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11.武術の授業

 学校生活2日目の早朝。いつもの時間に目覚め、散歩に出る。昨日はしなかったが初日にして高価なものを手にしてしまったのでしっかり部屋に鍵をかける。


 朝の散歩は頭の中を整理する大事な日課だが、どうしてももやもやしてしまう。気分が重い。限られた範囲内しか歩けない閉塞感のある散歩コースのこともそうだが、隣国からの留学生、シルヴィアとアイリのことが気になっている。


 読心術なんて選ぶんじゃなかった、と後悔することがたまにある。前回は女神の祝福の日に色々あり、今回は知らなくて良いことを知ってしまった後悔。

 いっそのこと聞かなかったことにして忘れる、ということもできる。国家間の問題なんて俺一人ではあまりにも持て余す問題だ。平和を脅かす行為は見逃せないが、ごくたまにアイリが情報を得ていないかだけもらった宝石に触れて確かめれば良い。


 コーラリアのことをもっと知った方が良いだろうか。そもそもこの世界の事はまだ知らないことだらけだ。あちらの国のことを知ることによって何か解決の糸口が得られるかもしれない。本人らに直接聞くのも良いだろうけど、この学校には近くに図書館がある。入寮するまではフラウに連れられ一週間に一度しか利用できなかったが、これからはいつでも行ける。


 授業以外の自由時間は本来英気を養ったり周囲の学生と親睦を深めたりする時間なのだろうけど、コーラリアのことに関する本を借りてきて読み漁ってみよう。時間はたっぷりある。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ーカーン・・・カーン・・・カーンー


 始業開始の鐘の音が鳴り、武術訓練最初の授業が始まる。訓練場には武術のクラス全員が既に揃っていた。


 「俺の授業は挨拶はナシだ。点呼も出欠もとらん。休みたい奴は勝手に休め」

 教官が良く通る声で言いながら広場の中央までずかずかと歩いてくる。


 ガイダンスで紹介があった教官の名前はリベル・エッジ。眉間から顔の左頬にかけて切り傷があり、左目に眼帯をしている。顔面もそうだが体中に古傷が幾層にも重なっている。ギフトは体術を授かりスキルレベルは7。ガイダンスで紹介されたときは付けていなかったが、今日は腕に見慣れた腕章を付けていた。〈ウォーデン〉の腕章だ。ライガと同じく先の大戦を生き抜いた武人だということがわかる。


 俺がもらった〈ウォーデン〉の腕章はというと、学校では身に着けていない。正式に入隊したわけではないし、なくしたら大変なので実家の自分の部屋に置いてきている。


 「君がヒューガだな。親父は元気か?」

 リベル教官は武術の訓練の授業を開始せずに、こちらを見て微笑みながら声を掛けてくる。


 「元気です。隻腕にも関わらず稽古をつけてくれています」

 「ほう、よろしい」

 こちらの返答に対しリベル教官は満足げな表情を浮かべる。

 

 「よく聞けボンクラども!のうのうとここで食っちゃ寝して生活するだけでは何も身につかんぞ。せっかくお前らの親が金を出して入学できたのにそれこそ金の無駄だ!」

 いきなり学生を焚きつけることを言う。シルバのように1年生の武術のクラスには血のにじむような努力を経て、国立機関からの推薦を受け入学した者もいるが一緒くたにしている。


 「それも・・・ギフトを授かったのにも関わらず、だ」

 何故わざわざそんなことを言うんだ。数名のクラスメイトから送られる視線が痛い。今年に限ってギフトを授かった圧倒的多数派とギフトがないことになっている一名という特殊な状況なのだ。勘弁して欲しい・・・。


 「そこでだ!初回の授業はスキルレベルがあがるとどうなるかを身を持って体験してもらう。ヒューガ君。そこの木剣を持ってこの白線に立ちなさい」

 聞き間違いでなければ校長に使用を禁じられている剣を持ってこいと言われた。思わず聞き返してしまう。


 「えっと、剣ですか?大丈夫なんですか?」

 「ああ」

 リベル教官が近づいてきて、俺に耳打ちをする。


 「今日だけ特別だ。校長からの提案で何人かを本気で相手してほしい」

 手が顔に触れていたので、心を覗かせてもらう。エドワード校長と話し合い、怪我を負わせない程度にクラスの者に力を示せば俺の事を下に見る者もいなくなると踏んでいるらしかった。


 「・・・わかりました」

 そういうことならありがたく、存分に剣を振らせてもらおう。いくつか立てかけてある木剣の中から両手で持つ刃渡りが長めの物を手に取る。剣術スキルのおかげで見た目の重厚感よりも軽く感じる。指示された白線の上に立つ。


 「今日の授業内容はいきなりだが、お前らには得意な武器で模擬戦をやってもらう。我こそはという者は対面に立ち武器を構えろ。誰かいないか?」

 「僕にやらせてくださいよ」

 最初に名をあげたのは適性試験で絡んできたあのデクランだ。また言われてもないのに既に木槍を持っていた。自信たっぷりの表情で対面の白線に立ち木槍を構える。


 「剣が使えるのか?それでも僕の槍術には敵わないだろ」

 デクランが模擬戦を始める前に話しかけてくる。相変わらずの減らず口だが、今更言い返すことはしない。イライラとか、いろんなものを通り越して呆れてしまった。お前が怪我するかどうかはこちらが手加減出来るかどうかにかかっているんだが。

 

 「剣に対し槍か。・・・では、はじめ!」

 リベル教官の合図と共に武器を合わせる。すると考えていることが伝わってきた。武術スキルを身に着けていると〈武器が身体の一部になったかのように手になじむ〉ので、読心術の発動条件を満たす。やっぱりこのギフトの能力はやばすぎる。

 しかしながら適性試験のときにも見て感じたがデクランが構える姿勢には違和感があった。なんというか、腰が引けており打たれることを恐れている様子が見て取れる。


 「とらえた!」

 ギフトを授かっているだけあってこちらに対し正確に素早く木槍の先端を突き出してくる。その全ての突きに対し木剣を合わせる。訓練場にカンカンカン!と木製の武具が合わさる良い音が鳴り響く。周囲から歓声が上がる。

 「な、何!?」

 デクランは得意気な表情から一変し驚愕している。積極的に攻めてくるが持っている武器をこちらに馬鹿正直に真っすぐ突き出すことしか考えていない。それからも数回競り合ったが展開は変わらず、体力の限界なのか少し後ろに下がり息を整えている。


 今度はこちらから構えて近づく。こちらを近づけさせないように木槍を突き出してくるが、木剣に魔力を乗せ側面をはたくように薙ぎ払う。剣術レベル7の武技〈パリィ〉だ。剣対剣でしか試したことはないが感触は良かった。するとデクランは武器を手放してしまう。さらに手から離さないようにしたのかつられて前傾姿勢で顔から地面に突っ伏した。


 「ぶッ!」「それまで!」

 リベル教官が割って入ってきた。最低限の力しか込めなかったつもりだ。デクランは突っ伏したまま動かない。大丈夫だろうか。・・・首が変な方向に曲がってないか?


 「聞け!いま槍を手から勝手に離したように見えただろうが、これが剣術の武技だ」

 周囲がざわつく。武技って言っちゃったよ。詳しいやつがいたらスキルレベルが6以上だということがばれてしまう。しかし、もうノーギフトのことでとやかく言われるのも嫌だ。腹をくくるしかない。

 リベル教官はデクランを片手でひょいと持ち上げ、広場の隅の芝生に寝かせる。俺は律儀に放置された木槍を片付ける。未だにデクランはぴくりとも動かず、気絶している様子だ。・・・保健室に連れていったりしなくて大丈夫だろうか。


 「他に体験したいものは名乗り出よ。心配せずとも怪我を負いそうになったら俺が割って入る」

 

 それからクラスの半数近くの人数を相手にしただろうか。武技を使える者を見られるのは珍しいらしく、体験型のアトラクションに並ぶ好奇心旺盛な子供のように次々に名乗りを上げた。剣、腕甲、槍と様々な武器を身に着けて向かってきた。こちらが武技を使うたびにリベル教官が止めてくれたが、加減がわからず吹き飛ばしてしまい数名を失神させてしまった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ーゴーン・・・ゴーン・・・ゴーンー


 「それまで!」

 剣を持った20人目のクラスメイトが膝から崩れ落ちる。リベル教官が止めに入ったちょうど良いタイミングで授業終了の鐘が鳴る。


 クラスの半数を相手にしたがこちらは体力も魔力もまだまだ余力がある。今までのライガに稽古を付けてもらった成果を実感した。


 「みなが体験し、目の当たりにしたようにスキルレベルが十分でないと相対せば圧倒的な差が出る。敢えて大げさに言うが、国と国との戦争になればレベルが1や2なんかではあっという間にやられるぞ!」

 先の大戦を経験しているからこそ言える言葉だ。

 戦争が無い平和な世の中になったとはいえ武術スキルは自衛にもなる。モンテブルグ軍も人員不足だし卒業後に入団を目指すのならスキルレベルをあげることは大いに意味があるといえる。リベル教官は初回の授業でそれをクラスのみんなに伝えたかったのだ。


 「明日からは各自のギフトとレベルに合わせた体力作りと訓練を行う。今日のような模擬戦をすることは当面は無いから安心しろ。各自武具は片付けておけ。今日は解散!」

 俺以外のクラスの半数が満身創痍、そうでないものは〈これから頑張ろう〉と希望に満ちた表情をしながら、初回の武術のクラスの授業が終了した。

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