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15.魔道具の授業

 シルヴィアと散歩に行くための抜け道を作ることになった日から時は遡り、週初めの初めての選択授業の日。

 選択科目は午前の必修授業が終わってからランチタイムを挟み午後から行われる。学生各々興味があったりだとか、将来のために役立つかもといった理由で好きな授業を受けることが出来る。


 校内の案内を見ながら授業が行われる教室に向かう。

 目的の教室の前に到着しドアを開けるが、誰もいない。教室の脇には魔石を加工する道具なのだろうか、様々なものが置いてある。

 選び放題の座席から最前列の真ん中を選び着席して待つことにする。


 ーカーン・・・カーン・・・カーンー


 高い音の鐘が鳴り、教官と思われる女性が入ってきて教壇に立った。

 年齢は大体20代半ば、生前の俺より少し若いくらいだろうか。中肉中背で眼鏡をかけている。


 「私の名前はリンネ・エルソン。魔道具の授業の教官をしています。学校の設備を使って授業の傍らに魔力や魔素の研究もさせてもらっています。よろしくお願いします」

 「よろしくお願いします」

 初対面の先生の挨拶を遮らない程度の声量で応える。ガイダンスの紹介では授かったギフトは魔力科学者だと紹介されていた。

 大きく分けて3つに分類されるギフトの中で知識に該当するもので、魔力を研究する分野の才能を開花させるギフトだ。


 「新入生でこの授業を選択したのはヒューガ・グロース君、あなた一人ですので出席は取りません。早速ですがこの授業の説明をしますね」

 教官の自己紹介と授業の概要を聞きながら、俺は本で読んだ魔道具の知識について頭の中で振り返っていた。


 モンテブルグ国産の魔道具は大陸中に普及している。魔道具の原動力となっている魔石が多方面の国から輸入できるため、この国の研究が最も進んでいた。それを加工して魔道具として輸出されている。


 赤色の火属性の魔石は活火山より出土する。モンテブルグ山脈沿いに国境が引かれている北の隣国フエゴ―スの鉱山から質の良いものが大量に出土する。

 人々に日々使われていることもあり魔石の中で最も高価な値段で取引される。


 青色の水属性のものは海底、つまりコーラリア国のコーラル湾の海底から。

 人は水無しでは生きられないが、雨が降れば水は溜まるし川や湖なんかも国のいたるところにあるので容易に確保できることから値段は火のそれよりも安価だ。


 緑色の風属性は風が吹き荒れる断崖絶壁や荒野などからだ。

 この国に広がっている荒野からも産出される。


 茶色の土属性の魔石はほとんど需要が無く二束三文で取引されるらしい。

 そもそも土魔法の魔石で出来る事というのは言ってしまえばただの力仕事なので魔法が使えなくても再現できるとのこと。不遇な属性だな・・・。


 また例外としてどの属性の魔力も宿らなかった白い魔石が落ちていることがある。長い年月をかけて自然に魔力が充填されるが、満タンまで魔力が溜まってないと魔力を吸い取られてしまうので見つけても触らないことが推奨されている。

 警備の目が行き届いている首都では落ちているのを見たことはないが、グロース領で散歩している時は大体1キロメーター進んだら1個程度は落ちていることがあった。


 「聞いていますか?ヒューガ君。うわの空ですが。授業態度が良くないのは、先生はどうかと思います」

 一応しっかり聞いているつもりだった。筆記用具とノートを広げ魔道具の説明をしっかりとノートにとっている。


 「まあ・・・他の知識の授業は有用かもしれませんが、魔道具に関しては・・・」

 表情が一変し、しょんぼりとした顔になりうなだれている。表情がころころと変わるので見ていて面白く、かわいらしい仕草だった。


 「所詮魔法が使えれば無用の長物なので不必要とされることが多く・・・。授業を選択する学生も毎年少人数です。魔石を利用したちょっと便利なものがあるとだけ知っていれば良いです」

 俺はこの世界の文明をもっと発展させる鍵は魔道具にあると踏んでいるんだけど。その魔道具の授業の教官が自信無さそうにしている。リンネは黙りこんでしまった。


 「教官どの。発言してもよろしいでしょうか」

 「何でしょうか」

 「魔道具のことは本で読みましたので、授業は結構です。」

 「うぐ。ですよね・・・。ではこの授業も受ける意味は無いですよね・・・」

 打ちのめされたような表情をしてから下を向いてしまう。リンネは他の教官に比べ精神的に大分討たれ弱いようだった。そりゃ授業に人気が無いなら教官という仕事にも自信なくすよな・・・。

 「それより、どんな魔道具の研究をしているかを聞かせてもらっても良いですか?」

 「魔道具の研究に興味あるんですか!?」

 今度は目を輝かせて前のめりになって言う。学校のカリキュラムよりも個人的にやっている研究の方が自信あり気な様子だった。


 「はい!是非聞かせてください!」

 俺も合わせて目を輝かせて言った。元気になってくれてよかった。リンネは研究中の魔力の理論や開発中の魔道具について説明してくれた。

 しかし造詣は深いのだがいまいち魔道具として利用したり商品として売り出すには魅力が足りてない研究ばかりだった。「この研究は何の役に立つんです?」と聞くと、困ってしまいそうだ。


 他に学生がいないのでマンツーマンで会話するような授業になっていたので、俺が授業を受けることにした経緯について切り出す。


 「よろしければ、僕がどんな魔道具を作りたいか聞いてもらってもいいですか?」

 「ええ?魔道具を作りたいのですか?」

 「はい。というかもう最初から、授業の時間を使って魔道具を作ろうと思ってました。」

 「な、なんと・・・!今までそんな学生はいなかったです」

 「黒板を使わせてもらってよろしいですか?」

 「ど、どうぞ」

 リンネはそそくさと教壇を降り俺が座っていた隣の席に着席する。俺は黒板にチョークで作りたい魔道具を書き、それらを完成させる段階的なロードマップを書いていった。書いている途中でリンネが質問してきた。


 「あの、ドライヤー・・・って何ですか?」

 「あ、書いてる途中ですけど。まあ説明しますね」

 黒板にひとつの魔道具の中に火と風の魔石を埋め込んで同時に発動させて温風を得る仕組みを書いた。魔道具の回路に魔力を流し火の魔石で火を起こし、それを風の魔石で風を起こして熱い空気を煽り温風を得る。


 「魔道具を使う人の魔力で同時に火と風の2つの属性の魔石を作動させる必要があります」

 「うーん。それが出来れば可能かもしれませんね。でも同時に作動させられる魔石はひとり1個なんですよね」

 ひとりの人間が違う2つの魔石に触れたところで片方しか魔石は作動しない。現状では複数の魔法の出力を同時に得たい場合は複数人数が協力するというのが一般的だった。


 「そこで使うのがこの白色がかった魔石です。生命から魔力を吸い取ると言われている忌み嫌われているあれです」

 制服の胸ポケットからその石を取り出す。

 スキルレベルを鑑定する装置を見た時に細長く加工された白い魔石が魔力を流す回路として使われていたので、それを利用すれば個人で魔道具を作れるのではないかと思っていた。

 今持っている白い魔石はグロース領にいたときに朝の散歩中に落ちていたものを取っておいたものだ。見つけたら絶対に触れないようにと注意されていたが、こっそり採集しておいたのだ。


 「白の魔石じゃないですか!どこで手に入れたんですか!?それもそんな直に素手で触って危ないですよ!」

 「既に限界まで魔力を充填してあるので問題ないですよ。」

 「え?白の魔石にそんな性質があるなんて知られていないのでは・・・?」

 白の魔石には利用価値がないので誰も研究していないらしく、市場価値もないので取引もされていなかった。この性質は俺が独自に色々試して偶然見つけたものだ。 


 「続けます。白の魔石に魔力を充填してから他の魔石に魔力を流して作動させることができるかを試したいと思っています。

 本来魔道具は魔石に直接魔力を流し込んで使用するものなので、白の魔石に魔力を注いでから目当ての魔石に魔力を流すという無駄な行為に思われるかもしれません。

 ですが誰もが持っている魔力を触れただけで吸い取ってくれる上、白の魔石からの魔力を動力とするなら魔道具は誰にでも使えるものとなります」

 リンネは目と口を開けてぽかーんという顔をしている。


 「ゆくゆくは複数の魔石を同時に使用することで魔道具のバリエーションを増やしていく・・・という研究をしたいと思っています」

 ドライヤーの枠組みを黒板に絵で描いていく。手で握って持って人差し指で白の魔石で作った回路に魔力を流すことで火と風の魔石が同時に動作し、ドライヤ―の口から髪を乾かすためのちょうどよい熱さの温風を得るといったものだ。


 俺はなんとなく魔力と魔道具の関係は生前の世界の電気と電化製品に近いものだと思っている。

 魔力が電力。魔道具が家電だ。リンネも独自の研究で魔力には電気のように流れの向きや強さがあるものだと掴んでいるようだ。


 電気は発電しないと得られないが、この世界では魔力はどんな生物にも宿っているので、もし実現できれば非常に使い勝手が良いものが生まれると踏んでいる。だが現状の魔道具はあれば便利だけど魔法を習得している者はそっちを使う場合が多い。魔道具のレベルが低いので必要とされていないのだ。


 「次にストーブという物です。ドライヤーを作ることが可能なら同じ機構を3つ、4つ並べてひとつとし、学生寮の部屋の広さなら部屋全体を温めるといったことができるはず」

 「えええ!?」

 ドライヤーと同じ様に黒板にロードマップと、想定している見た目や大きさを書いていく。ドライヤーと違うのは機構の数だけなのですぐに書き終える。


 「ほかにも書いてませんが作りたいと考えているものがいくつかあります」

 「・・・すごいですね。もしも黒板に書いてくれたものが魔道具で可能になるならば、世界に革命が起きるでしょうね」

 革命とは大げさな。俺は生活レベルを生前にまで上げて、お金の使い道を増やしたいだけなんだけどな・・・。

 小さい頃から十分なほどの小遣いをライガからもらっていたが使い道がなく溜まっていく一方だった。もし今回使う予定の火と風の魔石を購入してお金が余れば他の属性の魔石も購入しようと考えている。


 「いつもこんなことを考えているのですか?」

 「いや・・・手が空いた時や、この前の合同授業のような退屈な授業の時にですかね。」

 朝の散歩をしているときにも考えることはあるがそれは言わないでおく。早朝に校舎をうろうろしていると思われたくないからだ。

 作りたい物はまだまだたくさんあるが、まずはこのドライヤーとストーブを完成させることに集中しよう。


 ーゴーン・・・ゴーン・・・ゴーンー

 低い音の金が鳴っている。授業終了の合図だ。


 「あ、時間ですね!教官である私が逆にたくさん喋ってもらってすいませんでしたぁ!」

 えへへーと笑いながら、リンネは席を立ち教壇に戻ってくる。


 「私ももっと喋りたいんですがミーティングあるので、これで失礼します。次回から授業内で早速魔道具の研究をしていきましょう!」

 午後からの選択授業が終われば授業はもう行われない。今日一日の授業の様子を報告し合う教官同士のミーティングがあるらしい。


 リンネは板書で使っていたチョークの箱を忘れていった。板書もそのまんまなんだけど・・・。次回から魔道具の研究をするっていってたし、消さなくていいか。



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