第三章 八話 ~独房からの解放 下 ~
「[グキッ]ぐえっ!」
「おっし、鍵回収っと」
独房の看守の首に一撃を加えて気絶させ鍵を奪った後エリーナに渡し手際よく手近な独房を開け放り込む。
「だんだん手際良くなってきましたね」
「そりゃもう何回も同じ事繰り返してるからなっ!」
そう言いながら俺はここに来る途中で合った気絶した巡回兵を先ほどの独房に放り込む。
「で、全部の扉は開けたか?」
「はい!出ないようにも言っておきましたから次に行きましょう!」
お前も十分慣れてきてるだろと思いながら巡回兵共を放り込んだ部屋の鍵を閉める。
「オーケーそれじゃあ行こ[ギロッ]!?」
一瞬何かに見られているような気がして辺りを見回す。
……何も居ないか。
さっきからちょくちょくこの様にエリーナ以外の視線を感じる。一体何なんだ?
「……どうしたんですか?」
俺の事を心配そうに見てくるエリーナ。
「あ…いや何でもない。さっさと次へ行こう」
さっきの視線にいささかの不安を覚えながらもエリーナと共に次の場所へと向かった。
「[ゴキッ]ぐお!?」
先程と全く同じ様な手際で気絶させる。
……思ったんだがマジでここの警備酷くないか?
今まで鍵持ってる看守が寝て無かった事無かったぞ?ある意味奇跡だろ。
ここの警備のガサツさに呆れながら腰に付けた鍵に手を伸ばす。
[ギロッ]
しかしその瞬間例の視線を背中に感じた。
「そこだぁっ!」
視線を感じた天井に魔弾を飛ばした。
「[ドゴン!]ギケァァァ!!!」
やはり何か居たらしく奇声を発しながら俺を見ていた何かが爆風に吹き飛ばされ天井から地面に落ちてきた。
「何だこれ……ってキモッ!」
俺はその落ちてきた物を確認した瞬間あまりの姿に数歩後ずさってしまった。
ソフトボールを一回り大きくして黒い毛むくじゃらにした様な体。
そこから生える三本の腕。
ギロギロと周りを見回す巨大な目に体の半分程まで裂けた口には鋭利な歯がずらりと並んでいる。
何これむっちゃキモい。
「ゴキャキャキャキャ[ガサガサガサ]」
「のあっ!?」
想像を超えるグロさに俺の頭がフリーズしている間にその黒い腕付き球体は信じられない程の素早さで看守が持っていた鍵束を奪うと不快な声を発しながら逃げ出した。
地面を移動する音、その動き、早さ……それは俺の世界の地上最速の虫、台所のウサイン•ボルト…Gとあらゆる面で一致していた。
「………ってアホな事考えてる場合か!」
俺は俺が壁を爆破したときからフリーズ状態に入っていたレナをその場に残しGモドキの追跡を開始した。
上へ下へと縦横無尽ににげまわるGモドキ。負けじと追いかける俺。
「待てコラGモドキ!大人しく潰されろぉ!」
俺は能力を使い片手にハエ叩きを作り出し追撃する。
我ながら神能力をバカにした使い方である。
「おい!お前何してけぶらぁ!?」
「貴様止まれ!止まって!お願い止まって下さべん!」
「巡回めんどごべっ!」
「俺、今日の巡回が終わったら結こんばぁん!」
鉢合わせした何名かの運の悪い巡回兵を容赦ないハエ叩きスイングでなぎ倒していく。
その後もGモドキとの追いかけっこは続いた。
「いたぞ!今この施設を荒らしてる奴だ!」
「行け!進入者を排除しろ」
「監視塔の前に誘導するんだ!」
「全員でかかれ!」
「捕まえろ!」
「てめえら邪魔だボケぇぇぇぇ!」
「これで終わりだぁぁぁぁぁ!」
「[バッシーン!]ピギュエッ!」
死闘の末俺が新たに編み出したハエ叩き必殺技[ソニック•スイング]を受けGモドキはぺしゃんこになった。
俺は無言で動かなくなったGモドキの腕に握られた鍵束を取った。
どれ程の時が経ったのだろう。俺はいつの間にか監視塔がそびえ立つ中庭にハエ叩き片手に立っていた。
周りにはざっと見回しても五~六十人は居る地面に倒れた兵士達。
途中追いかけている途中で大量の兵士が現れ大量の矢や剣を避けながらGモドキを追いかけたのは覚えているが倒した覚えは無い。
……多分俺が振り回したハエ叩きの餌食になったのだろう。可哀想に。
「いやいや無能とは言えこの数を全滅させるとは……やってくれますねぇ~」
「!」
俺が声のした方向を向くと一人のベレー帽を被った軍隊風の男が倒れた兵士の間をぬって歩いて来た。
「誰だ?」
今までの兵とは違う……そう感じた俺は武器(ハエ叩き)を構える。
「おっと申し遅れました……私はこの施設の最高責任者……」
俺の数メートル先で止まって被っているベレー帽を正して俺の方を見た。
……畜生、イケメンだ。
「シロウト……シロウト•ブッチー大佐です。以後お見知り置きを」
そう言うとこちらに向かって不適な笑みを浮かべた。
だんだん自分自身何がしたいのか分からなくなってきた。
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