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37.欲深い考え

 魔石液晶を作るために必要である、魔石を精密にカッティング出来る刃を探していた。

 元々授業で使っているノコギリでも魔石の切断は可能であるが、力任せに手で引いて切るので形が不揃いになる。

 安定してその場で高速回転して切断できるようなものが良い。

 前世でいうところの電気で動く丸ノコのようなものを考えているが、それに似た刃すらこの世界には存在しない。

 無いのなら、1から作るしかない。


 金属製の武具を作るように金属の加工に秀でた知り合いはいないかとライガに聞くと、首都の鍛冶屋を訪ねるのが良いのではないかと言われたのでそこを訪れることにした。


 武器や鋳造を専門とする技能を習得できるギフト〈鍛冶職人〉を授かった者が集う場所であり、日々剣や槍の矛先に取り付けられる刃を作る職人たちが凌ぎを削っている。


 なにも一人前の職人だけが居るのではなく、ギフトを授かったばかりの見習いが修業を積む学校もある。

 首都には大きくはないが一人前としての鍛冶屋を目指すための学校が隣接していた。


 「ごめんくださーぃ・・・」

 ライガに紹介された首都の鍛冶屋を覗くと店内には誰もおらず、暗めの照明が焚かれていた。

 入店してまず目に飛び込んできたのは様々な種類の剣や槍、身を守るための軽装や重装であった。

 直接触れると危ない柄から外された刃や穂先はガラス張りで売られている。


 隅に細身の鞘に納められた刃物も掛けられていた。あれは刀だろうか。

 手裏剣やクナイに似た、飛ばして投げつける投擲物も扱っているようだ。

 剣とは形が似ていないが身に着けた際に剣術スキルは発動するのだろうか、などと疑問が浮かぶ。


 次々に浮かぶ疑問と共に、武器を前にしてワクワクしている自分にふと気が付く。剣術スキルを身に着けたものとして身体が反応しているのだろうか。

 

 「フリーデンの学生か。何かお探しかね」

 店の奥からかなりお年を召した鍛冶職人がゆっくりと暖簾をくぐって出てくる。

 年で言うとエドワード校長と同じくらいだろうか。

 体毛は白く染まっているが身体は筋骨隆々としており鍛冶師としてはまだまだ現役といったところか。

 

 「えっと、探しているというより刃物の作成をお願いしにきたんですけど。

 羊皮紙に書いてきたので見てもらっていいですか」

 「・・・いいだろう」

 例によって作りたいものを他人に説明するために事前に丸ノコの刃を図面に起こしてきた。

 薄い円盤の外周に規則正しく刃を付けたものを作成してほしいと説明する。


 「出来そうですか?」

 「フン。このくらいのもの、お安い御用じゃ。

 円盤の周りに刃をつけるなんぞ、何に使うか知らんが」

 そう言われたので、一応持ってきておいた別の図面も広げ魔石を加工するための魔道具を作るために使う刃だということを説明する。


 「ほう。貴族のボンボンが集まる学校と聞いているが、小僧面白いものを作ろうとしているな。

 そうさな、1週間後にまた来ると良い。作っておいてやろう」

 「そんなにすぐ出来るんですか?」

 「久々に新しいものを作るもんで、老骨が滾るわい。

 そうじゃ小僧、名は何と言う?」

 「ヒューガ・グロースと言います」


 こちらの名前を言うと老人は過剰に反応し、図面を見ている視線をこちらの顔に向ける。

 

 「もしや、タイガの孫か?」

 「知り合いなんですか?」

 「知っているも何も。奴の身の丈に及ぶほどの大剣を打ったのはこの儂じゃ。

 あれは今から40年も前になるのう。自分にしか扱えないような、誰も見たことのないデカい剣を作ってくれと言われての。

 戦場に行って帰ってきては毎回ボロボロにしてくるから、毎回研ぎなおせとせがまれたもんじゃ」

 「えっと・・・」

 ペラペラと昔話が始まってしまった。

 老人特有の長話が始まりそうだったのでそろそろお暇しようとする。

 今日の来店目的はあくまで魔道具のことに関してである。

 先代の武勇伝に関して興味が無いわけじゃないけど。またの機会に、ね。


 「おお、すまんすまん。昔のことを思い出してついつい口が走ってしまった。代金は品物を取りにくるときに払ってくれれば良い。

 また1週間後に来なさい」

 「わかりました。よろしくお願いします」

 羊皮紙に書いた刃の図面を見ながら作ると言われたのでそれを渡し、鍛冶屋を後にした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 魔道具の授業。

 教室に入ると既にノウンが着席しておりその隣にはリンネが座っていた。

 

 武術、魔力、知識と大きく3つに分かれるギフトのうち、知識のギフト。

 知識のギフトの恩恵のひとつに〈一度記憶した知識は忘却することがない〉というものがある。

 身体を巡る魔力が脳に情報を定着させるという仕組みらしく、授かるギフトによって得意な分野において特にその特性が顕著に表れるらしい。

 リンネやノウンが授かっているギフト、魔力科学者は魔力のことに関する知識は一度聞いたことは忘れたくても忘れない、というわけだ。


 また頭が良くなる、賢くなる、どんどん新しい発想が沸いてくる、というのも知識のギフトを授かった者の特性だ。

 他人のやっていることを見ただけで改善策をすぐ思いつくようなアイリのような者が良い例だ。


 ノウンは机の上に教科書を広げ、別の羊皮紙にガリガリと何かを書き込んでいる。

 横においてある本の表紙には「優しい算術」と書いてある。

 どうやら魔石液晶の開発は一旦置いておいて、基礎的な教養を学ぶことにしたようだ。


 「そこは8を足すと繰り上がるから、元の位から2を引いて次の位に1を足せばいいんです」

 「あ、そっか、じゃあ9を足す場合はこうゆうことですかね?」

 「そうそう」

 ノウンが羊皮紙に書き込むたびにリンネが間違いを指摘したり、補足の説明をしている。

 リンネと言えば俺の中ではアイリが選んできたスイーツをつつく甘いもの好き、その他の時間は教室の隅で魔石の研究をしているというイメージだ。

 こうして机で向かい合ってノウンに教えているところをみるとまるで教官のように見える。

 いや、本当に教官なのだけど。


 そういえば同様に俺も幼い頃にこの世界で使われている文字をフラウに教えてもらったことを思い出す。

 フラウは彼女の能力である文字編みを使うことはせずに一緒になって手を動かして読み書きの練習に付き合ってくれた。

 今になって振り返るとあれは楽しい時間だった。


 ふたりの邪魔をするのも悪いので、俺は教室の別のところを使って冷蔵庫に使う魔石回路の研究を進める。

 水の魔石を直列に繋ぐことによって高位魔法〈フリーズ〉を出力させる試みだ。

 スキルレベル6の水魔法であり、スキルレベルと同じ数の魔石を同時に作動させる必要がある。

 それに伴う必要な魔力も膨大で、満タンまで魔力を充填させた白の魔石も6つ接続する必要があった。

 以上のような魔力回路を組む必要があったのだが複数の魔石に同時に魔力を送るとなると自分の発想だけでは上手い方法が見つからず、またしてもアイリに知恵を貸してもらうことで均等に魔力が行き渡る回路が完成した。


 冷蔵庫の魅力はコーラリア王族御用達の商会から水の魔石を安価で大量購入させてもらった際、シルヴィアやアイリには説明済みである。

 各家庭に置いてもらえば食料の保存に役立つ他、馬車の荷台に取り付ければ早期に痛んでしまう食べ物を長距離輸送することが可能になる。

 乳製品なんかは10℃以下で輸送すれば1週間程度は腐敗せずに輸送できる。

 乳製品以外にも例えば生の肉や魚といった冷蔵が必要な食品を輸送するのに役に立つだろう。


 馬車で1週間というのは、ちょうどコーラリアとモンテブルグとの間の距離である。

 今まで不可能だった、モンテブルグで生産した食料をコーラリアの国民へ供給するということが可能となる。


 フリーデンの卒業後の話になるが、今のままでは両親からモンテブルグ国軍の軍属になり国防の任に就くのはどうかという話が出ている。

 お国のために働くという大義名分を果たせるが、自由に身動きが取れなくなる職業に就くのは絶対に嫌だ。


 例えばの話、グロース領の広大な土地を一部借りて乳製品を製造する事業を興すのはどうだろう。

 俺としてもその事業の責任者として素晴らしい自然が広がるグロース領に留まれるのであれば文句はない。

 

 シルヴィアやアイリのような人材が他にも居れば一気に現実的になる。

 しかしシルヴィアはこの学校を卒業後、本人が帰りたくなくとも国へ帰るだろう。従者であるアイリも同様に。

 この国に彼女らのような人物が居れば良いのだが。

 

 冗談半分でグロース領で乳製品を作るための牧場を興すのに協力してもらえるよう頼んでみようか、などという考えが一瞬よぎる。


 まあ、考えるだけ無駄か・・・。彼女らには今までの学校生活で既に十分良くしてもらっている。

 いくらなんでもそうゆう欲深すぎる考えは持たないようにしよう。

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