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2.ライガとフラウ

 私の名はライガ・グロース。グロース辺境伯家の当主として、そしてフラウとの間に生まれたヒューガの父として、模範となるよう立派な男を演じなければ。

 剣一筋だった俺に何かと気を掛けてくれたフラウをもらい受け、今では一児の父親だ。

 良い父親に、そして立派な領主になれるだろうか。不安だらけだがやるしかない。


 剣術のギフトを授かり、才能に驕ることなく父タイガから剣術の英才教育を受けた。父が立ち上げた傭兵師団「ウォーデン」(戦神とか剣聖などの意味が込められているらしい)に加入し、仲間と共に多くの戦果を挙げた。

 しかしその父も先の大戦で戦死してしまった。南の隣国であるコーラリア国との総力をあげた大戦だった。十年も前に集結し、大戦後は平和条約が結ばれ、長いこと戦争は起きていない。

 その戦績を称えられグロース領を治める辺境伯として国から正式に爵位を頂戴したが、正直使い尽きれないほどの褒章や土地なんかをもらっても持て余すだけだ。


 息子のヒューガはまだギフトをもらっていないのでどのような才能があるかわからないが、ひとまず剣術を教えるつもりだ。

 武力をつければ諸国の紛争に参加する傭兵としても生活できるし、戦争が起これば第一線で活躍することもできる。

 歩き始め、しゃべり始めた頃から部屋の窓から私が日課にしている剣の鍛錬している様子をまじまじと見るようになっていた。剣に興味があるらしい。


 6歳の誕生日を過ぎた頃に、私の父が私にしたように、剣術の鍛錬をやらせてみることにした。


 「お前の爺さんが付けていた腕章だ。「ウォーデン」の腕章だぞ!剣術の練習をするときは手首に巻いておけ。お守りみたいなものだ」「わかりました!」


 先代が戦死した際に形見として戦場から持ち帰ったものだ。最近は調子に乗って私が身に着けていたが、私の腕章は自分のものがある。


 ヒューガの剣術の覚えは目を見張るものがあった。なんというか、口で説明しなくても手本をみせるだけで、砂漠に水を垂らすように吸収していくのだ。

 子供向けの軽い木剣を持たせて素振りをさせてみる。私は当然片手で振り回せるが、両手で持つのがやっとのようだ。息子の手に自分の手を添え、

 剣の握り方や体の使い方を覚えさせる。どの武器レベルもそうだが、スキルレベル1を習得すると武器がまるで自分の体の一部のように手になじむようになる。


 「まずは素振りを教える。利き腕を刃の近くの方で握り、左手は体に近い方を持つんだ。指の掛け方は・・・そう、そうだ」「こうですか?」


 教えるのは上手くないので、口で上手く説明できない。ましてや戦場で剣を振るっていた時とは違い今は隻腕。

 要領が悪いなりに、少しずつ教えていくか・・・とか思っていると、全身を使った素晴らしい動作でピュン、ピュンと風を切る良い音を出していた。私は目を丸くしたが、やはり剣聖の息子はこうでなくては。

 午前中はそんな感じで、息子と共に素振りと基礎体力をつける鍛錬をすることにした。


 8歳を迎えた頃、だいぶ剣を振れるようになってきたので向かい合って剣を合わせてみる。私も訓練用の木剣だ。

 ここでもいきなり驚いたのだが、スキルレベルとは関係ない私が考えた攻撃の型、防御の型をいくつか教えただけですぐに応用し、自分の体で動けるように落とし込んでいた。

 もうすぐ10歳を迎える頃には私と互角に打ち合えるほどになっていた。いくら実戦で使う汚い手を温存しているとはいえ、子供の身でここまで打ち合えるものなのか?

 一応私の剣術のスキルレベルは7なのだが・・・。

 まだまだ膂力がないので押されることはないが、魔力を使って剣を振る威力を上げる「ソードスラッシュ」、相手が武器を振り下ろしてきたところを見切って相手の武器を薙ぎ払う「パリィ」と言った剣技を私から見て盗んでいる。

 「ソードスラッシュ」の習得条件は剣術スキルレベル6。剣術のレベル5が習得条件でそこからさらに鍛錬を積む必要があるにも関わらず使いこなす片鱗を見せている。

 「パリィ」はスキルレベル7の剣術固有の剣技だ。これも剣術スキルレベル6の「ソードスラッシュ」と同じ要領で剣術のスキルレベル6が習得条件。

 グロース領にはスキルレベルを鑑定する手段はないので確信はないが、おそらく剣術のレベル4以上は身につけている。ギフトもまだ授かってないのにこのレベルアップの速度は異常だ。

 この上で更に体格が付いてきたり、剣術に関するギフトを授かれば。この子は私以上に・・・いや「ウォーデン」を立ち上げた、歴代最高である剣術スキルレベル9の領域に達した先代以上に大成するかもしれない。


 「よし!今日の鍛錬はこの辺にしよう!」「はい!ありがとうございました!」

 今日の打ち合いもすさまじいものだった。剣を握っていた私の手が震えている。将来が今から楽しみだ。できれば「ウォーデン」に無理やりにでも加入させ同じ戦場を駆けたいものだが、親の理想を押し付けるのは良くない。

 後にやりたいことが見つかったときは、その道を歩めるようのびのびと成長してほしい。


 「さて、午後からは仕事・・・か」


 これでも一応領主なのでそれ相応の仕事がある。

国から降りてくる予算だの、それを何に使っただの、報告書や決裁書といった書類に目を通しサインをするといった仕事だ。

 軍部機密の書類もあるので身内であっても見せられない書類がある。なので自ら領主の邸宅に赴いてやるしかない。

 幼いころから剣一筋だったので情けないことに文字を読むだけでも時間がかかる。中々骨が折れる仕事だ・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私の名前はフラウ・グロースと言います。

 元々は実家のリット家で製本や出版業の仕事をしていましたが、医療班としてライガさんの怪我を看ていた時にそれとなくプロポーズされ、グロース家に嫁いできました。


 ギフトは文字編みです。自分で考えていることは勿論、集中して人の話を聴くと紙や黒板といった平面に文字を転写できるという能力のギフトです。

 グロース領にも小さな出版会社があるので今はそこに勤めています。グロース家は裕福ですが、本が好きなので仕事させてもらっています。

 とはいえギフトのおかげで仕事は午前中だけで済むので、午後には家に戻ります。


 ヒューガは午前中剣の鍛錬をしたあと、午後になると家事を手伝ってくれます。家事の中でも特に料理がとても上手になりました。

 ただ単に家事の手伝いをするのではなく色々なことをやってみたいというので私が読み書きや魔法を教えることになりました。

 最初は読み書きだけを教えるつもりでしたが、キッチンにある生活用の魔石をじっと見つめていたのがきっかけで生活魔法も教えることにしました。

 魔法は火、水、風、土と本来4種類ありますがこの国で主に生活で使われているのは火、水の2種類だけです。

 武器にもスキルを習得できるかどうかという得手不得手があるように、魔法にも才能というものがあります。

 ギフトを授かればその時点でスキルレベル1からスタートすることができます。

ですがそうでない場合の魔法の習得は才能や運がからむ上にさらに努力もする必要があり、最悪魔法が発現せず全て無駄になることもあります。

 私は養成学校で生活魔法の授業を受け、順に火、水とレベル1を習得し成績は良くなかったものの卒業することはできました。

 普段から家事をするときに魔法を使っているだけでも十分レベルがあがるので、私は火と水のレベル2を習得しています。


 魔法の教え方ですが、昔使っていた古い教科書を実家まで取りに帰り、それを読み聞かせました。教科書には数々の先人がまとめた、鍛錬によって魔法を発現させる方法が記されています。

 例えば火魔法は「自分の周りの熱を集め、そのまま空中に発火するイメージ」。そのイメージができるかどうかが重要です。あとは強くイメージできるかと、鍛錬する間集中力が持つかです。

 魔法の教科書を読み聞かせるだけならライガさんにもできますが、ライガさんは残念ながらどの属性魔法も使うことが出来ません。魔法が発現できない人のほとんどが「イメージすることも理解することも出来ない」といいます。

 私が小さい頃はこんなに頑張って鍛錬したり、何時間も集中することはできませんでしたが、この子はすごいです!

 教え始めの3か月で火の魔法を発現させ、次の半年で水魔法もレベル1に。生活にはあまり使わない風属性魔法も教えて欲しいと言われたので教えましたがそれも1年かけて習得しました。

 何かに打ち込むことが好きな子なのかもしれません。


 家の手伝いも料理の他に覚えた火と水の魔法を使ってお風呂を沸かしてくれるようになりました。私もそういった生活を便利にする魔法は一通り使えるのですが得意ではなく、生活用の魔石に頼っているのでとっても助かっています。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ここまで剣術や魔法といったこの世界で生きるための必要なスキルを習得できたのは読心術のおかげだ。コミュ障をなんとかしようとして選んだギフトがまさかここまで恩恵があるとは・・・。

剣術の鍛錬のときはライガから借りた腕章。腕に巻いて肌に触れているので、鍛錬している間ライガの頭の中を覗ける。

 剣を合わせるときもライガの手の内がわかるので剣筋、つまりライガがどこから剣を振ってくるかが事前にわかってしまう。

 教わった型を応用すると打ち合い方が自然とわかるようになっていった。読心術だけでなくおそらく剣術レベルの恩恵もあるだろう。


 魔法の鍛錬の時に触れていたのはフラウの教科書。左手で持つなどして身に着けていれば魔法を発現させるイメージを教えてくれた。あとは俺がどれだけ集中できるかの問題だった。

 土属性の魔法はまだ習得していないことになっているが、朝散歩しているときに試しに作物のないどこぞの家の畑に魔力を放ってみたら耕すことが出来てしまった。という訳で土魔法も習得。

 この事は口外しないほうが良さそうだ。

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