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33.魔石液晶

 ワイルドハート家からの新入生が起こした適性試験での出来事は一気に学校中に広まり、当然のように2年生の武術のクラスでもそのことでもちきりになった。

 武術の訓練場は学年ごとに分かれているが、授業初日の登校時にデクランと一緒にセリーナが2年生の訓練場までついてきていた。


 「ワイルドハード家兄妹ともどもよろしくお願い致します」

 といった礼儀正しい挨拶をしてからセリーナは1年生の授業に向かっていった。

 

 武術のクラスメイトほぼ全員に対し礼儀正しい挨拶をしていったのに対し、俺にだけは冷たく鋭い視線を送ってきた。

 明らかな敵意を向けられているが、気にしないフリをした。


 歩くたびにフリフリと揺れる鮮やかなブロンド色の髪。聞くだけで元気づけられる明るい声。クラス中が彼女を目で追っていた。

 中でもシルバが彼女にゾッコンであった。

 

 「見たかよ!あんな妹が家にいたらよう、毎日が最高だろうぜ!」

 「いくらなんでもはしたないわよ。鼻の下なんか伸ばしちゃって。ねえヒューガ」

 「え?ああ・・・」

 シルバが上ずった声で浮かれているところに呆れた様子でフィオナが声をかけている。

 いくら容姿端麗とはいえ、あのデクランの妹だぞ。それでも良いのか。


 「2年生諸君。集まってほしい」

 武術のクラスを担当する教官が新しい教官に替わる。

 今年からスキルレベルをあげる基礎訓練に加え武具を構えた状態での模擬戦を行うという説明を受けた。

 他者と武器を交えた実践に近い訓練をすることで更に上のレベルを目指せるとのことだ。


=====================================


 セリーナちゃん、遠目で見たけど可愛かったな。

 噂好きな魔法のクラスメイトに聞いた話では、剣術が得意で、学校の適性試験でなぜかそこに居合わせたヒューガと良い勝負をした。

 学校の試験官も彼女の剣術を認めたらしい。


 可愛くてしかも強いって、そんなの卑怯じゃない?

 更にはすごく性格も良くて礼儀正しいらしい。直接話はしてないけど、聞こえてきた声まで可愛かったし。


 ヒューガもああいう子が好きなのかな。

 私みたいな暗くて喋れないような子と一緒にいても楽しくないよね・・・。


 そもそもなんでわざわざ適正試験の会場に顔を出しに行ったんだろう。

 あの日は部屋替えが行われていて、アイリとふたりがかりで2階の部屋に荷物を移動するのに忙しかったのに。


 もしかして彼女に会いに行ったとか?


 「ワイルドハート家から入学した新入生、知ってる?噂になってるんだけどさ」

 「う、うん」

 散歩しながらちょうどその子のことを考えてました。

 考えながら、卑屈になってましたとも。


 「シリィにはシリィなりの魅力があるから。気にしないで」

 「え?うん・・・」


 以前私が祖国のコーラリアをどう思っているか聞いてきたあの日から。

 急に名前を縮めた呼び方を提案してきたり、朝の散歩中外を歩いている間は手を繋いでエスコートしたいとか言ってきたり。


 無理をしている気がする。

 なんというか無理矢理私との距離を縮めようとしているというか。


 今はコーラリアや周りの事なんてどうでも良い。

 ヒューガが私の事をどう想っているか確かめたい。


=====================================


 新年度になってから初めての魔道具の授業。

 選択授業の申請が終わった週明けに教室に着くと、リンネが珍しく上機嫌で教壇に上っていた。

 

 「・・・どうかしたんですか?ちょっと、気持ち悪いですよ」

 くねくねと小躍りしている教官に対し失礼を承知で声をかける。


 「聞いて驚け、新入生で魔道具の授業を選択してくれた学生が居るんですよ!

 今年からはヒューガ君と合わせてふたりの学生と授業が出来るので、それが楽しみなんです!」

 「そうですか」

 魔道具の授業を選択する学生は圧倒的少数派である。

 リンネとしてはこの授業を選択してくれるだけでも嬉しいのだ。


 「あの、こんにちは。魔道具の教室はここでしょうか」

 いつの間にか、商会の服装ではなく制服に身を包んだノウンが教室の入口に立っていた。


 「ノウン・アーカナ君ですね。空いている席に座ってください」

 新入生ってやっぱりノウンのことか。

 いや、前にも会ってるし。入学したら魔道具の授業を選択するって話をしていた。

 俺は魔石を購入するのにアーカナ商会に何度か顔を出しているけど。

 教官が忘れてどうするんだよ。


 「魔道具の教官でリンネ・エルソンと言います。よろしくお願いしますね、ノウン君」

 「よろしくお願いします」

 「授業形態なんですけど、元々魔道具の使い方を習う授業なんですが、去年から変わっちゃったんですよね」

 「ヒューガさんから聞いてます。僕も魔石を使って作りたいものがあるので、そういった授業なら是非」

 「あ、おふたりは知り合いなんですか?」

 「「え?」」

 やっぱり彼のことを忘れているようだ。

 俺の方から以前ドライヤーを作る材料のための火と風の魔石を購入する際、寮の応接室で会ったことがあるという説明をした。


 あのときのリンネのちゃんとした恰好と打って変わって、今はところどころ焼き切れた薄汚れたボロボロのローブを羽織っている。

 顔は相変わらず化粧もしておらず眼鏡をかけている。

 応接室で対応したあの時の教官とは別人と言われても納得してしまうだろう。


 ノウンが見るからにショックを受けている。とてもじゃないが初回の授業の雰囲気ではない。

 話題を変えようと思い、ノウンに質問することにする。


 「ノウン。魔石を使って作りたいもの、だっけ?どんなものを開発したいんだい?」

 「あ、えっとですね、これなんですけど」

 ノウンが手に持ってきたアタッシュケースの中身を机の上に取り出す。

 丸いお椀型をしたライトのようなものだった。

 魔道具の裏でカチ、カチとノウンが何やらスイッチを押すような操作をしている。

 スイッチで操作するたび色がシアン、紫、黄色、そして白と七色に変わっていく。

 どうやら魔石に魔力を注入するときに発光することを利用した照明のようである。

 魔法が発動する核とは違う部位を利用しているらしく魔力を注入しても魔法は出力せずにただ発光しているだけのようだ。


 「「おぉ~・・・」」

 それを見たリンネと俺は思わず感嘆の声をあげる。


 「どうですか!?火と水と風の魔石はそれぞれ赤、青、緑色に光るので、重ねるといろんな色に変化するんです!

 魔石で遊んでいるときに偶然、僕が見つけたんです!」

 「いや~すごいんだけど。これを何かに利用しようとしてるの?」

 光の三原色、だっけか?この色が変わる原理を利用して何を作るのかをノウンに聞いてみると困った様子で鼻を指で搔いている。


 「いや、これで何か作れないか考えている最中でして。綺麗だって言ってくれる人がいれば最悪このままうちの商会で売り出そうって思ってるんですけど」


 ああ、そこから先の計画はないのね。

 確かに色が変わっていくのは綺麗だ。しかし商品としての魅力として物足りないとは思う。


 「ちょっと板書してもいいですか?」

 「いいですよ。また何か思いついたんですか」

 「まあそんなところです」


 登壇し、白のチョークを持つ。それから俺は黒板に一心不乱に縦に線を引いていった。

 

 「どうしたんですか!?」

 「いいから見ててください」

 目の前の学生が急にとち狂ったように黒板にチョークを叩きつけているので心配そうにしている。

 縦の線を引き終え、続いて同様に横に先を引いていく。

 乱雑に見えるようで最初に引いた縦の線に対してなるべく垂直に綺麗に引いていく。


 黒板には網目上に白のチョークで引かれた線が描かれる。

 そこまで書いて、振り返る。


 「何が言いたいか、わかる?」

 「「いや?」」

 俺以外のふたりは首を傾げている。

 仕方ない、と思い更に赤のチョークで幾つかの網目のマスの中をゴシゴシと塗りつぶしていく。

 0、1、2・・・といった数字の形になるようにマス目を塗りつぶしていく。

 別の行には白のチョークでマス目を塗りつぶし、文字をいくつか書いていく。


 「「わかった!」」

 「ぜえはあ・・・。やっと?」

 そこまで書いてようやくふたりに理解してもらえた。どっと疲れた。


 俺が考えているものは、ノウンが作ってきたものを小さくしてひとつひとつを格子状に並べていけば、文字や絵を表現できるんじゃないか、ということだ。

 とりあえずは1枚の絵を映すところから初めて、最終的にはその絵を素早く切り替えていくことで映像を表示するつもりである。

 

 つまるところ前世でいうところの液晶である。

 魔石を材料として同じものを作る。


 「でも無理ですよそんなの。僕にはできません」

 「なんでさ」

 「原理は理解できますよ。でも並べられているとわからないくらい小さいものを1個1個作れって言うんですか?

 僕が持ってきたこれも1個作るのに実は半年かかってます。それを無数に並べていくなんて、一生かかっても出来ませんよ」

 「俺も協力するよ。魔石を小さくカットする魔道具を作るのは任せてくれ。1個作れたんだから同じことをやるだけだろ?」

 「う~ん・・・」

 「それにさ。やる前から無理って言うなって」

 机に座ったままノウンは腕を組んで黙り込んでしまう。乗り気ではないようだ。


 「発案はヒューガ君かもしれませんが、大本の魔石を発光させる仕組みはノウン君が考えてきたものなんですから。

 もし完成したならこれはすごいものになると思いますよ」

 「う~~~ん・・・」

 リンネに言われて天井を仰いでいる。心が揺らいでいるようだ。あと一押しといったところか。


 「もし完成したら、魔力を送るだけで遠くまでイメージを共有することが可能になるかもしれない。世界に革命を起こせるぞ」

 「革命・・・。僕が・・・」

 俺がそこまで言うと、ノウンは立ち上がった。

 

 「やって、みようかな・・・。やらせてください」

 俺とリンネの説得により、ようやくノウンはやる気になってくれた。

 〈革命〉という言葉が刺さったようである。


 「ふふ。決まりですね。魔道具の名前はどうします?」

 名前かぁ。

 魔石を使った液晶なのでそのまんまだけど魔石液晶はどうかと提案すると、すんなり通った。


 魔道具の授業でノウンは魔石液晶の開発。

 俺は冷蔵庫を作る片手間にノウンに協力するという方針で魔道具の授業を進めていくことが決まった。

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