 私には槍術という力があるからな。

 それにどうしても魔法を必要とする場面には、魔石というものがあるではないか」

 

 学園長、魔法の授業を担当する教官、そしてシルヴィアにも聞こえるように言う。

 それを躍起になって魔法を習得している人たちに対して言うのかよ。


 「それはそうですが・・・」

 「他の授業は?知識のギフトを授かった学生たちが授業をしていると言ったな、案内してくれ」

 ジェロームは武術の訓練ではあんなにやりたい放題やったのに対し、魔法の訓練の授業にはてんで興味を示さなかった。


 知識の授業は基本的に知識を蓄えるための座学だ。

 魔力や生物、地理などそれぞれの分野ごとに講師が在籍しており授業が行われている。


 これにもジェロームがさして興味を示さなかったため、授業が行われている教室の横をほとんど素通りする感じだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 午前の授業終了の知らせを告げる金が鳴り響き、昼食の時間となった。


 学園長の計らいで、ランチは食堂ではなく寮の応接室に準備されていた。


 食堂は貴族の学生も平民の学生も関係なくごった返す。

 そんな中に混じっていくとなると食事どころではないのではないかという学園長の配慮だった。

 

 ジェロームとエドガー、そして学園長の順に部屋に入室する。

 他の次男坊の学校見学に同行していた者は普段通り、食堂に向かいそこで昼食をとる。


 「本来は学生同士、食堂に集まって昼食をとるのですが落ち着かないと思いまして。

 このような昼食会場を準備させていただきました」

 応接室のテーブルの上にはテーブルクロスが敷かれ、既に料理が皿に盛られた状態でナイフやフォークといった食器までもが準備されていた。

 料理は国賓用に特別に作られたものでもなくいつも学生たちが食べていると同じものだが、盛り付けが綺麗になされていた。


 「個室か。粋な計らいに感謝する」

 「どうぞ、召し上がってください」

 ジェロームは入口から向かって奥に準備されていた席に着席した。

 学園長はその対面に座り、料理を口にすると合わせてジェロームも食べ始めた。

 エドガーは主人と一緒に食べるわけにもいかないので、ジェロームが座った席の斜め後ろに立ったままである。


 「お口に合いますかな?」

 「ああ。この国は物資だけは豊富と聞いているからな。質も量も申し分ない」

 「それはそれは」


 多少トゲのある口の利き方は変わらないが、昼食の内容には満足した様子で会話を弾ませていた。

 

 「校舎を回ってみてどうでしたかな」

 「どうもこうも、期待外れだった。特に武術の学生、あれはなんだ?

 鍛え方がぬるいのではないか?」

 「本日相手をされた学生は2年生の者でしたな。

 ギフトを授かってから間もない子供たちばかりでして、訓練を積んでまだ1年とちょっと。

 勘弁してやってくだされ。

 ・・・とりあえずは校舎を一通り見てもらいましたが、午後も校舎を回られますか?」

 「いや、良い。用事を済ませた後に今日は宿に戻ろうと思っている」


 ジェロームは学園長が淹れたあのおいしすぎる茶葉で入れた紅茶を啜りながら、一息つく。

 それから口を開く。

 

 「話が変わるが学園長。ひとつ頼みがあるのだが」

 「何でしょう」

 「妹を・・・シルヴィアを呼んでくれないか。学校を出る前に話がしたい」

 「わかりました」


 次男坊の学校見学に同行していた俺はというと、シルヴィアとアイリが座っている同じテーブルの席で昼食をとっていた。

 そうしていたところにリュウ教官に寮の応接室に呼び出される。

 シルヴィアだけを呼んでいるみたいだが・・・。


 彼女が立ち上がる前にこちらをじっと見てくる。

 「わかったよ」と言い、兄妹の面会に付き添うことになった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「来たね、シリィ。座って」

 応接室に行くとそこにはジェロームが座って待っており、エドガーが側に立っていた。

 学園長と一緒に昼食をとっていたんじゃないのか?

 席を外してもらったんだろうか。

 

 「久しぶりだね。シリィ。・・・お前は?」

 「今朝話しましたシルヴィア様のご友人です」

 「ああ・・・こいつがか」

 ジェロームから鋭い眼光で睨まれるが、エドガーが俺のことを補足している。

 どうやらこの場にのこのことついてきたことが気に食わないらしい。


 椅子がシルヴィアの分しかなかったので、俺はシルヴィアの斜め後ろに立つ。

 やはり場違いだよな。めちゃくちゃ居心地が悪い。

 ・・・ていうか、早く帰ってくれないかな。


 「ヒューガのことをそんな風に言わないで」

 シルヴィアが兄のトゲのある言葉を咎めている。


 「今朝、じいやから聞いてまさかと思っていたけど」

 じいや、というのはエドガーのことのようだ。

 愛称で呼ぶくらいなのでかなり信頼しているようだ。


 「1年見ないうちに変わってしまったようだね。前は僕に対して否定的なことを言う子じゃなかったのに」

 シルヴィアの話す様子にジェロームが溜息をついている。

 親しい間柄だって聞いていたのに。ピリついた緊張感が漂っている。


 「変わったのは御兄様のほう。他人に対して厳しく接する方ではなかったでしょう。

 少なくともあんな振る舞いをする人ではなかったはず。

 私、とっても恥ずかしかった」

 「シルヴィア様。ジェローム様にそのような・・・ごほん」

 エドガーが発言し始めると、ジェロームは手を挙げて止めさせた。


 「シリィ。この学校を見て回った感想だけどね。

 じいやが言うように、3年もの時間をこんなところで棒に振る必要は無いと思う。

 僕は君のためを思って敢えてあんな振る舞いをしたんだ。本当は心が痛いんだ」


 ジェロームは手を胸に当て、逆の手を広げながらまるで聖人かのようにシルヴィアに語り掛ける。


 うさん臭さ全開である。

 流石に俺でも、本音を聞き出すときには読心術に頼る俺でも、〈こいつは本心で話していない〉ということがわかった。


 「率直に言うよ。シリィ、コーラリアに帰ろう。

 王室のみんなも待ってる。僕はそれを伝えに―」

 「お断りします。卒業するまで絶対に帰りたくありません。

 エドガーにも今朝言ったのに。それを伝えるって話じゃなかったの?」

 シルヴィアは次男坊の演説が全て終わるのを待たずに言葉を遮った。


 話の内容が今朝行われたものと同様に平行線になりそうだ。

 両者の間に沈黙が流れる。


 「あの~・・・ジェロームさん?」

 こんなでもシルヴィアの兄なので、彼女のために言葉遣いは丁寧に接する。

 

 「なんだ?」

 「コーラリアに余裕が無いということは、知っていますけどね。

 あと2年くらい、待てないんです?」

 「その2年で私の妹がこの国から受ける悪い影響は、計り知れないだろうからな」

 「影響、ね。でも魔法を始めとした能力は着実に伸びていますよ?」


 俺の言葉を聞いてシルヴィアが得意気になっている。


 「そんなもの、我々には必要ない。武術ならまだしも。

 魔法や知識など、身に付けたとて、なんになる?」

 魔法や知識はシルヴィアやアイリにとって必要なものだ、と反論したかったが。


 もうこれ以上、この人たちにそのことを話しても無駄だろう。


 「そういうお前は、どうなんだ?一番得意なものはなんだ」

 「う・・・」

 俺が、今一番得意なもの。


 「剣術です。おそらく、誰にも負けない」

 全属性それなりに使える魔法。工夫を凝らして作った魔道具。はたまた、ギフトで授かった読心術。

 それらどれでもなく、咄嗟にでた言葉が、これだった。


 「なれば、槍術を極めた私と決闘しろ」

 俺の言葉を受けてジェロームは目を合わせ、言い放つ。

 たかがスキルレベル6で極めたって・・・どこからそんな自信が沸いてくるんだ。


 「賭ける物は・・・そうだな。

 このまま我々が引き下がりシリィを引き続きこの学校に通わせるか、それとも国に連れ帰るか、なんてどうだ?」

 「そのようなことは、国王様が・・・」

 「私が負けるとでも?」

 「・・・」

 ジェロームの気迫に、エドガーは口を噤んでいる。


 俺が目の前にいる女性の命運を懸けての決闘なんて受けるはずがないだろう、と。

 目線を同じに合わせながらもこちらを見下してくるのが見て取れた。


 「当然武具は木のオモチャなんかではなく、真剣でだ。誰にも負けないなんて言った手前、準備できないなんて抜かすなよ?

 それも戦場のように、馬上の戦闘が良い。

 そうだ、そうしよう」

 馬上での戦闘は剣と槍とで武具の射程の差がある。あくまで自分の土俵で戦いたい、というわけだ。


 「良いでしょう。週末には準備しておきます」

 俺は敢えて相手の土俵に立つことで完膚なきまでに叩きのめすつもりで、勝負することにした。

 それに彼の見下してくる目線や、シルヴィアやアイリが1年培ってきたモノを蔑ろにする姿勢に、無性に腹が立ったのだ。


 「ヒューガ・・・」

 「任せて」

 大丈夫だ、と微笑みながらシルヴィアの顔を見る。

 決闘には鋼鉄製の剣が一振りと馬一頭の準備が必要になるが、そのどちらにもアテがある。 


 「ジェローム様、滞在中は予定が・・・」

 「週末の朝は予定がなかったな?」

 「それはそうですが・・・」

 「場所は今朝のあの場所で」

 決闘の場をこちらから指定する。

 首都南部のあの瓦礫の並ぶ荒野なら、だれの邪魔も入らないだろう。

 

 15年前に集結した戦争の戦場となった首都南部。

 その場所で2人の男が、15年ぶりに戦場となる地で雌雄を決する。

 

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