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26.将来のこと

 朝の散歩の後は制服に着替え朝食会場に向かう。

 入寮生がちゃんと起きているか確認する点呼も兼ねられているが、今日は自分で名簿に丸を付けるだけの簡易的なものだった。


 自分が食べる分量だけを皿に取り、空いている席を探す。

 いつもは隅っこでぼっち飯を摂るのだが今日は見知った顔が見えたので声を掛ける。


 「シルバ、おはよう。ここ座ってもいいかい」

 「んぉー。おあようさん、んあれんあれー」

 口の中に食べ物を入れたまま返事される。なんて言ってるかまるでわからないが拒否はされていないようなので席に着く。

 相変わらず他と倍ほどの量を皿に盛り勢いよく食べ物にがっついている。


 「相変わらずすごい食べるね」

 「腹が減ってちゃ動けないからな!特に俺らは授業で体を動かすからよ」

 「あはは、そうだよね」

 とりあえず目についたことから話を始める。

 それから今思うことを口にする。


 「あのさ、シルバってフリーデンを卒業したらやりたいことってあるの?」

 「あん?将来のことか?お前さんの方から聞かれるなんて思ってなかったぜ」

 「え?・・・あぁ」


 俺は公的な記録ではノーギフト、女神からの祝福を受けられず15の誕生日を迎える前に亡くなるとされている。

 武術のクラスメイトには剣術での力を示しあくまでギフトを授かっているように見せたのでそのことでとやかく言われることはなくなった。


 しかし将来のことに触れるななんてことは一言も言ってないし、なんならそのことで悩んでいる最中である。


 「まだ入学したばかりなのに気が早くねえか?今はとにかく力を付けたいからよ、あんまり先の事を考えたりはしねぇな」

 「確かに」

 武術スキルもまともに身についてない学生が、将来のことを考える前に今に集中しろというのもごもっともな意見である。

 俺なんかは授業で毎回のように醜態を晒している。


 「まあでも金だな。軍属になって東側の国防の任務に就ければ上等よ」

 「それは良いね」

 シルバの故郷はモンテブルグ国の東国境に面した地方にある。

 農業が盛んで小麦やジャガイモを始めブドウやリンゴなどの穏やかな気候で育つ農作物が生産されている。


 国防の任務の求人は常にあるし給金の額も悪くない。

 しかしモンテブルグ国の東に位置するイースタン地方とは過去数百年争いがなく国防の優先度は低い。

 軍属となってもその地域に配属される確率は低いだろう。


 「そのためにも体術だな。あのいけすかねぇ教官に一発喰らわすくらいにはならねぇと」

 「リベル教官に?学校にいる間は流石に無理でしょ」

 「うるせぇな、それでもやるんだよ。そーゆうお前さんはどうなんだよ」 

 「う・・・、色々考えてはいるさ」

 「なんだよ。人のこと言えた口かよ」


 俺だって剣術、魔法、この国のこととか色々考えてはいる。

 しかし未だこれだと思うものにまだ出会えていない。

 他人に対し堂々とこれがしたいんですと言えるものがまだ見つかっていなかった。


 「でもよ、グロース家って〈ウォーデン〉っていう先の大戦でこの国を勝利に導いた立役者の家系なんだろ?それにしちゃあ、武勇伝みたいのをあんまり聞かねえよな。

 もっと強くなりたいとか剣を極めたいとかないのかよ」

 「剣を?うーん・・・。剣よりも今は体術かな」

 平和な世の中になった今、だれにも負けないほどの力を欲するかと聞かれてもピンと来ない。

 でも向上心や目標、こうなりたいといった姿像はあったほうが良いのだろうか。


 他のクラスメイトからもなぜ俺は剣の訓練をしないのかとか思われていそうだ。

 でもいちいち説明してまわるのも違うよなぁ。


 「俺だったら一番得意なもので上を目指すけどな。

 さて、腹も膨れたし行こうぜ」


 気が付けばシルバの前から食べ物がなくなっている。

 俺は少ない量しかとらなかったのでとっくに食べ終わっていた。


 シルバが座っていた席の周りには彼が机に飛び散らせたソースやら水滴やらが飛び散っている。

 しょうがないなぁと思いつつ、俺は自分が座っていた席と彼の席を台拭きで拭いて綺麗にし、食堂を後にした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 週末の早朝。学校から馬車に1時間揺られて帰省する。


 家の前に到着して荷物を下ろすが、今日は家に入る前に少し散歩をすることにした。

 せっかく陽が昇りきる前の朝にグロース領に着くのだから、散歩しないともったいない。


 人間の小ささを感じさせる広大な平原。そのバックには超カッコイイモンテブルグ山脈。

 鼻から胸いっぱいに空気を吸い深呼吸する。

 耳をすませば鳥の鳴き声とそよそよと吹く風で植物の葉が擦れる音がする。

 肌に当たる涼しいそよ風が心地よい。


 最高の自然を身にまとい肩で風を切って歩く。


 5分ほど歩いた後、農道の隅の芝生が目につき思い切って寝転ぶ。

 服が汚れるとか、髪に草が絡みつくとか、そんなことはお構いなしだ。後で立ち上がった時に手で払えば良いのだ。


 あぁ~。今週も本当に疲れた・・・。何も考えずにずっとこの風景を見てのんびり暮らしていけたらいいのになぁ。

 おいしいものをいっぱい食べたいとか、この世界で最強になりたいとか、名声だの金だの、贅沢は言わないから。

 

 でもこの世界の海も見てみたい。

 そのためには外に出ていくということを視野に入れないといけない。

 でもその欲望が沸き立つと同時にコーラリアの問題が頭をよぎる様になってしまった。


 今はそんなこと忘れよう。

 目の前の雄大な自然に失礼である。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「ただいま」

 「おかえりなさい。荷物はあったけどいないから。散歩してたのね」

 家に戻り挨拶をするとフラウがキッチンで朝食の準備をしていた。

 優しい声、優しい微笑みで出迎えられ、気分が落ち着いていくのがわかる。


 「おぉ、おはようヒューガ。今日はいい顔をしているな」

 「おはようございます。先週よりは元気です」

 ギシギシと軋む音とともに2階から階段で降りてきたライガに声をかけられる。


 「いい匂いだな。食べようか」

 ライガに促されリビングの席に着こうとすると、テーブルの上に並べられた品数に違和感を覚えた。


 「いつもより豪華な朝食ですね。母さん朝弱いのに」

 いつものパン、サラダ、ミルク以外にもベーコンエッグや軽めの果物のデザートなんかが並べられていた。


 「母さんな、お前が帰ってくるからって昨日の夜は早く寝てたな」

 「ちょっと言わないでよ」

 「あはは。ありがとう」

 夫婦仲の良い、理想と言っても過言じゃない両親と一緒に、ゆったりと休日の朝を過ごす。

 

 前世では俺は一人暮らしで、仕事のない日の散歩した後の朝は朝食もとらず寝室の窓からぼーっと外を眺めていた。

 あれと比較すると今のこの状況は考えられない。


 家族と過ごす幸せってこうゆうことを言うんだろうか。わからないが、でも片鱗は見えた気がする。


 朝食を食べながらライガからは今週のグロース領での出来事、俺からは学校生活のことを当たり障りのない範囲で話す。

 最後にデザートをつつきながら最近の悩みについて切り出す。


 「学校で、何人かの学生と話をするんですが」

 そこまで言って、言葉に詰まってしまう。


 「「・・・それで?」」

 ライガとフラウの声が重なる。息ピッタリである。


 「将来のことについて話したりするんですが」 

 「「うん」」


 「僕どうすれば良いですか?」

 「「え?」」


 場面は変わり。

 家の外でライガと剣を交える。


 陽が昇り切った時刻になるとフラウが珍しく稽古場に見に来ている。

 幼い頃から毎日のように剣の稽古をしてきたがフラウが見に来たのは初めてだ。腕を組んで足を肩幅に開き、ライガと打ち合う様子を見ている。


 ライガの様子がいつもと違っていた。攻めが激しく守りに隙がない。武技の精度も高い。

 読心術のおかげで剣筋がわかるおかげでかろうじてついていけている。


 「お前ならわかると思うが、いつもの打ち合いと違うことがわかるだろう。

 これは剣術レベル7を身に着けるための訓練だ。武技を身に着けるためのな。

 俺の体が万全でないのも加味したとしても、お前の年でこの打ち合いを難なくいなしているのはあり得ないことなんだ。

 将来は剣術レベルの8、あわよくば前人未到のそれ以上の域を目指せるだろう」

 「ちょ、ちょっとまってください。これ以上の剣術のレベルって、そんなもの身に着けてどうするんです?」

 「例えば剣術を活かして軍の役職になるとかだろうな。将来の〈ウォーデン〉軍隊長候補にも成りうる。

 他国と戦争になれば俺と並んで戦場を駆けることもできる。そろそろ乗馬の訓練もしないとな」

 「そんな・・・!」

 「今までこの国は常に戦乱の世で国民もいつ死ぬかわからない危険に晒されてきた。だから平和を守るというのも大事な役割なんだぞ。

 実を言うとな、こうやって俺と打ち合うだけじゃなくちゃんとした軍の訓練を受けさせたかった。お前なら確実に上を目指せるぞ。

 軍属となってこの国の平和を守ってくれるようになれば俺も鼻が高い」


 俺が、軍属。そうなれば国中の拠点を転々とするってことか?

 そうなると、俺の日課は。毎朝の散歩はどうなるんだ。俺の心の平穏はなくなるってことか・・・?


 「理由は違うけど、私もヒューガが国を守ってくれるならとっても頼もしいわ」

 いつもよりも数段激しい稽古が終わり、フラウが声をかけてきた。フラウに頼もしいって言われるとちょっと心が揺らいでしまう自分がいる。

 しかしお国のために人生を捧げたいだなんて思わない。


 「学校で他にもやりたいことが見つかるかもしれないから、あくまでひとつの案として考えてみろ。まだ入学したばかりだし時間もある。まあお前なら今すぐにでも軍に志願すれば引く手あまただろうが」

 「すごいじゃない。戦争で活躍した人のお墨つきをもらえるなんて」


 ここまで言われてずっとこの家で自宅警備員をしたいんですなんて、言えるわけがなかった。

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