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12.コーラリア

 授業後に昼食を頂こうと寮の食堂に向かうと、隅の方の席にリベル教官が座っていた。

 初回の授業で俺のために特別授業を開いてくれたことに感謝しようと思い声を掛ける。


 「教官。同席失礼してもよろしいでしょうか」「おう、構わんよ」


 テーブルにお盆を置きリベル教官の対面に着席する。リベル教官の身体は筋骨隆々としているが皿に盛っている量は少なめだった。

 そういえば、同じような大柄のライガも大食漢ではなかった。戦時中は限られた補給物資の中でやりくりしていたとのことで、その時の癖が抜けないらしくグロース領の実家の食事は量はいつも少なめで内容も質素なものだった。それに俺もフラウも倣っていた。


 「今日は本当にありがとうございました。僕のためにあのような・・・」

 「はっはっは。まあ、礼なら提案してくれた校長に言え。俺は変わった訓練が出来て楽しかったぞ。授業の様子は校長に報告しておいてやる」

 食べ物を口に入れたまま豪快に笑っている。教官とはいえ食事マナーまで教える気はないらしい。

 「お前さんの剣を振る姿は戦場で見た若い頃のライガにそっくりだったよ。それを思い出して嬉しくなっちまってな」

 リベル教官はやけに上機嫌だった。こちらは皿に盛った食べ物を口にしながら黙って聞いていた。


 「20人ほど相手して疲れただろう。どうだ?クラスのやつらと戦ってみた感想は」

 「なんていうか・・・武器を持つときの姿勢が変な人が多かった気がします。手に持った武器に振り回されているというか」

 「それだよ。武具を扱う基礎が身についてない身体にギフトってのが急にやってくると、いきなり応用や技術だけ覚えたような状態になる。それを矯正してやるのが初年度の教官の主な役目だな」

 それでデクランはあんなへっぴり腰だったわけだ。他にも変な構え方をしたクラスメイトが何人かいた。となると、俺は基礎もできてないような、かなりの力量差のある相手に対し本気を出して失神させてしまったわけで、今になって可哀そうに思えてきた。

 「本当は実践で使うような泥臭い組み技やいざというときの自衛手段なんかも教えてやりたいんだが、今の平和になった世の中じゃギフトを授かったことに舞い上がり、その能力を伸ばすことしか頭にないやつばかりだ。だがいざ比武の場面になれば乱戦になる。想定外の出来事に対し瞬時に判断し応戦しなければならない。そういった心構えなんかまで授業で教えられれば良いんだが、たった3年間でそこまで教えることは無理だ」

 

 実践の話になったので、ちょうど良いと思い前々から考えていたことを質問する。

 「明日からの武術の訓練なんですけど、剣術ではなく体術を教わりたいのですが、よろしいでしょうか」

 「・・・ほう。それはなぜだ」

 「今仰ったように得意な武器を常に持っているとは限りませんし、戦場では武器をなくしてしまうこともあると思うんです。そうなったときに剣術ばかりに頼っていると心もとないんです」

 「ふむ。流石だな」

 食事を終えたリベル教官はこちらをまっすぐ見つめてくる。


 「今の言葉で本当にギフトを授からずに鍛錬によって武術を身に着けようとしていることがわかる。ライガに相当しごかれたようだな」

 「ははは・・・」

 いやに評価が高いので愛想笑いで応える。ここまで剣術を身に着けることができたのは本当は読心術によるものだが、もちろんそんなこと言うわけ無い。ライガが教えるのが上手だったという事にしておこう。


 「いいだろう。そこまで自分で考えて体術を身に着けようってんなら教え甲斐がある。授業では体術のギフトを授かった学生向けの訓練しかやらんがそれでも良いか?」

 「はい。こちらから申し出ているのですから、僕に合わせる必要は無いです。よろしくお願いします」


 この時はまだスキルのありがたみを身をもって知らなかったので軽率な発言だったと後悔することになるが、それはまた別の話。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 選択授業が始まる来週までは午後の授業はない。時間もあるし校門も空いているので、今朝考えていたようにコーラリアの情報を集めに図書館に向かった。


 「こんにちは」

 「こんにちは。フリーデンの学生さんね。館内では静かにお願いします」

 図書館に入り、入口にいる司書に挨拶をする。入学前にフラウと一緒に来館した時は入館手続きをしてもらっていたが、制服を着ているとほとんど顔パスのような扱いだった。

 

 図書館にはモンテブルグ国内の書籍だけでなく他国のものも沢山の蔵書があった。地理、法律、産業、人口分布など選り取り見取りだ。

 とりあえずはアイリが問題視していた観点で資料を探す。立ち読みするのも足が疲れるので30分ほどで借りる本をさっさと決める。

 借りる書籍以外にも興味をそそられる本はあるが一度にそんなに読めないので心に留めておくだけにして、貸出手続きを済ませ図書館から出る。


 学校に戻り本を部屋に置いてから食堂で夕食を食べた後、身体を拭いたりだとか寝る準備をしてから借りてきた本を読む。


 まずはコーラリアの産業に関する書籍に目を通す。主食として食べられているパンやパスタなんかを作る小麦の他に、多くは無いが温かい気候のおかげで果物や香辛料なんかも産出されているようだ。国土が海に面しているので海産物なんかも特産品として挙げられている。

 産出量も載っていた。数字だけ見てもピンとこなかったが親切にも参考までに諸国の産出量と比較できるように表にまとめられていた。主食として食べられている小麦の産出量はモンテブルグと同程度。モンテブルグの海産物の産出量はもちろん0だった。いまいる国で魚介類を求める場合は輸入品を買うしかない。


 次に領土や人口の資料に目を通す。先の大戦で領土が半分ほどまで大きく縮小し、国民は湾岸部に追いやられることになった。

 去年調査されたコーラリアの総人口はモンテブルグの約5倍。先の大戦のときはモンテブルグの2~3倍程度でそれから15年で倍にまで遷移したようだ。

 人口密度までは載っていないが、国土の広さが載っているので計算してみる。どっちをどっちで割ればいいんだっけか、と考える。しばし考えた後、一人当たりの広さなんだから広さを人数で割ればいいのかな、と考え計算する。

 あっているかわからないが、モンテブルグ国と比べおよそ100倍の人口密度という数字が出た。

 

 馬車で1週間でいける隣国とはいえここまで差があるのか、と驚愕してしまう。段々とコーラリアが貧困に苦しんでいる情勢が明らかになってきた。食べ物の量がそこまで変わらないのに人の数は5倍。数字を扱うことには自信がないが、そんな俺にでもわかるくらい、国内の産出量だけでは物資がいきわたっていないだろうということがわかる。


 次にコーラリア国の法律に関する書籍を開く。

 アイリの心を覗いた時から気になっていたが、多夫多妻制というとんでもない制度があるらしい。文字通り一人の夫に対し際限なく妻を娶ることが出来る。逆も然り。


 そんな制度があれば誰の目から見ても人口が際限なく増えていくことが予想できる。しかし、〈夫婦間で隠し事をすることは何よりも重い罪である〉と補足の記述がされている。浮気するくらいだったら大っぴらにして重婚家庭にしてしまおうという倫理観らしい。

 ものすごいことが書いてあると思った。今いる国の倫理観や環境は比較的前世のものに近かったが、コーラリアはそもそもの世論や考え方が違うのだろう。


 人口についての問題を討論するテレビ番組を前世で見たことがある。そこに映っていた有識者が言っていたことを思い出す。


 既にいる人間を減らすことはできないので、増えないようにすればいいのだ。多夫多妻というトンデモ制度を廃止し、とある国の政策のように一家につき子供は一人までにする。そういう制度にしてしまえば人口増加に歯止めはかかるだろう。それをシルヴィアに助言すれば、彼女も王族なのだから制度を変えるよう動けるはずだ。倫理観がズレている国民からの反発はあるだろうが、それが現実的だろう。


 万が一にもないだろうがコーラリアの人と夫婦になるような事態になれば、俺も隠し事をしてはいけないのだろうか。転生者であることや、自分で選んだ読心術も隠し事とされるだろうし、言わなきゃダメなんだろうか。


 ・・・いや、俺が結婚することなんてありえないし気にしないでおこう。

 

 前世でもっと政治や制度、社会の動きなんかを勉強しておけばよかったと後悔する。新聞を読む習慣なんてもちろんなかったし、スマホでネットニュースを見たりもしない。一人で解決できないような社会問題には興味が沸かず、今日一日をいかに機嫌よく過ごせるかに気を遣う性格だ。


 いっそのこと、知識のクラスで法律だとか政治だとかそういった規模の大きい問題に詳しい人に助けを求めようか。そういった問題解決に役立つ知識のギフトを授かった人がいる可能性もある。入学案内の名簿を見れば何人か関係ありそうなギフトを持っている者が見受けられる。


 しかし我が国のためではなくコーラリアの問題に対し動いてくれる人がこの国に果たしているだろうか。


 また、そういう者が見つかった場合新しい人間関係を築くことになるだろう。何て言えば興味を持ってもらえるだろうか。コーラリアの問題を解決することはモンテブルグの平和に繋がるとでも言えば話を聞いてもらえるだろうか。初対面の挨拶をしている場面を想像する。想像するだけでも緊張してしまう。やっぱり無理。

 

 まあ戦争していた理由がわかってきただけでも良しとするか。他にも気になる書籍はあったし、また図書館に行ってみよう。

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