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21.頼りになる両親

 「はぁ・・・」

 学校生活2度目の週末の早朝。

 落ち込みながらグロース領に帰る馬車の荷台の上で揺られている。


 昨日アイリと口論になった後からというもの、ため息が止まらない。

 俺はどうしてこうも同じミスを何度も繰り返すのだろうか。

 コミュ障を改善しようとして言葉を慎重に選ぶようになったは良いが、空回りしているだけでなく余計なことを口走ってしまう。


 「はぁ~ぁ・・・」

 「ちょっとちょっと、なんですかぁ辛気臭い。ため息なんかついて。景色でも見て気分を晴らしたらどうです?

 まったく・・・」

 そして手綱を握る御者に煙たがられる始末だった。

 

 なんだよ・・・。ほっとけよ・・・。乗客として運賃を払ってるのはこっちなんだぞ。


 しかしまあ御者の言う通り、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかなかった。

 もう半刻もすればこの世界の両親と顔を合わせることになるのだし、週明けの早朝にはシルヴィアに会う。

 地下道の作業も半分を越え横穴に差し掛かり、完成間近まできている。


 落ち込むだけ落ち込んだら次はどうしたら良いかを考えよう。


 昨日のアイリとの口論の内容を思い出す。

 俺の言葉は酷かったな。・・・じゃなくて。

 あれから時間が経ち落ち着いて考えてみたが、シルヴィアの今後やコーラリアの国を良くしたいという点で言えば俺と彼女とで言っていることは同じだ。

 これ以上関わるななんていわれは無い。


 次にアイリの能力について。

 口論の最後に言いかけたが生物学者の知識とシルヴィアの土魔法で出来ることは相性が良く、シナジー効果があると思う。

 もしアイリ自身が自分のギフトのことを打ち明ける日が来るとしたら、その気持ちを後押してやりたい。


 昨日はアイリを説得しようとして言葉選びを失敗してしまったけど。次会ったら謝ろう。


 シルヴィアは今のところ、野菜や果物等、植物のことしか考えていないが、アイリに生物全般の知識があるのなら酪農や漁業の分野なんか手掛けてみれば成功するんじゃないかと思う。

 ちょうど重機・・・じゃない土魔法のスペシャリストがいるのだから。


 今は魔法のスキルレベルが低いのでトンネルを数メーター掘り進めただけでも魔力切れを起こしてしまうけれども、養成学校のカリキュラムに沿って魔法の鍛錬を積めば馬力もこなせる量も増えていくだろう。


 それにしても俺のシルヴィアに対するイメージが完全に土魔法が使える人になってしまった。

 仮にも隣国の王女様なのだが使い勝手の良い重機のような扱いである。

 初対面で渡されたジュエリーケースといい、地下道を作るために魔法を使わせていることといい、彼女からはしてもらってばかりだ。


 俺からも何か、贈れるものがあれば良いのだが。


 ・・・余計なお世話、なんだろうか。


 そもそもシルヴィアは毎朝散歩に行ければそれで良くて、土魔法も園芸の授業でやっているような土いじりレベルで満足なのかもしれない。


 アイリだってシルヴィアのお供として生を全うできればそれで本望だろう。

 

 あのふたりは今何を考えているだろう。

 ジュエリーケースとその中身に触れれば彼女たちの心の声を聴けるが、もらったものを無くすといけないと思い寮の机の引き出しに仕舞いっ放しだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「なんかヒューガ、疲れてない?大丈夫?」

 グロース領の家に到着し、ただいまと挨拶しながら家に入るとライガもフラウももう起きておりリビングのテーブルに座っていた。

 落ち込んでいる気持ちを隠すように作り笑いをしているが、確かに今している表情でフラウに接するのは初めてかもしれない。

 そんなことでこちらの心境が露わになるものなのか。どこの世界の母親もなぜこうも鋭いのか。


 「え?」

 3人分の朝食の準備をしていたフラウにじーっと見つめられる。逃げるようにライガに目線を移すが目線を合わせてもらえない。


 「いやまあ・・・じゃあ後で話します」

 誤魔化そうと思ったが観念し、フラウにはちゃんと話すことを約束した。

 そのやりとりをライガはごほんと喉を鳴らしながら気まずそうに黙って見ており、黙々と朝食を食べ進めていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 帰った日の午前中は自然と体が家の外に向き、訓練用の木剣を持ってライガと向き合う。

 親子向き合ってカンカンと木剣が合わさる音が響く。


 「乗り気じゃないか?少し休憩しよう」

 この日は稽古の途中にも関わらず、珍しくライガが口を開いた。

 知らず知らずのうちに落ち込む気持ちが体に現れ、剣が小振りになっていたようだ。


 「すまんな、俺はフラウみたいにそうゆう相談には乗ってやれそうにない」

 「え?いや・・・大層なことで悩んでないですよ」

 「そうか。まあ武術の訓練のことで心配していないさ。

 だとすれば、お前の事だから・・・例えば人間関係のことで悩んでいるんだろう」

 「・・・はい」

 図星だったが、父親に格好つけても仕方ないので否定せずに受け入れる。


 「この領は人口が少なくてな。お前と同年代の子が近くにいないから友達を作ってやれなくて心配はしていたんだ。

 学校にあげたのも他人との人付き合いを覚えて欲しいというのもあったんだがなぁ」

 荒野が広がっているグロース領では幼い頃からほとんど人に会わずに過ごしてきた。

 思い返せばライガかフラウ、少なくともどちらかといつも一緒にいたが、それ以外の人と会う機会がなかった。


 「まあ俺も武術のクラスでしか友人を作れなかったからデカい口は叩けんがな」

 ガハハ!とライガは豪快に笑う。

 

 「入学してから2週間か・・・。お前は年の割に落ち着いているから、いきなり大勢友達を作れと言っても無理だろう。

 まあ悩んだときは体を動かしてさっぱりするに限る。剣を握れなくて鬱憤が溜まってるなら週末だけだがこうやって相手もしてやろう」

 「俺だって友達くらい作れますよ・・・」

 拗ねるような素振りを見せるとライガはニヤリと笑う。


 「そうか?よし来い!」

 ライガに挑発され、握る手に力を込め踏み出す。入学前にしていたように緩急を付けて武技を交えて剣を振るう。

 こちらから武技〈ソードスラッシュ〉で斬りかかるとライガもそれに応えるように〈ソードスラッシュ〉で返してくる。周囲にひと際鋭い音が鳴り響く。


 それから陽が昇り切る正午までは無心で剣を振るった。

 モンテブルグの春の気候は未だに肌寒いくらいだったが向き合う両者共に額に汗を滲ませていた。


 「今日はこれまでにしよう。少しは気分は晴れたか」

 「はい」


 父親ライガのおかげで落ち込んでいたこともすっかり忘れ、身も心も軽くなった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「フーンフンフフーン♪」

 昼食を挟んで午後。

 家の中を掃除しながら、フラウの鼻歌をBGMに家事を手伝う。


 「さて、年頃の男の子は何を悩んでいるのかな~?」

 「やめてよ、母さん」

 からかうように悩み相談を切り出してくる。俺としては言い出しやすくなったので助かったのだが。


 シルヴィアとアイリ、ふたりのことでそれぞれ思うことがあるがまずはシルヴィアの事について切り出す。


 「せっかく知り合えた子がいるんですが生まれ育った環境のせいで自信無さそうにしているんです。

 僕なりに何かしてあげたいんですがどうすれば良いでしょうかね」

 「その子は貴族の子?」

 「はい」

 正確にはその上を行く王族だが話の端を折るので、ここではそうゆうことにしよう。


 「貴族の学生は周りから色々言われるから大変だよねえ。自信が無かったとはまた違うけど、私もそうだったし」

 「そうなんですか?」

 なんだよそれ。めっちゃ聞きたい。フラウの生い立ちでギフトを授かる以前のことは知らない。

 フラウ自身が思い出さないようにしているのか、読心術でも得られなかった情報だ。

 正直俺の悩みなんてそっちのけでいいのでそっちのことを聞きたい。


 「ふ~ん。ふんふん。ふ~~~ん・・・」

 フラウは考える様子を見せ、表情がなにやら怪しくなる。

 ・・・何か変なことを考えてないか?


 「その子、女の子でしょ」

 「そうだけど、何か・・・?」

 フラウが細めた眼でじっとりとこちらを見てくる。


 「まだ学校始まったばかりなのに。たった2週間でねぇ・・・ヒューガも隅に置けないわねえ」

 「はい?いやそんなんじゃないから!」

 シルヴィアに対して断じてその気は無い。神に誓ってもいい。

 相手は王族、こんな辺境の家柄とはどうやっても吊りあわない。養成学校内にでさえもっと相応しい相手が居る筈だし、あちらの国に帰れば縁談なんていくらでもあるだろう。

 それに中身の人間の年齢的にも離れすぎている。どれだけ差があると思ってるんだ。


 「あら~。もしかして相手は中央貴族の子かな?そうだとしても、身分差をのり越えてのお付き合いはいつの世もあり得るのよ。

 在学中に婚約してそのまま卒業後に嫁ぐ子もいたし、親に会いに行ったは良いけど都合が悪くなって婚約破棄されて気まずくなったりもして。

 校内でその噂でもちきりになったりしたものよ」

 フラウは掃除で使っていた道具を持ってうきうきと小躍りしながら話している。


 「そうゆうのを題材にした面白い小説なんかもたくさんあるのよ。教えてあげる」

 「だから違うって・・・。本には興味ありますけど」


 フラウはこれからが本題と言わんばかりにずいっと顔を近づけてくる。母さん怖いです。


 「いい?一度掴んだ獲物は逃がしちゃだめよ。ヒューガから離れていくなんてもっての他。相手としては傍にいるだけで心強いものなのよ」

 「そ、そんなもんですかね」

 「そうゆうものよ。一緒にいた時間が短かったらどんなことをしてあげようが、どんな言葉を掛けようがそれじゃ上辺を取り繕っただけ。

 だから側にいて、見守ってあげなさい」


 見守る・・・か。

 なるほど、コミュ障として生きてきて他人との距離を取りがちな俺にとって、一人では絶対に思いつかなかった発想だった。

 言葉を発する以外のことだし、俺にもやれそうだ。


 とはいえあのふたりとはクラスが違うのでいつも一緒にいられるわけではない。


 シルヴィアは散歩に行けるようになったら毎朝散歩に来るように誘ってみようか。前に一緒に散歩を行くことを渋ってしまったのでこちらからは言い出し辛いけども。

 地下道が完成したら魔力は必要なくなるのだし、シルヴィアとしても負い目は無いはずだ。

  

 アイリのほうはどうしようか。これと言って接点がない。詰んだ・・・。


 だが、ギフトのことについてどうしても伝えたい事がある。

 シルヴィアに頼んでなんとか話せる時間を取れないか頼んでみよう。

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