表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/63

17.私の土魔法

 魔法に対する意識が変わった。


 みんながまだ寝ている早朝。密閉された穴の中、灯りは頭上から照らされるランタンのみ。誰にも見られない中たった一人、地面に向かって魔法を放った。


 私に隠し事をしているモンテブルグ国のグロース領の息子、ヒューガに頼まれ何もない地中に向けて魔力を放つ。

 ズズズという音と共に真下に向かって穴が開いていく。私の土魔法によるものだ。


 よし、上手くいった。と思うのもつかの間、パラパラと周りの土砂が崩れてくる。

 もともと土があったところにいきなり空洞ができたのだから圧力がかかって閉じようとすることに気付く。


 仕事を任され調子よく返事をしたものの、こんな事態になるなんて予想もしていなかった。


 どうしよう。どうしよう。

 また失敗してしまう。また怒られる・・・?


 頭の中が真っ白になって、パニックになりそうな衝動を抑えながら自分に出来ることを必死に考えた。

 咄嗟に崩れてくる土や石に魔力を込めて周りの土もろとも固めた。


 自分の周りに無我夢中に魔力を放った。ミシミシと押しつぶされるような音がして土が固まっていく。


 穴の崩壊が止んだようだ。出来るかどうかわからなかったが思った以上に上手く行き、自分のしたことに対して自分で驚いて数秒の間放心してしまった。


 言われた通りの事をせずに勝手なことをしてしまった。でもこうしないと土が、石が、崩れてきてせっかく進んだ作業が台無しになってしまう。

 こうでもしないと仕方なかった。


 とりあえず終わったことを彼に言わないと。


 穴から出て位置を代わり、自分のしたことを見てもらう。彼はなんて思うだろうか。

 とにかく不安だった。


 何て言われるだろう。何て言い訳をしよう。


 すると穴の中に入ったまま、彼は褒めてくれた。他人に自分のしたことを褒めてもらえるのは初めての事だった。


 部屋に戻った後いつものように二度寝しようとベッドに入るが、興奮が収まらず寝付けなかった。


 「おはようございますシルヴィア様」

 「おはようアイリ」

 「今日は何かご機嫌ですね、何かあったのですか?」

 「ううん、何でもないよー。ふふふ」


 毎朝、身だしなみを整えてもらう。コーラリアにいたときからずっとそうだ。アイリとふたりだけ、ゆっくりとした時間が流れる。

 髪を櫛で梳いてもらいながら彼の言葉を思い出す。


 〈かんっぺき!〉 〈本当にすごいよ〉 〈ありがとう〉


 「ねえアイリ」

 「何でしょうか」

 「いつもありがとう」

 「ほ、本当にどうされたのですか!?」


 その後は1日中、彼に褒めてもらえた時の喜びを思い出して何度も何度も嚙み締めた。自然に自分の顔が緩んでくるのがわかった。

 ギフトで土魔法を授かって良かったと初めて思えた。


 嬉しい気持ちが体の中から溢れてきて、それからは自分の力を使ってやってみたいことが頭の中からどんどん降ってきた。

 もっとああしたい、こんなこともやってみたい。もっと上手に魔法を使えるようになりたい。


 コーラリアに戻った時に試してみたいことなんかも頭の中に浮かんでくる。


 魔法の訓練の授業で常日頃から頑張れば高度な魔法を習得できるかもしれない。

 散歩にいくための抜け道は1週間もすれば完成してしまうだろうけど、もし次に何か頼まれたときのために色々なことが出来るようにしておかないと。


 あの時は魔力切れで作業が途中でストップしてしまったけど、もっとやりたかった。


 ああ、魔力切れなんてなければいいのに。無限に魔力が使えればいいのに。


 食事をしっかり摂って一晩寝れば魔力は回復するが、それが待ち遠しい。

 明日が待ち遠しい。そう思えることが少し幸せだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 午前中の武術の訓練も後半にさしかかり、俺は一人滝のように汗を掻きながら武術の基礎練習に参加していた。

 剣術、槍術、体術のギフトを授かった学生にそれぞれ別れ、武具別に用意されたカリキュラムに従い稽古をする。


 体術のスキルを身に着けようと、体術のギフトを授かったクラスメイトと並んで型の練習をしていた。

 足を平行に開いて腰を落とし握った拳をまっすぐ前に突き出す。いわゆる中段突きである。


 「1!2!3!4!5!6!7!8!9!10!」

 シルバの掛け声と共に左右の拳を交互に突き出す。

 

 「次!足を引いて直り、左足を前に出し中段突き!」

 10までが一区切りで教官が次の型の指示を出し、次の学生が掛け声を出す。


 いくつかある基礎の型の稽古を通しこれをひたすら繰り返すことによって確実にスキルレベルが上がっていく。

 体術を身に着ける学生のための、フリーデン養成学校で長年培われたカリキュラムだ。

 

 体術のギフトを授かった学生はしっかりと腰を落としバランスの取れた姿勢を保ちながら拳を突き出す。体の芯は微動だにしない。

 教官は変な癖が付かないよう、正しい姿勢で行うように逐一指導する。


 それに対して体術のギフトもスキルもない俺はというと・・・。

 腰を落とした時に姿勢を維持することもままならない。拳を突き出す度に体が揺れる。掛け声の数字が上がるたびに腰が浮き姿勢が崩れていく。

 片足を挙げる蹴りの型をするときなんかはそれ以上に悲惨なものだった。数字の後半になると足をあげることすら敵わない。


 左拳を突き出しながら、右腕を引く。

 右拳を突き出しながら、左腕を引く。


 それだけのことが遠く果てしないことのように感じる。

 周りは息を上げることもなく軽々とやっていることに対し、俺だけ一人鈍い動きをしていた。


 ・・・惨めだった。

 くじけそうになるたびに教官の方をチラリと見る。


 リベル教官は明らかに訓練についていけてない俺の様子を見ても腕を組んだまま、何も言わない。

 訓練のペースを落とそうともせず、ただ見守っている。


 初回の授業の後に食堂でしたリベル教官との会話が脳裏によぎる。俺の武術を身に着けようとする貪欲な姿勢をリベル教官は高く評価してくれた。

 それを思い出すと負の感情は消え、頑張ろうと思えた。


 ーゴーン・・・ゴーン・・・ゴーンー


 授業終了の鐘が鳴る。

 残った力を振り絞り、木製の腕甲や脛当てを片付け、訓練場の隅の芝生へとゾンビのように歩いていき訓練場の隅の芝生に倒れ込む。


 「大丈夫か?」

 いつもは真っ先に武具を片付け食堂に向かうシルバだが、今日はこちらの様子が気になったのか声をかけにくる。寝転んだ俺の側に胡坐を掻いて座る。


 「大丈夫だ、気にしないでくれ。昼飯、急がないとなくなるぞ」

 食堂には十分な量が用意されているとは言え腹を空かせた学生が押し寄せる。急いだほうが良いことには変わりない。

 俺はもとより朝も昼も少ない量しか摂らないので食べても食べなくてもどちらでも良かった。

 午前中の武術の授業がきつすぎて動けなくなった時は午後の選択授業が始まるまでふかふかの芝生に寝転び休憩がてら昼寝するのが新たな日課になっていた。


 「そうは言ってもよぉ。お前だけ毎回授業が終わってへとへとになってるじゃねえか。前みたいに剣を振れば良いじゃんかよ」

 「そうそう。あの時と比べるとちょっと情けないな」


 シルバ繋がりでクラスに知り合いが出来た。

 名前はフィオナ・ライトブリッツ。ライトブリッツ伯爵の御令嬢で体術のギフトを授かった女の子である。

 動きやすいように茶色の長髪を後頭部で纏めており、きれいなうなじについつい目が行ってしまう。スタイルが良く筋肉質な体つきをしていた。

 いつも自信に満ちた表情をしているが威圧するでもなく、身分を気にせずに誰とでもフランクに接してくれる気持ちの良い性格をしていた。

 陽キャのシルバと並んですっかり武術のクラスのムードメーカーになっていた。 


 初回の授業で挑戦してきたクラスメイトの一人で、前腕を交差させ守りを固めて突っ込み接近戦に持ち込むという戦法で挑んできた。

 俺はそれに対し、剣術の武技〈ソードスラッシュ〉でガードの上から体ごと吹き飛ばしてしまった。

 しかし武技を体験しても尚意識を保っており、絶対にここを卒業するまでにこちらが剣を構えた状態で一本取ることを宣言されてしまった。負けず嫌いな一面もあるようだ。


 「体術のスキルをレベル1でも身に着ければマシになるだろうからさ。教官が言うには2、3ヶ月らしい」

 「それまでが見ちゃいられないって言ってるんだろうが・・・。あの教官もお前には何にも言わねえし。ギフトなしでスキルを身につけるなんてムチャだぜ」

 「いいんじゃない。カッコイイと思うよ~ワタシは。応援してるよ。卒業までたっぷり時間あるんだし」


 心配されているが俺は意地でも体術のスキルを身に着けるつもりだ。

 理由なく意固地になっているのではなく、剣術しか武術スキルがないのは心もとないと心の底から思っているからだ。


 男二人の会話にフィオナは白い歯を見せて笑っていた。


 「まったく。じゃ行くからな」「ああ」

 俺は力なく返事をする。シルバは立ち上がり身に着けていた武具を片付け、フィオナと共にランチをしに食堂に向かった。


 心地よい風が吹く青空の下、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ