第一章 二十一話 ~ディアトリア攻略戦 上 ~
オイオイ何だこの紙は!?今回もあらすじやれというのか!?
何考えているんだ全く!早く一章終わらせて降板キャラでも出せばいいじゃあないか!
このままだと私はこのままナレーター役確定じゃないか!ハデスだぞ!俺ハデスですよ!?冥界の神なんだよ私!?
……まあとにかく読むしかないか。
~あらすじ~
ザムルからこの戦争の真意を知り(このままじゃ戦ったのに金が手に入らないんじゃないか的な)衝撃を受けたジェミィにより翔一行は将軍達に加勢するため戦場に向かうのであった………
そういえば翔君に言い忘れたことがあったような気がするんだけど………
ま、いっか!
「迂闊だったか………」
閉ざされたディアトリア王国の門の前で一人の壮年の男性が苦虫を噛み潰したような。
彼は反乱軍討伐の総指令官でもあり戦争反対派の中心人物ディル・マクトレイ・ノーランドである。
本当に迂闊だった。彼は今自分が置かれている状況を見て歯ぎしりする。
閉ざされた強固な城門、その上から降り注ぐ矢と魔法の雨、
今思えばすぐに解りそうな事だったではないか。
討伐軍に組み込まれた将達は皆ティアリアに好意的では無い将軍、貴族だった。
あの時王に進言すれば良かった……しかしもうそれは叶わない。
「ナロッジめ……」
彼は恨めしそうに城壁の内側で笑っているだろう王の側近の名を呟く。
数年前に王宮に入ってきた彼は国の要人達に言葉巧みに取り入り地位を確立した。
今や王が行う政を完全に掌握し後ろ盾の貴族も多い。
代々王家に使えてきた一族であるディルはどことなく怪しげな雰囲気を出しているナロッジを好いてはいなかった、ぽっと出の者が瞬く間に要職に就いた事への嫉妬があった事は否めないが。
反乱軍の鎮圧に向かわされた時は正直嫌がらせ程度かと思ったが向かってみると面影を無くした恐ろしい程の数の農民達、正直目を疑った。
何とか体勢を立て直す為帰還すると本国の兵達には何故か反乱軍側に寝返った裏切者という事になっている……ナロッジに謀られたと気付くのに然程時間はかからなかった。
「くそっ………このままではもう持たんか……皆の者!退きゃ「将軍!後ろから兵が突っ込んできます!」何っ!?」
慌てた様子で報告に来た兵士の発言を聞き冷や汗を流すディル将軍。
このまま城門の前で手をこまねいていては兵が全滅しかねない。退却してどうにかなるという訳では無いがそれしか今は無いだろうと考えた矢先に起こった事だった。
前には強固な門、後ろには強力な農兵の軍団……まさに絶望的な状況であった。
(退路を断たれたか……やはりショウとか言う少年に任せるべきでは無かったか)
ディルは完璧に翔達が敗北したと思っていた。
無理もないだろう、戦功をあげただけという理由で指揮を任せた少年だ。
元より持ちこたえられれば吉と考えていた程度だ、勝つと考える方が無理と言うものだ。
(これも天命か………)
彼の目を見たときに宿っていたものは確実に生き残って見せるという強い意志だった。
歴戦の戦士はその眼を見た時周りで怯えたり怖気づいている将校共よりはやってくれるだろうというカンがあったのだ。
久しぶりに生きる希望を持っている生き生きとした青年を見たので少し舞い上がってしまっていたのかもしれない。
今は彼に任せてしまったという決断を悔やむ他無い。
(全く、ナロッジも考えたものだ)
後ろから迫り来る軍勢は約三千五百ほど、こちらは四千前後、上手くすれば逃げられるかもしれない。
そう思った彼は全兵にこちらに向かってくる兵の迎撃命令を出そうとした。
「よいか皆の者!後ろから向かってくる軍勢を全…力……で………」
言い終わる前にディルは言葉を失った。今まさにこちらに向かってきているのが見える軍の先頭を走っているのは傭兵団の指揮を任せた少年……風見翔だった。
そしてその周りにはかなり離れた所からでも分かるような桁外れの魔力を放つ球体が浮いていた。
(………終わったな)
直感でディルはそう確信する、裏切りだ。
あの少年はその魔力弾を我々に向かって放つのだろうと思った。
良くも悪くも傭兵とは金で雇われる兵だ、大方相手方に金でも積まれたのだろう。
あれは魔力を持つものなら誰でも出来る軽い衝撃魔法……しかし遠くからでも感じるこの膨大な魔力、目の前で炸裂すれば数十人を巻き込める衝撃波を放つだろう。
隊列を組んだところでそれが紙のように吹っ飛ばされるのは目に見えている。
「くっ……全員この場から離脱するぞ、隊列を崩し小分けにして進め!敵を分散させて切り抜けるのだ!」
大火力相手に密集させるのはまずいと感じた彼は兵を分散させ撤退するつもりでいた。
そして迫り来る少年を見据え腹を括った。しかし彼の予想に反し少年は魔法弾を上空に放った。
「!? 何だとっ[ドゴォォォン!!]」
ディルは素っ頓狂な声を上げる。
なにせ自分たちに飛んでくると思われた魔法弾が自分たちの頭上を通り過ぎ城壁の方へと飛んで行ったのだ。
呆けた顔で城壁の方へと飛んで行った魔法弾を見送った彼らは城壁の上で爆発し上から攻撃していた兵達が情けない声をあげて宙を舞う姿をあっけにとられて見ていた。
次々と飛来する魔法弾に城壁に居た魔道師達も慌てて魔法壁を張るが通常の数倍、いや数十倍に匹敵するであろう魔法弾の炸裂には耐えられず次々と障壁ごと吹き飛ばされていく。
僅か十数秒で城壁の上の敵はほぼ一掃されていた。
「しょうぐぅぅぅん!門をこじ開けるので退いてくださぁぁぁい!」
先頭に立つ少年がそう大声で叫ぶ。あまりの出来事に呆けていたはっとした彼らは慌てて彼の言った通りに門への道を開けた、その刹那
[ギュイッ……バゴォォォォォン!]
「なっ……」
彼から赤い閃光がほとばしったかと思うとその光は一瞬で城壁へとぶつかり轟音と共に鋼鉄で出来た扉があり得ない形にひしゃげる。
それに続くように巨大な槌を持った農兵達が突っ込みあっという間に門を叩き壊した。
「「「…………」」」
ディルを含む兵達全員はその鮮やかとも言える手順を見て茫然と立ちすくんでいた。
そして通常ではあり得ない事の連続で茫然と馬に跨っている彼の前に狼に乗った青年が走り寄ってきた。
「それでは将軍、先遣隊としてお先に失礼します!」
ビシッ、と額に垂直に手を添えるこの国には無い形の敬礼を青年はすると大勢の傭兵と農兵達と共に城下へ入っていった。
「…………ハッ! 貴様等!!何をボーッとしている!城下に入るぞ!」
「え………は!ハッ!」
茫然とそれを見送った後いち早く正気に戻ったディルの怒号で全員我へと帰ると彼らは慌てて彼らと同じように城下へと進軍していった。
「若いのにようやるわ……」
そう呟いた彼の口元には笑みが浮かんでいた。
~翔サイド~
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
見て下さい皆さん、これみんな俺が作り出した魔法弾ですよ!
説明しよう!俺は何と想像するだけで大抵の魔法は出来てしまうことが判明したのだ!
……嘘です、これ普通に魔力持ってる人なら使える……っていうか無学無詠唱でもできる初級中の初級魔法ですすいません。
あの戦いが終わった後、ジェミィさんが異常に傷の治りが早い俺の体に興味を持ったらしく「翔の体、調べさせてくれないか?」と言われ調べられた結果、意外な事実が解った。
俺の体は超高速で魔力を生み出してるらしく、更に俺(魔王状態)の能力で想像物を具現化出来るらしい……だからフレアなんてゲームチックな技が出せたって訳だ。
因みに魔力の高速供給は俺の元からの能力だったらしい……何故分かんなかったかって?そりゃあんた、私現代の日本人よ?
こんな才能がありながら科学大国日本に生まれるって神様、俺……生まれてくる世界違ったんじゃね?
因みに魔法能力の測定魔法は結構高等な技術だそうで……ジェミィさん、あんたホントに何者ですかい?
まあそれはさて置き……こいつの威力実験第一回目のお披露目式だ。普通は相手を突き倒すくらいの衝撃しか無いのだそうだが俺が作ったら皆から『こいつは爆弾だ……』と半ば呆れられたような顔をされた。
まあ威力が高いんならいいじゃないか……という事で今は作れる数だけ作って俺の周りに浮遊させている。ストックできるって便利だな。
だんだんと将軍達の軍がはっきりと見えてくる。先ずは上から矢やら魔法を打ち込んでる奴等の掃討が先だな……
ってあれ?後ろの部隊が細かく分かれてこっちに槍向けてんですけど……?
ああそうか、農兵達のせいで裏切ったとか考えられてんだな、さっさと誤解を解くためにも壁の上から攻撃してる奴等を吹っ飛ばすか。
「発射ぁ!」
俺の指示と同時に魔法弾は大きく放物線を描きながら城壁の上に落ち爆発音と共に弾け城壁にいる敵を空高く打ち上げた。
その後も次々と城壁の上に魔法弾を撃ち丁寧に城壁の上に居る敵を一掃した。
良し、これで一応は将軍さん達の安全はオッケーだ。
次はあのでっかい門を吹き飛ばすんだが……生憎爆薬は欠片も残っていないので今回も人力、というか俺が吹っ飛ばす。
「しょうぐぅぅぅん!門をこじ開けるので退いてくださぁぁぁぁい!」
俺はあらん限りの大声で前に居る将軍の軍隊に大声で叫ぶ。
ぼーっと突っ立っていた兵は俺の声を聞くと慌てて退き門への道を作った。
人が割れるその光景はさながらモーゼの……って言っている場合じゃ無かった、さっさとやりますか!
「いっけぇぇぇ!スカーレットスパァァァァァク!」
俺が両手を突出しそう叫ぶと眩い……とは言えない禍々しい赤い光を纏った光線が放たれ轟音と共に巨大な門にぶつかった。
……名前に関してのコメントはNGだ。冗談半分で皆にこの技はこれでいいだろうと言ったら満場一致でOKが出されたのだ……そうなったら今更ひっこめられないだろ?俺の意見。
光が収束すると原型をどうにかとどめた門……丈夫だな、しかし次の手は既に打ってある。
「ウォォォォォ!」
「アァァァァァ!」
巨大な槌を持った農兵達が門に突っ込んで行く。彼らの怪力なら既にボロボロの状態の門を壊すなど容易な事だろう。
その俺の予想通り彼らが門に張り付いた数十秒後にはゆっくりと奥に倒れて行くひしゃげた門の姿があった。
[ズゥゥゥゥン……]
巨大な門が倒れ砂埃が上がる。
俺達は門に続くモーゼの道を通る。そしてその途中呆けた顔をして俺を見ている将軍の姿が目に入った。
その顔が以外にも面白かったのとどうやら放心状態だったのが面白く思えてしまい遊び半分で彼の目の前に泊まるとビシッ、と敬礼し
「将軍、先遣隊としてお先に失礼します!」
ちょっとの嫌味を込めてそう言うと俺は城下内へと入って行った。
上官の命令なく勝手に動くのはマズイが……暫くすればあっという間に追い着いて来るだろう、初対面の時の印象で何となくそう確信していた。
「貴様等!何をボーっとしている!城下に入るぞ!」
入ってすぐに将軍と思われる怒声が聞こえた……やっぱりな。
俺は無意識に口元に笑みを浮かべていた。