22.地下道のその先へ
週明けの早朝。男女ふたり校舎の隅の土の中。
いつものように模造紙を広げ作業内容を確認し、指示を出す。
今日は先週掘り進めた横穴の続きからだ。
10分ほど掘り進めると、横穴の奥に細い光が差す。計測通り外に出れそうである。
「今見えてる大きな岩をどかすか砕くかすれば外に出れそうだけど、魔力切れ・・・」
横穴を掘り進めていたところ目の前には地中から大きな岩と見られる一部分が身を出しており邪魔をしている。最後の難関といったところか。
シルヴィアはそれを見ながら前にかざす手をだらんとさせる。
「なんで・・・。どうしてよ。あとちょっとなのに、ごめんなさい」
こちらの期待に応えられそうにないとしょげている。
しかし外からの光が漏れているのだ、本当にあと少しというところまで来ている。
少しくらいなら俺の土魔法でもって終わらせられないだろうか。だが俺が使えるレベルの土魔法ではこの岩をどうにかするには力不足だ。
急ぐわけではないし・・・と少し考えた後。落ち込んでいる彼女の様子を見て決心し、力技に出ることにする。
幼い頃、魔法の練習をする際フラウの魔力操作のイメージを参考にしたおかげで魔法を習得することができたことを思い出す。
今からそれと同じことをする。
「シルヴィア、土魔法を使っている時の魔力を放つイメージをしてみて」
そう言いながら横穴の奥にいる彼女の後ろから近づき、手を握る。
前触れもなくいきなり手を握るもんだから誤解されそうだったが、目的を達成するためだ。なりふり構ってられない。
「・・・え?」
訳が分からぬまま手を握り返す彼女は暗い表情から一変、顔を赤らめていた。
「いいから、想像してみて」
「わ、わかった」
彼女の手に触れることで読心術の能力が発動する。
彼女が土魔法を使うときのイメージがこちらの脳裏に流れ込んでくる。
踏み固められた土を耕す時は地中に大きな鍬をイメージし、一気に地上まで掘り起こす。
柔らかい土を押し固めるときは箱と蓋をイメージし、箱の中身を蓋で押し潰し固めていく。
堅いものを砕くときは表面から中心に向かってヒビを入れ、半分になった破片にまた同じようにヒビを入れ粉になるまで繰り返す。
この世界において魔法を使えるかどうかは術者が魔力を操作するイメージをはっきりと出来るかどうかに懸かっている。
土魔法のギフトを授かっているシルヴィアの魔力操作のイメージを直接見ることでこちらの魔法の出力が上がった。
邪魔をしていた大きめの岩に少しずつヒビが入る。
もっと魔力を込めて、集中しないと割れそうにない。
「頼む・・・!」「お願い!」
シルヴィアが思い描く魔法のイメージが強くなる。
最初は小さな石を砕くイメージしかできなかったが、大きな岩を粉々に砕く程のレベルの高い魔法のイメージが流れ込んできた。
するとついに岩にヒビが入りバカリと割れた。
それでも邪魔になるので割れた岩を更に砕いていき小さくなった破片を周りの土に押し込んでいく。
少しだけ光が差していた地下道の出口がみるみるうちに大きくなっていき、横穴と同じ大きさの出口が完成する。
「「ふう~・・・」」
出口が完成すると同時に、俺の方もほぼ魔力切れになった。
レベルの高い魔法が使えるようになる裏技のようなものだが、魔力の総量が変わるわけではないので一瞬で魔力切れを起こしてしまう。
授業がなかった日を省くと工期はちょうど1週間。
ついに地下道が完成した。
なんということでしょう。
もともと何もなかった地面に人が通れるほどの穴が開きました。
ランタンで照明がしっかり確保されており、落盤しないように十分な強度で壁や天井が押し固められています。
利用者ふたり以外には外観がわからないよう芝生の蓋でカモフラージュ。
施主さんの希望に応え、昇降しやすいように縦穴の壁には梯子が埋め込まれているというおまけつきです。
某番組ナレーション的にはこんな感じであろうか。
単なる散歩に行くための抜け道がものすごいクオリティである。
ふたり地下道の出口をくぐり校舎外の雑木林に身体を出す。
解放された外の空気でもって深呼吸をする。
呼吸を整えた後、まずはシルヴィアが口を開く。
「ヒューガ、土魔法も使えたんだ」
「火と水もね」
「それはいつも見てるから知ってるよ。まさか風の魔法も使えたりして?」
何もないところに向け手をかざし残っている魔力を少しだけ放つ。
どことなく風が吹き、空気が渦を巻き土埃が舞い上がる。
「・・・驚いた。魔法のクラスでも全属性使える人なんていないのに。ヒューガは本当にすごいね」
「色々手を出しすぎて中途半端になってるけどね」
褒められるようなことではない。中途半端なのは魔法だけでなく、先が見えない体術の習得や魔道具の開発、コーラリアの情報集めなんかもそうだ。
たまに自分でも何をしたいのかわからなくなるときがある。
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モンテブルグとコーラリアが総力をあげて覇権を争った大戦の爪痕が残っており、復興が済んでない首都南地区。
賑やかな喧噪の商店街や中央貴族が住まう高級邸宅街とは違い、この区画だけは人気のない異様な雰囲気である。
瓦礫がいたるところに散乱しており雨を凌げる家屋が無いこの地区は風や景色を遮る物がない。
校舎内では高い塀に邪魔されていたが、外に出ると身体が直接朝日に照らされる。
袖から露出している肌に当たる心地よい風を全身で感じる。
道路脇の小川からチョロチョロと水が流れており、その音を聞けば嫌でも心が洗われる。
総評すると散歩するには100点満点の場所だった。
地下道を作る前に下見しに来た時は周囲を観る余裕が無かったが、これから毎日この場所を散歩できると思うと心が躍る。
側にいるシルヴィアに視線を移す。彼女もなんとなくこの風景を気に入っている様だった。
この雰囲気なら言えると思い、先日のフラウの助言を思い出す。
〈側にいて、見守ってあげなさい〉
「これから毎朝、来なよ」
母の言葉に後押しされるようにシルヴィアを毎朝の散歩に誘う。
言えた。こちらから自然に言えたぞ。内心ガッツポーズをする。
「いいの・・・?前は嫌がってなかった?」
「いいさ。気が変わったんだ」
そう言いながらシルヴィアの顔を見ると笑顔で応えてくれた。
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地下道の出口と入口の蓋を閉め、寮の部屋に戻る途中。ふたり横並びで歩く。
手には作業の初めからお世話になったメジャーと全体を書いた模造紙。これらはもう必要のないものだ。
捨てても良いが、模造紙は記念に自室の壁に貼り付けておこうか。
シルヴィアとは毎朝会う約束を取り付けることに成功したが、問題はアイリだ。
俺の内向的な性格上、対人関係のことは一度引き延ばしてしまうと次はいつになるかわからない。
ひとつの問題を解決した勢いに乗ってそちらも解決しようとする。
「あの・・・従者のアイリさんとお話ししたいんだけど、暇な時間って無いかな」
「アイリと?・・・うーん、いいけど」
シルヴィアは目線を落とし口を噤み、こちらからの要望を渋る様子を見せてくる。
トントン拍子で全て上手く行くと思ったがそう甘くないか。
「やっぱりふたりとも忙しいよね、無理そうならまた今度で」
「ううん。時間は授業の無いときはいつでも大丈夫。でも本人がちょっと・・・」
本人って、アイリのことだよな。どうかしたんだろうか。
「アイリね、先週の授業が終わってからなんか変なの。話しかけても上の空だし。
私のお世話なんかはしてくれるんだけど。一昨日や昨日の休みもずっと部屋で寝てたりして。どこか体の具合悪いのって聞いても大丈夫って言うし」
先週の授業が終わってからということは、あの口論の後からという事だ。
だとしたら、彼女の様子がおかしいのは完全に俺のせいじゃないか。
「今までこんなこと無かったから私もびっくりしてるんだけど。アイリって基本しっかりしてるっていうか頼りになるイメージだったから。
今日アイリが起きたら聞いてみるね」
「オネガイシマス・・・」
何とか話し合いの機会を得られそうだが、今度はこちらの具合も悪くなってきた。
「ヒューガもどこか具合悪いの?」
「大丈夫・・・大丈夫・・・」
ギフトのことで彼女に言いたい事があるのだが、その件で既に相当ダメージを負っているようだ。本当に悪いことをした。
今まで以上に言葉を選ぶようにしないといけないが、俺にできるだろうか・・・。
分の悪い話し合いになりそうだ。
「園芸の授業は~今日は~無いでしょ~。ヒューガも~今日の~選択授業は~?」
「ないです」
シルヴィアはなぜか歌うように日程調節をする。
「じゃあ今日の午後、アイリが起きれるかわからないし私の部屋で。ここで待ってて、迎えに来るから」
そう言いながら笑顔で寮の入り口に消えていった。毎朝散歩に来るように誘ってからすっかり上機嫌だ。
というわけで決戦の舞台は女子寮、シルヴィアとアイリの部屋と相成りましたとさ。
・・・うん?今日?




