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40.突然の来訪③

 朝食後、シルヴィアの兄御一行らがフリーデン校の校門で迎えられると聞いたので俺も足を運ぶ。

 校門には数名の教官と学園長、そしてシルヴィアとアイリが集合していた。

 

 「どうした。ヒューガ・グロース、お前は武術の授業があるだろう」

 と2年生の武術の教官であるリュウ教官に咎められるが、

 「私が友人として今回の訪問に際し同席してほしいと呼んだんです」

 とシルヴィアが話を合わせてくれた。ありがとう。


 本日の学校案内に駆り出される教官が普段担当している授業は、自習の扱いになる。


 2年生の武術の授業は事前に今日の模擬戦の組み合わせが発表されていた。

 俺と模擬戦をする予定だった学生は手持ち無沙汰になるだろうが、仕方がない。


 午前の授業開始時刻の5分前。

 学校の前に伸びている街道の奥から一際目立った集団が現れ、こちらに近づいている。

 どうやらあれがコーラリア第2王子御一行らしい。

 馬車や馬に騎乗するといった移動手段ではなく、徒歩での入場だった。

 御一行の真ん中に一人だけ若い青年がいる。あれがシルヴィアの兄らしい。

 

 ジェローム・シュッツ・コーラリア。

 シルヴィアもそうだったけど遠目からでもわかるくらい、華のある存在だった。

 まだ少し肌寒い気候にも関わらず、半袖半ズボンと腕や脚が半分露わになっている服装をしていた。

 コーラリアは年中温暖な気候なのでこちらの気候に合わせられないのもわかるけど。

 彼の風貌はあまりにも浮いていた。

 

 ジェロームの横に今朝遭遇したエドガー、そして彼らの両脇に軽装の防具を身に着け、腰に剣を携えた者が2名付いている。

 そのうちの一人がピカピカの装飾がなされた槍を携えていた。そういえば、ジェロームのギフトが槍術なんだっけか。主人の武器持ちをしているのだろうか。


 「ようこそ、フリーデン養成学校学長のエドワード・スペルウッドです。

 コーラリアからはるばるお越し頂いたようで、お疲れでしょう」

 校門の側、声が届く距離になったので先にこちらの学園長が挨拶をした。

 この時の学園長の表情は誰に対しても当たり障りのない、ビジネススマイル。

 

 しかし向こうは挨拶を返すということをなかなかしなかった。

 

 エドガーがジェロームに対し何か耳打ちをしている。

 それからジェロームはこちらの顔を一通り見た後、ようやく口を開いた。


 「そうか。モンテブルグは王政を敷いていないから礼を知らないのだな。まあ良いだろう。

 私がコーラリア王室次男にして第2王子、ジェローム・シュッツ・コーラリアである」


 少しトゲのある、簡易的な挨拶だった。

 突然の訪問に対して何の詫びもなく。身分の高い者が通るのだから当然と言わんばかりの態度だった。


 少なくとも俺からの第一印象は、控えめに言って最悪だった。


 まあシルヴィアにとっては久々の家族の再開だろう、喜んでいるだろうかと期待してシルヴィアに目線をやると彼女は俯いていた。

 側のアイリも似たような、ばつが悪そうな様子でそこに立っていた。なんで?


 「宿で一晩十分に休息したので疲労などはない。

 ここで我が妹が世話になっていると聞いている。すぐにでも校内を周りたい」

 「なれば、大ホールにて本日の訪問順序を説明いたします。どうぞこちらへ」


 学園長が少し溜息をついた後片手を広げ、次男坊一行は校内に案内されることになった。

 校内にはエドガーのみが付き従い、近衛兵は校門付近で待機となった。


 校舎内に入り渡り廊下を歩く。

 ジェロームは初めて入る建物の内部を見渡すという様子はなく、常に堂々としていた。

 大ホールに入場するや否や次男坊は迷わず一番前の真ん中の席までツカツカと歩いていき、どかりと足を組んで座り込んだ。

 他の教官が空いている他の席に着席し始めたので俺も近くの席に座る。

 

 黒板には予め校内の見取り図が張られており説明をする段取りがなされていた。

 学園長が登壇し、説明が始まった。


 「我が校の授業は主に個人が授かったギフトにあわせた必修授業と個人が興味を持つものに合わせた選択授業が行われております」

 「ほう」


 一問一答、学園長の一つの説明に対し次男坊が相槌を打つといった形で学校説明が始まった。

 次男坊は学校説明を最後まで大人しく聞き入っていた。

 座った席の側で微動だにせず立っているエドガーも聞き入っているようだ。

 フリーデン養成学校の教育体制の説明は大体小一時間で終了した。


 「現在の時刻は必修授業が行われています。何か特別ご興味のある授業はおありですかな」

 「そうだな、私が授かりしギフトは槍術。武術の授業を体験するのも悪くないだろう。

 今回のモンテブルグ訪問でこの国の武力をこの目で視察するという目的もある。ちょうど良いと思うが」

 「そういうことでしたら、まず武術の訓練が行われている広場に向かいましょう」


 そう学園長が言うと次男坊は席から勢いよく立ち上がり、我先にと大ホールの出口に向かった。

 校内は至る所に案内表が壁に貼り付けられているので迷子になることはないと思うが、その後を俺とリュウ教官が追いかける形で大ホールを出た。


 2年生の武術の授業が行われている広場に先に到着していたらしく後を追いかけた俺たちが追いつくころには既に木製の槍を手に持っていた。

 本当、我が道を行くというか・・・、勝手だなあ。


 「よお、ヒューガ。こいつか、今日来るコーラリアの王子様ってのは」

 「こいつとは無礼な。名を名乗れ」

 「あぁ?シルバだよ。訓練場にやってきていきなり槍を持ってるが、使えるのか?」

 「何?どこぞの馬の骨かしらんがどこまで私を愚弄するのだ」

 次男坊は木製の槍をシルバに向かって構える。穂先を地面に向けた、独特の構えだった。

 それに合わせてシルバも構える。


 「お止めください、ジェローム様」「シルバ、落ち着いて」

 いきなりやりあおうとしているのでリュウ教官と俺が止めに入る。


 その頃になってようやく学園長や教官、そしてエドガーらが武術訓練場に到着した。

 学園長がシルバとジェロームが武器を構えて向き合っている様子を見て口を開く。


 「早くも模擬戦の組み合わせが決まったようですな。

 この学校では木製の武具を用いての模擬戦をするという授業形態でスキルレベルの向上を測っているのです」

 「そういうことならこの者と早速、一戦やらせてもらおうか。いくぞ!」

 本来授業での模擬戦は広場に所々に引かれた白線の上に対面して始まるものだが、今ふたりがいる広場の入口の少し開けた場所でいきなり始まってしまった。

 

 2年生の模擬戦の授業はまだ始まったばかり。それまでの1年間は相手と向き合うことを想定せずに基礎鍛錬を積んできている。

 今のところは同じ武具を装着した者同士でしか模擬戦が行われていない。


 ジェロームは見たところ10代後半といったところか。

 毎日槍の鍛錬を積んでいるとシルヴィアから聞いているが、本当ならばスキルレベルはそれ相応のものになっているはずだ。

 それに対するシルバの体術のレベルは4。更に槍術に対し体術は武器のリーチに差がある。

 模擬戦と言えど、苦しい戦いになることが予想された。


 しかしシルバは槍の素早い突きに対し面食らうことなく冷静に足を使って身軽に躱している。

 左右に身体を翻し、的を絞らせない。

 彼の巨体からは想像もつかない素早い身のこなし。体術スキルの恩恵である。

 腰以上の高さに対する突きを拳で横に弾き、更に懐に潜り込もうとする。

 有効打を打ち込むすんでのところでジェロームは後方に飛びのいて槍の距離に戻す。惜しい。

 

 「シルバとやら、素晴らしい体術だな。身のこなしが良い」

 模擬戦の最中にも関わらず会話をする余裕まで見せている。


 「しかし、このままでは埒が明かんな。ならば」

 ジェロームは数秒、槍を構えたまま静止する。

 何かするつもりだ。


 「疾風突!」

 槍術の武技、疾風突。

 体内の魔力を体の芯から矛先まで一直線に集中させ刺突する技だ。

 この時点でようやくジェロームがスキルレベル6以上を習得していることが判明した。


 あまりの突きの速さに身を躱すこと敵わず、槍の穂先がシルバの鳩尾に突き立てられる。

 

 「ぐふっ!」

 シルバの巨体が数メートル後方に吹き飛ばされる。

 地面に仰向けになったまま、動かなくなってしまった。


 俺はすぐさま木製の剣を持って身体能力を向上させシルバに駆け寄り、担ぎ上げて隅の芝生の上に寝かせた。

 結局シルバの拳は次男坊に一度も掠ることさえなく模擬戦は終了した。


 「準備運動にもならん、こんなものか」

 「お見事です。ジェローム様」

 次男坊は模擬戦の相手をしてくれた者に対し、礼をすることもなかった。

 観衆が見守る中、エドガー一人だけ高々に拍手している。


 「フン、次に私の相手をする者はいないのか?」

 「お言葉ですが、今の者がここにいる学生で最もスキルレベルが高い者なので相手をする者がおりません」

 「何?では私は何をすれば良いのだ。

 模擬戦に参加せず隅で見学でもしていろと言うのか」

 「こちらとしては、初めからそのつもりでして・・・」

 リュウ教官は困惑した様子で想定していた見学内容を伝える。

 経験豊富な武術の教官はスキルレベル6以上の者がいるので彼の相手は出来る。

 学生の中でも俺のような例外もいるけど、わざわざ出しゃばるような真似もしたくない。


 「本当にこんな国に私たちは負けたのか!?」

 次男坊は持っていた槍を力いっぱい地面に突き刺し、訓練場全体に聞こえるように喚き散らす。

 おいおい。子供じゃあるまいし。

 少しは大人しくできないのか・・・?


 それにフリーデンはあくまでギフトの能力を伸ばす養成学校だ。モンテブルグ国全体の軍事力とは関係性がない。


 「興冷めだ!学園長、次の場所に案内してくれ」

 「・・・わかりました。次は魔法の授業の様子をご覧ください」


 学園長に連れられ、次男坊は武術の訓練場から去っていった。


 シルヴィアは初対面から周りに対してあんなに礼儀正しかったのに・・・。本当に兄妹なのだろうか。

 妹と対比して正反対な性格が、あまりに滑稽だった。


 突き立てられた槍を見て、それからシルヴィアを見る。

 俯いて顔を赤らめ、なんかとっても恥ずかしそうにしている。


 やれやれと思い、俺は槍を地面からひっこ抜いて武具が陳列されている棚に戻した。

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