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19.朝の散歩はこうあるべき

 早朝いつもの時間にぱっと目覚める。歯を磨き、水魔法で作った水で顔を洗い、支給品のタオルで顔を拭く。


 やることもないので動きやすい格好に着替え軽く体をほぐし学校の敷地内の散歩に行く。


 一応秘密の抜け道に変化がないかを学校を卒業するまで見にいくつもりだ。

 地下道の入り口がある校舎の隅に到着するが誰もいなかった。

 シルヴィアは魔力が使えない日は流石に来ないようだ。


 ”門限を破って校舎の外に散歩に行く”


 主犯格は俺なので俺一人でも作業は進めるべきなのだが、生半可な仕事をして彼女にやってもらった部分に影響が出てしまうと元も子もないので、俺一人のときは作業をやらないことにした。


 散歩がてら校舎の塀の中を一周していると、〈フリーデン校庭園〉の看板の横を通りがかった。


 校庭の一角に小さな庭があり園芸の授業をやっているらしい。様々な花が咲き乱れている。

 主に中央貴族の女学生に人気の選択授業でシルヴィアも参加している。授業といってもほとんど部活みたいなものらしい。

 もともと植物が好きな者から、貴族の邸宅に召し使われ庭師として働くことを志す者も参加しているらしい。

 

 元々土魔法が使えるシルヴィアにとってはさぞ居心地が良い授業だろう。植物を育てることも好きらしいしな。


 10分ほど庭園の花々を鑑賞した後、その日は部屋に戻った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日の早朝。


 今日はシルヴィアのほうが先に現場に到着していた。

 初日の緊張した面持ちから打ってかわって、何やらご機嫌な様子である。


 「おはよう。・・・ご機嫌麗しゅう?」「おはよう!ご機嫌麗しいです!」

 満面の笑みで挨拶が帰ってくる。つられてこちらも笑みがこぼれる。

 ご機嫌なご様子であるが、その理由をわざわざ聞くのも無粋かと思い聞かないでおく。


 「今日は魔力、大丈夫そう?」「ばっちり。今日は魔法使い放題だよ~」


 早速準備にとりかかる。土魔法で蓋を持ち上げ、穴の中から道具を取り出す。

 地面に模造紙を広げ、彼女に今日やってもらう作業を確認してもらいながら準備を進める。

 火魔法で指先に火を灯し、蓋の裏のランタンに移す。既に縦穴にはふたり入れる深さなので今日は一緒に中に入って傍で指示を出しながら作業を進めるつもりだ。


 「準備できたけど、わからないところありそう?」

 「大丈夫!」


 本日の作業開始。ご安全に!


 作業箇所は縦穴の続きで、下に向かって掘り進むので、シルヴィアに先に入ってもらう。その上に俺が梯子に捕まっている状態で蓋を閉じる。

 この状態ならランタンで明るさも確保できるし、蓋も閉じているので地上に音も響かないはずである。

 また一緒に入ることによって彼女の安全確保もできる。土魔法を信用していないわけではないが、事故があったら助けないといけない。


 「それでは今日の作業をお願いします」

 「任せなさい!」

 彼女が立っている地面がズズズという音と共に体ごと下に向かって下がっていく。そのまま周りに魔力を放ち、壁を固める。

 途中までやったことなので要領を掴めているのか、スムーズに縦穴が出来ていく。


 「・・・。ついでに今いる高さまで梯子も作ってもらって良いかい?」「はーい」

 俺も一応土魔法使えるんだが、最早ただの現場監督のようだった。

 目の前にいるのは隣国の王女様。そんなお方をアゴで使ってしまっている。良いんだろうか・・・良くないよなあ。


 「できました!次は?」

 「えっと、そのまま梯子を背にして真っすぐ南に横穴を掘っていきたいんだけど出来そう?」

 別の事を考えていたところに声をかけられハッと我に返り、次の作業内容を伝える。


 シルヴィアは少し考える素振りを見せる。


 「横穴を掘る方法なんだけど、先に上下左右を固めてしまってから中を奥に押し込んでいくようにしても良いかな」

 「良いと思うよ」

 横穴を作る過程に差し掛かり魔法の使い方をこちらに聞いてきた。縦穴を掘る過程で横に穴を掘る要領も掴んでいる様子だった。流石である。


 縦穴の底に立ち、南側の壁に向かって手をかざす。

 するとミシミシ・・・ズズズ・・・といった音がして横穴が開いていく。

 

 「ふうー。できたけど、今日はそろそろ魔力切れかなあ」

 「おお、今日もありがとう。今やってもらったその横穴に入れそう?底まで降りたいのだけど」

 「うん。良いよ」

 今空けた横穴に入ってもらい、縦穴の一番下まで降りる。まずはメジャーで縦穴の深さが目標まで行っているかの確認。

 次にシルヴィアが少し掘り進めた横穴の寸法を確認する。作業開始前に確認していたのか、横穴の寸法は俺たちが中腰で進んでいける高さになっていた。


 いくらなんでも完璧すぎやしませんかね。

 

 「完璧でしょ?」

 「完璧です」

 「フフン」

 俺がメジャーを使って計測している間、彼女は横穴の中で体育座りをしてこちらの様子を見ていた。

 今日の作業の総括を聞いて彼女は得意気に、嬉しそうにしている。俺なんかに褒められて嬉しいんだろうか。


 本当は10センチほど横穴が始まっている箇所が低かったのだけど誤差の範疇である。まあ俺たちしか使わないのだし、問題ないだろう。

 もし問題が出たとしても自分らでつくった物なのだし、ちょいちょいと直せば良いのだ。


 「落盤が怖いから縦穴の時よりも天井や壁を念入りに固める必要がありそう。うーん、もっと魔法のレベルが高かったら、速く進めるのかなあ」

 「いや、確実に、ゆっくりで大丈夫だよ。お疲れ様」

 彼女は座ったまま横穴の天井を手の甲でコンコンと叩きながら、自分の魔法の力不足に不満を抱いている様子である。

 作業をやってもらっているのに進み具合に文句を言うほど俺は人間のクズではないつもりなので、気にする必要はないとフォローした。


 ということで、目標の深さまで縦穴を掘るのは完了し、横穴に差し掛かったところで本日の作業終了。


 地上に戻って片付けをし、いつものように水魔法で身体を清めてから部屋に戻るために歩き出す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 寮の部屋に戻る途中、世間話をする。

 お互いの授業の様子や空き時間にどんなことをしているのかを話したり、周囲の新しい人間関係のことを話したりしている。


 「従者のアイリさん・・・とは相部屋なんだよね。散歩しに外に出てる事は言ってあるのかい?」

 「アイリは朝弱いから、まだ寝てるんだ。部屋に戻ったら二度寝するんだけど、朝起きる時間になったら起こしてくれるから知らないと思う」

 貴族の従者と言えばいつもぴったりくっついてるイメージがあったので疑問に思っていたが、まさかそんな理由だったとは。朝起きて護衛対象が失踪していたら心配するだろうに。

 まあ部屋を抜け出していることがバレていないのならばそれで良いのかもしれない。


 「あのさ・・・」

 この作業が終わったらどうするつもりなのかを聞いておこうと思ったが、言葉に詰まってしまう。

 地下道が完成してからでも聞けることだし、今聞かなくても良いかとも思う。


 「いや、何でもない」

 「なぁに?また隠し事?」

 隠し事をされていることは、やはり気にしている様だった。今聞こうとしていることは別にやましいことでもないので、意を決して話を切り出す。


 「聞きたいんだけどさ。抜け道が完成したら朝はどうするおつもりで?」

 「え?決まってるじゃない。学校の外を散歩するんでしょ?一緒にいこうよ」


 それを聞いて俺はその場で立ち尽くし、空を仰いでしまう。


 まじかぁぁぁ~・・・。

 いや、そうだとは薄々思ってたけど。


 でも。でもさ。


 俺にとって散歩とは。


 一人で、孤独で、自由で、ストレス解消になって、開放され、何も考えず、そう、救われていないといけないのだ。

 まさにこれといったこだわりがあるのだ。


 なので出来れば一人で散歩したい。

 学校の外は危険だからと言って説得するか?でも俺だけならなんで危険じゃないと言い切れる?


 「わかってるよ。ヒューガ大人しい性格だし、散歩好きなんでしょ。そのためにわざわざ地下道まで作ろうとするくらいなんだし。だからね、散歩している間は喋らずに黙ってるから」


 朝の散歩をしている間、黙ってついてくる。要はこちらがしたいような散歩をするように協力してくれるらしかった。


 男女ふたり、一言も喋らずに歩く場面を想像する。

 ・・・いやいや、どう考えたって気まずいでしょ。


 そりゃあ、俺はそうしてくれるならありがたいのだが・・・。

 でもそれは、シルヴィアがイメージしている散歩なんだろうか。ここまで毎朝のように早起きして協力してくれているのだし、ある程度の希望は叶えてやりたい。


 「お願い!」

 手をすりすりと合わせて眉間にしわを寄せ目を瞑り一生のお願いと言わんばかりに懇願してくる。

 「わかった、わかったよ」

 最悪、理想の散歩は週末にグロース領に帰った時だけで我慢するようにしようと思い、渋々承諾した。


 「でもそちらの希望とかも叶えたい」

 「だから一緒に散歩したいだけだよ」

 「本当に?」

 「最初からそう言ってるじゃん」

 彼女はそう言うが、そんなわけない。そんなわけあるか。


 それとも、俺が知らないだけで、言葉を交わさなくて良い人間関係なんてものが本当に存在するんだろうか。

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