第二章 閑話 ~体調不良は魔物よりも恐ろしい~
これって閑話って言うのかな?まあいいか………。
「魔物だ~!魔物が甲板に~!!!」
「だぁ~畜生!何だってこんな時に……おえぇぇぇ」
船での航海三日目、護衛として乗っている俺に最大のピンチが訪れていた。
「グギョアァァァァァァァァ!」
「うわぁぁぁ!コイツでかいぞ!?」
「おい兄ちゃん早くコイツをやっちまってくれ~!」
甲板で水夫達が三メートル位のワニみたいな魔物と戦っているがそんな事じゃない。だって……
「………あぁ、ハイ……了解しました」
俺は右手をそのワニもどきの方に突き出してバスケットボール位の大きさの火球を作って奴の顔に向けて発射する。
「グガァァァ[ボゴォン!]……」
その火球が直撃したワニもどきは一瞬で顔が炭になり物言わぬ肉塊になった。
これは俺が新しく覚えた技。名付けて“プチフレア”である。
あの白い空間で俺の力の源である魔王にフレアを改良し威力を調節出来るようにして生まれた新技だ。
やはり小さくなることで威力は落ちるが小さくすればするほど発射スピードが早くなる上にソフトボールサイズなら連射も可能なのだ。
………まあここまで分かったのはさっきのように甲板に上がってきた哀れな実験動物(魔物)達のお陰だ。感謝感謝。
「お~お~こんがり焼いちゃって~、これならエグドラシアに着くまでは兄ちゃんが倒した魔物だけで食ってけそうだな!」
あっはっは!と笑いながら俺の肩をバシバシと叩……かないでぇぇぇぇぇ!
「うぷっ!おえぇぇぇ!!!」
「あ…済まねえ兄ちゃん!酔ってたんだっけなぁ……」
「うっぷ……そうですよぉ……」
……話を戻そう。只今俺は猛烈に船酔いをしているのだ。
どれくらい酷いかって言うとそれはもう食ったら吐く飲んだら吐く歩いたら吐く何も胃袋に入っていないのに吐くと言った感じだ。
レナは一番最初に吐いた後「全員に…翔に吐いてるとこ見られた…」と言って鬱状態に入ってしまい今は船室の一つを借りてそこに今もその状態が続いている。
それで仕方がないので俺はバケツ片手に座り込みながら甲板の上で吐き気と船に襲いかかる魔物相手に戦っているのである。
比率から言うと九(吐き気)対一(魔物)で戦っている。
「おい兄ちゃん……何か食べた方がいいんじゃ…」
「食ったってすぐ吐いちゃいますよ……」
「そうだけどよ……もう三日も何も食ってないし寝てもいねぇじゃねぇか……」
「……ですね~」
まあこの襲い来る吐き気の波状攻撃の中で眠れる奴が居たら俺はそいつを神と崇めたい。
「ほ~れしっかりしろや!もう目的地は見えてんだから」
「………は?」
「ほれ、前見て見ろよ」
「前って…………うわぁ」
俺は目の前の光景を見て言葉を失った。
目の前には視界全てを覆うほど巨大な山がそびえ立っていた。
この三日間ずっと下しか見ていなかったから気が付かなかったらしい。
「驚いたかぃ?最初見た時は俺も驚いたよ……ようこそエグドラシアへ…ってか?あと半日程で着くから準備しとけよ~」
そう言ってヒラヒラと手を振りながら水夫さんは持ち場へと戻っていった。
「エグドラシア…かどっかで聞いた事あるような……ゲームとかで」
俺はそれからエグドラシアに着くまでずっと考え続けていたのだった。