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第一章 十九話 ~戦闘の終結~

「フンッ!」

「[ガキンッ!]うぉっとぉ!?」


俺が突っ込んだ先に居たのは先程の鎧姿の野郎だった。いつの間にやら両手には剣が握られていた。

……こいつどこに持ってたんだ?さっき見た限りでは剣なんて……というか武器を携帯しているようには見えなかったんだが……っていうか一撃重っ!?

予想以上の衝撃によろけそうになるが何とか堪える。ってか片手剣の一撃でよろける程の衝撃って……

こちらは両手で受けている筈なのに片手で放っている奴の一撃が半端じゃない事からあいつがどれほどの力を持っているか良く分かる、確実にアンダル以上の怪力だ。


「はっ!せいっ!ふっ!」

「[ギンッ!ギンッ!ガンっ!]くっ、うおっ!」


更に相手は双剣、更に正確にこちらの急所に向かって攻撃してくるのだ。こっちが反撃している隙なんてあったもんじゃあない。

今だって避けるのすら危ういくらいだ……こいつ、半端じゃ無いくらい強い。


「ふん、多少の剣の心得はある様だが避けるので精一杯か……貴様本当に戦士か?」

「数日前までは取り得の無い一般市民だったよ!」

「ふふっ、そうか……しかし私の連撃を受けてなお体制を崩さずに立っている事は賞賛に値するぞ」


俺から数歩ほど距離を取り余裕綽々と言った様子で俺に話しかけてくる鎧姿。

多分俺はこいつに遊ばれてるな……しかし刃を交えて分かったがこいつは身体能力面、剣術共にこっちよりも確実に上だ。

……それならこっちは魔法で攻めてその差を埋めなければ勝てる見込みは無い、やるなら油断している今がチャンスだろう。


「はぁっ!」

「っ!魔法かっ!」


俺は黒炎を出して鎧姿に向かって放った。

一瞬驚いたような身振りをした鎧姿であったが全身を鎧で固めているとは思えないような素早い動きで攻撃を避けると一気に距離を詰めて俺の喉元に剣を突き出してきた。


「食らうかぁ![ガキィン!]これでも食らえ!」

「何!?[ギキキキキキ……キィン!]くっ!」


俺はその刃を刀で受けるとそのまま斬空波を放った。一瞬それに驚いたような声をあげるが両手の剣でそれを受けてかなりの距離を後退したが斬空波を弾き消した。

……マジかよ。あれ一撃で数体の敵兵が普通に真っ二つになって吹っ飛ぶ程の威力だっていうのに防いで弾きやがった……周りの奴等と格が違いすぎる。


「……どうやら貴様は魔法剣士のようだな」


弾いた後ゆっくりと体制を整えた鎧姿はこちらを向いた。

その姿からは先程話しかけてきた時のどこかしら漂っていた余裕の雰囲気は消え去っていた。

……ヤバいな、本気にさせてしまったか。


「名を名乗れ……」

「へ?」

「貴様の名を知りたくなった。私の名はザムル……種族はオーガだ」

「……俺は風見翔、人間と魔族のハーフってとこかな?」

「そうか……覚えておこう」


そう言うと剣を構えるザムルと名乗った鎧姿。

騎士道って奴なのかね?俺もザムルの方向を見据えて剣を構える。


「行くぞ!」

「うおぉぉぉ!」


俺とザムルはほぼ同じタイミングで地面を蹴り相手に向かって突っ込む。

力任せにやっては駄目だ……と言うよりも一撃受けたらそのまま体勢を崩し連撃を受けてバラバラにされかねない。

上手く避けながら黒炎と斬空波で隙を作って倒すしかないな……


「はっ!」

「はあっ、せいやっ!」


俺は首目がけて左右から来る刃を頭を低くして避けた後側転し相手の横に回った。

そしてがら空きの横っ腹に至近距離で黒炎を食らわせた。


「[ゴォッ!]くっ!」

「隙ありっ!」

「ちっ![ガキィン!]」


炎に包まれ隙が出来たザムルの脇腹目がけて突きを入れたが後もう少しのところで相手の剣に阻まれた。


「甘い!」

「[ズドス!]ふぐっ!?」


剣を弾かれ体制を崩した俺の腹に強烈な蹴りが入り俺は数メートル吹っ飛ぶ。

うぐっ、すげぇ痛い……な、内臓破裂して無いだろうな?胸に蹴りを入れられてたら間違い無く肋骨がバッキバキに折れていたに違いない。


「ぐっ……」


ズキズキと痛む腹を抑えて立ち上がるとすぐ目の前にはザムルが迫ってきていた。


「もう下手には動けないだろう?今楽にしてやる」


俺の目の前まで来るとザムルはそう言って剣を構える。

……ヤバい、かなりヤバい。痛みが抜けきっていない今では避ける事も攻撃を受ける事も難しい。

一体どうすれば……


「さらばだ風見翔[パキィン!]……ぐっ!?」


そう言って俺に剣を突き立てようと剣を振り上げたザムルの腕が謎の音と共にピタリと動きを止めた。

ザムルは手の異常に驚き俺から離れると手を下して自分の腕を見る。

俺も遠目から見ると彼の腕には関節から手までにかけて何か結晶のようなものがこびり付いていた。


「何だこれは……氷か?」

「その通りだ」

「!?」


そう言って俺とザムルの間に現れた人物はジェミィだった。後ろ姿しか見えないからその表情は全く分からないが多分したり顔でもしているのだろう。


「魔法で作り出した水を対象に当てて凍らせ尚且つ圧縮魔法で強度の底上げ……かなり高等な技術だ。貴様一体……」

「触った程度で技の仕組みを見抜いた貴方も相当なものだ……翔、大丈夫か?」

「あ、ああ……もう戦える」


痛みも大分引いた俺はジェミィの隣に立って剣を構える。

それを見たジェミィは呆れ顔になっていた。


「全くあんたは一人で何もかもしようとし過ぎ、少しは周りを頼ったらどうなんだ?」

「あはは……仰る通りです」

「困ったら手を差し出してくれるさ、少なくとも個々の傭兵共はな」


これで二対一だ、こちらにも勝機が見えてきたかもしれない。

しかし本当にこれまでの事を思い返してみると……うん、俺は少し自分の力を過信しすぎてたのかもしれないな。

俺とジェミィは武器を構えると凍りついた腕を抑えているザムルの方に向き直った。


「くっ……うおぉぉぉ![バキバキバキッ!]」

「え、嘘っ……あれかなりの強度の筈なのに……」

「あいつはとんでもない怪力だ……無理も無いさ」


ザムルは雄叫びと共に無理矢理関節を曲げて氷を砕いた。そして手を何回か振って自由に動くことを確認するとこちらに向き直る。


「ふぅ……厄介な敵が増えたな、仕方が無い……本気で行くとするか……弐ノ型【剛断】」


[ガァァァン!]


「うわっ!」

「な、なんだ?」


ザムルが両手の剣を捨てたと思いきや突然俺達の頭上から俺の身の丈ほどもあるような赤黒いオーラを放つ巨大な両刃の剣が落ちてきた。

驚いている俺達を余所にザムルはそれを軽々と片手で引き抜くと肩に乗せた。


「さて、どこからでもかかってこい……」






「うぉぉぉ!」

「[ドゴォン!]ぎゃあああ!」

「[ボゴン!]うわっとお!?」


只今私ことティールとアンダルは翔が放った極大魔法の生き残り約二名と交戦中である。

……二人だと侮っていたのが間違いだった。こいつらはかなり強い。


自分達で名前を明かしたが片方は昆虫人で名をケルター、もう一人はイエティで名をバーダムと言うらしい。


私が対峙しているのは二人の仲の巨大な方であるバーダムだ、ちなみにイエティとは北の大陸の吹雪の止まぬ辺境に住んでいると言われている屈強な種族である。

……その巨体からは想像もつかないほど素早い動きで私達の攻撃を避け不意を突かれた仲間が次々とその拳で吹き飛ばされていく。

これは想像以上の強さだ、やはりあの滅茶苦茶な農兵達とは全く違うな……


「うはは、オデから逃げ回っても勝てはしないぞぉぉ?」

「[ドガァッ!]うぎゃぁ!」


そう言いいながら勝てないと踏んで背を向けて逃げる奴を優先的に狙っていくイエティ。

これだけを聞いていれば私達は反撃も出来ずにやられている風にしか聞こえないがちゃんと反撃はしている、してはいるのだが…


「[ザクッ、ドスッ、ガスッ!]うははぁ!残念だなぁ!オデの体にはキズ一つ付かないんだなぁ!」


彼の体には剣も槍もメイスでさえ全く奴の体にダメージが通らない。

しかも下手に近づけば簡単に吹っ飛ばされる……そのせいで今はほぼ警戒体制のまま取り囲んでいるに等しい。


「うはははぁ!オデの鋼のような毛で防御は完璧なんだなぁ!」


そう、奴の体中に生えている毛が恐ろしく硬く丈夫なのだ、奴が腰巻程度しか纏っていない理由がこれである。

こうなったらあまり使いたくは無かったのだが……あれを使うしかないようですね。

私は自分の剣に手をかざし少しばかり詠唱時間がかかる呪文を唱え始めた……






~アンダルサイド~


「ギケキャキャキャキャ!!」

「うぉぁぁぁぁ!!おいコラァ!正面からかかってこいやぁ!」


俺はいまあの二人組のちっこ違法と戦ってるんだが……非常に後悔している。

あの野郎弱いと思いきや背中の羽でかなりのスピードで飛び回れるうえ腕が四本で通り過ぎたと思ったら体に一撃入れられてやがる……それに攻撃を当てようとしてもスレスレの所でヒョイヒョイと避けやがるし……本当に虫を相手してるみてぇでイライラする。


「ギカカ……攻撃も遅いしガタイも無駄にでけぇ、いい的だぜホントによ!」

「くっ……」


俺は武器がデカい戦斧なうえ、体がデカいのでアイツの動きに対応しきれねぇ……相性最悪だこりゃ。

ちらりとティールの方を見るとあちらさんも結構苦戦しているようだ。

まあ斬りかかれるだけこっちよりは戦ってるって感じがしていいだろうけどな、こっちはアイツの言うとおり既にただの的になっちまってるもんなぁ……


「[ズシャッ!]ぐっ……畜生!」

「ギケケッ!………さぁ次はどこをスライスしてやろうかなぁ~」


脇に一撃入れられよろめく俺、既に俺の周りには斬られて動けなくなった結構な数の傭兵共が転がっている。

俺は半ばやけくそになって持っている大野を無茶苦茶に振り回す。


「うおっ!てやっ!このやろっ!あぁっめんどくせぇ!大人しくスパッと斬られろこの野郎!」

「ギキャッ!誰がテメェみたいな緑の肉の塊ににスパッと斬られるかヴァーカ!」


緑の……肉の塊だと?

プチン、と俺の中で何かが切れる音がした。


「てんめぇー!!!」


俺は持っていた斧を投げ捨て虫野郎の方向に突っ込んで行く。

もうこんなもん要らねぇ!素手で殴ってやる!


「ギギェ?ギャハハハ!遂に頭が狂ったか?それじゃあその体を真っぷ「ドルァァァァァァ!」ってギャァァァァ!?」


俺は目の前に奴が来た瞬間にフライングボディプレスをかました。

カマキリ野郎は最初俺が武器を捨て突っ込んで来るという暴挙に馬鹿笑いをしていたようだったが俺の巨体が宙を舞い迫って来るのを見た瞬間その声は恐怖の叫びへと変わった。


「[ブチィッ!]アギィァァァァ!羽!羽が折れたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


俺にのし掛かられた重さで羽が折れたらしい。良し、これでもう素早くは動き回れねぇだろ!

虫野郎は無茶苦茶に暴れて俺の拘束から逃げ出すとぎこちない動きで俺との距離を取った。

その内に俺は自分で投げ捨てた大斧を拾った……思いっきり投げたと思ったんだが案外近くに落ちてたな。


「クソッ………クソッ!!てめぇぇ!!俺を起こらせるとどうなるか教えてやらぁぁぁぁぁ!!!」


そう言うと奴の下の両腕が鮮やかな光が出たと思うと奴の正面に魔法陣が大量に出現した。

……これは略奪品で見た事があるぞ、魔法石か!

しかしこんなに大量に……魔法が発動できるレベルのもんは超高級品だぞオイ!


「ギシャシャシャ!属性魔法攻撃のオンパレードだ!死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」


虫野郎がそう叫ぶと魔法陣の光が増しその中から大量の火球や氷の塊、雷が俺に向かって放たれた。

こ、こいつはちょっと凄すぎるぜ……


「う、うおぉぉぉぉ!!」







~翔サイド~


「オオオオオオオ!」

「[ガァァァン!]あぴゃぁぁぁぁぁぁ!?」


巨大な剣が振り上げられ俺に向かって振り下ろされる。

剣とは思えない衝撃と土煙が上がり俺はドッチロールでその恐ろしい一撃を回避した。

無理!絶対無理!こんなもんガードなんか出来る筈無い!ガードしたら体ごと真っ二つにされちゃう!


「ふん、ちょこまかと!先程までの威勢はどうした!」

「そんなもの一つもな[ブォン!]あぶねぇぇぇ!」


そうですよね、ふざけている暇なんかは無いですね!

というかアイツおかしいだろ!数メートルはある大剣片手で振り回してるぞ!?


その圧倒的なリーチと巨大な剣を振り回しているとは思えない程の華麗な動きで俺達を全く寄せ付けないザムル。

無論斬空波やジェミィの魔法攻撃など当たる筈も無くその大剣が盾の役割も果たす為全く効きやしない。

二対一と言う状況ながらザムルは俺達を全く寄せ付けない程の強さを発揮していた。


ザムルが放った俺の頭と胴体を切り離そうとした一撃を辛うじて避けるが頭の髪の毛が何本かが俺の頭から別れを告げて大空へ旅立ったような気がした……つまりは髪の毛が何本か切れた感じがしたって事だ。


「ふん、ちょこまかと………いいだろう!それならば……弐ノ型、【爆砕】!」


そう言うとザムルが持っている巨大な剣のオーラが変わり刃の部分に集まりだした。

そしてその場でザムルが剣を振り上げて地面に叩きつけると……


[ドゴォォォォン!]


「うぉあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「なっ!?」


刃が触れた部分が爆発を起こし地面が抉れる……本当にガードが、というか触れる事すら不可能になってしまった……

何か!この絶望的な状況の打開策は?あぁもう!何か思いつけ俺!


(チカラヲ求メルカ……)

「おっ!?」


……ったく!なんでいつもいい時に登場するかねこの心の声は!

要るに決まってんだろうがどう考えたって!


(全テオ滅却セシ忘却ノ波動……貴様二授ケヨウ)

「……それってどういう技だか事前に教えてくれ、前回の事もあるし」


もう先程の大量破壊攻撃のような事態には二度と陥りたくは無いしな。

自分の攻撃で死にかけるとか手榴弾を自分の足元に投げるみたいな失敗だったぞあれは……


(……貴様ノ世界デイウ“レーザー”ノヨウナモノダ)

「おお!それは使えるな!」

「……翔?遂に頭が極限状態でおかしくなったか?」

「え?あ……」


すっかり隣にジェミィが居るのを忘れて大声で喋ってしまっていた……恥ずかしい。

割と本気で心配そうな顔で見ているジェミィさんの表情が俺のハートにサックリと突き刺さる……そんな目で見ないでお願いだから……


「立ち話をするとはずいぶん余裕なようだな!」

「[ブォン!]うわっ!」

「くっ!」


俺とジェミィの間に振り下ろされた大剣の一撃を紙一重で避ける。

まあしかし新しい攻撃法がレーザーか……こいつは結構使えるかもな。


(放チタイ方向ヘ向ケ力ヲ放ツノダ……)

「おい鎧野郎!」

「ん?」


いきなり強気発言をする俺に不審なものを感じ取ったのかザムルがこちらを向く。


「これでも食らえぇぇ!」

「!?[ギュドォン!]……うおっ!」

「あっ」


俺は満を持して両手からレーザーを出してみたのだが……うん、普通に避けられました。

結構俺が思ってたのよりもかなり極太で赤黒く禍々しい色をしたレーザーが発射された……俺どんどんバケモノっぽくなってくよなホント……

レーザーは俺達の本陣の方向へと飛んで行ったのだが大丈夫だろうか?……まあ結構距離があるから大丈夫だろう。


しかしこのレーザー、発射速度はかなり早いが直線状にしか発射できないので事前にそのような攻撃が来ると予感をしていたのであろうザムルにはあっさり避けられてしまったという訳だ。

……う~ん、乱射すれば一発ぐらいは当たるか!?


「翔……今のは一体?」

「あ……ああ、何か使えた」

「それはあと何発使えるんだ?」

「いやあと何回でも」

「そうか……ならば策がある、少し耳をかせ……」


そう言ってジェミィは俺に耳打ちをしてきた。

どんな策なのかと思い聞いてみると……


「何を話している……」

「いやそれ無理!俺に死ねとおっしゃいますか」

「どちらにしろこのままではジリ貧で死亡確定だ……やるしかない」

「あ~もう……死んだら恨むぞ!」


ジェミイの策を聞いた俺はザムルに向かって一直線に駆け出した。

そして剣を構えると無茶苦茶に斬空波を繰り出す。


「[ガンッ、ガンッ、ガンッ!]どうした?勝てぬと分かって自分を犠牲にでもするのか?」

「言ってろ!」


幾ら大剣で防いでいるといっても斬空波の衝撃は軽くは無い、つまり彼は今剣を盾にして防ぐ事しか出来ないのだ。

俺は絶え間なく斬空波を繰り出し続けてザムルとの距離を縮めると一気にザムルに斬りかかった。


「[ガキィン!]……ぐっ!?」

「やっぱりな。剣が体に近い防いでる状態じゃ触れても爆発はしない……」

「っ!しかし押し返す事は容易だ!」

「[グググググッ……]うぎぎ……[ブンッ!]うわぁぁっ!」


しかしザムルの怪力の前では数秒と持たず俺は吹き飛ばされて地面を転がった。


「ふん、つまらん下策だ……ん?」


そして俺に向かって一歩踏み出そうとしたザムルの動きがピタリと止まる。

いや正確には止まらざるを得なかった……と言った方が正しいか。

ザムルの足は太腿付近まで氷でびっしりと覆われていたのだ……動ける筈が無い。


「貴様……この為にわざと……」


俺がザムルに斬りかかって動きを止めた数秒の間にジェミィがザムルの足元に先程の氷結魔法をかけたのだ……

これでこいつは僅かな間だが一歩も動くことはできない……こいつを倒すのはその僅かな間で十分だ。


「そういう訳、それじゃ……」


俺は手に力を込めて攻撃態勢に入る。


「これで終わりだ!」

「[ギュオォォォォン!]ぐわぁぁぁぁぁ……」


俺が放った渾身のレーザーを正面からまともに受けザムルは叫び声と共に赤黒い波動に飲み込まれていった……






~ティールサイド~


「うぉ?オデに向かって悠々と歩いて来るとは……つ、遂に負けをみとめるのか?」

「いえ、逆です……こちらの勝ちが決まったから悠々としてるんですよ」


そう言って私は剣を構える。

……本当はこの技はあまり使いたく無かったんですけどね。

周りの人が死ぬ気で頑張っているのに私だけ全力で戦わないのは気分がいい物ではありませんし状況が状況です……背に腹は代えられませんね。


「? 訳が分からないんだな!とにかくオデぶっ潰れるんだなぁ~」

「ふん、甘いですよ![ザシュッ!]


私は繰り出されてきたパンチを避けると腕を斬りつける。

その瞬間バーダムの腕から血が噴き出し彼の手を染め上げた。


「うぁっ!?斬れた!?な、何でなんだなぁ!?」

「せぃっ!」

「[ブシュッ!]うぁぁぁぁ!足!足からも血がぁぁぁ!!!」


腕が斬られた事で動揺し隙だらけになった奴の足元に滑り込み片足を斬りつける。

この反応からして殆ど斬られた事は無いのだろう、完全にパニック状態になったバーダムは血が出ている腕を押さえてあたふたとしている。

そして足を斬られうずくまっているバーダムの首に剣を突きつける。それに続いて周りに居た傭兵達も取り囲んで武器を突きつける。


「うう………何で、何でなんだなぁ……」


完全に戦意を焼失した顔で私を見てくるバーダム……どうやらもう彼には戦う意思は無いようですね。


「教えてあげましょう、私の剣に高圧縮した風を纏わせたんですよ」

「か、風?か……風魔法は纏えるような代物じゃあ無い筈……」

「その通り、普通は風属性は炎、氷、雷等と違い纏うには非常に難しい……わが家に伝わる秘術の一つです」

「う、うぁ………」

「これで終わりですね………で、一応聞いておきますが……降伏しますか?」

「うぅ……こ、降参なんだな、もう痛くしないで欲しいんだな」


両手をあげ降参のポーズをとるバーダム。

そして勝利の余韻に浸ろうとした私は……凄まじい衝撃と共に赤い光に包まれた。







~アンダルサイド~


「アギヒャヒャハ!死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ!!」

「うぉぉぉぉぉぉ!!」


飛び交う大量の魔法の中俺は必死で大斧を振り回し魔法を消滅させていた。

……全く、こいつが魔法を打ち消す効果が無かったら俺は今頃一部が焼けてたり凍りついてたりしている摩訶不思議な死体へと変身していたところだろうな畜生!

しかし弾幕が凄すぎて奴の元へ一歩も近づけねぇ……どんな魔力量してやがるんだ。

それとも魔石に溜め込まれた魔力が大量なのか……そうだったら奴の死体からはぎ取って闇市で売り飛ばして山ほどの金貨に変えてやる!


「アヒャハハハハハハハハハハハ!!」

「糞がっ……」


まあ近づけなきゃあ何にもはじまらないんだけどな……アイツが狙い定めないでがむしゃらに撃っててくれてるお陰で軌道が全く読めねぇ。

傭兵達も全員ノックダウンされちまってて不意討ちなんか出来そうもねぇしな……

盾なんかがありゃあ状況が変わるんだがそう都合良く落ちてるもんでもねぇ……一体どうすりゃあいいんだ畜生!


「ギキキキ……どうだ!手も足も出ない[ドガッ!]ぐあっ!?」


そう思っていた次の瞬間虫野郎の横に黒い影が高速で迫り体当たりをぶちかました。

あの大きな影は……ロボだ!どうやらあの毛むくじゃら野郎にぶん殴られた時は一体どうなったのかと心配したが……無事でよかった。


「ガギギッ!こらクソ犬離せ[ギリギリギリギリ……]ギャァァァァ!?」


ロボの前足でうつぶせに押さえつけられた虫野郎は必死で振りほどこうともがくがロボが前足に力を入れると悲鳴に近い声をあげてビクビクと体を痙攣させていた。

俺はその光景を見ながらゆっくりと虫野郎の近くに歩いて行った。


「おい虫野郎」

「ひっ!?」

「歯ぁ食いしばれ……」


そう言って奴の目の前まで行くと上半身をやっとの思いで起こした虫野郎に本気で顔面アッパーを食らわせた。


「ギブァベッ!!」


丁度いいタイミングでロボが前足をどかしたお陰で虫野郎は弧を描くように宙を舞い頭から地面に落ちて気絶した。

……ふぅ、すっきりした。さて……あちらさんはどうなっているかな?

そう思い俺はティールと毛むくじゃら野郎が戦っていた方向を見ると


「なんだ、あっちも丁度終わった所[ドゴォォォン!]ティィィィィィル!!」


ティールはあの毛むくじゃら野郎の喉元に刃を突きつけていた。

そして勝ち誇ったように剣を仕舞ったティールに赤い閃光が飛来し地面に直撃した衝撃と共にその場にいた全員を吹き飛ばしている光景だった。


「うぉぉぉぉい翔何やってんだ!ティールがお前の撃ったのに飲み込まれたぞ!」


直感的に翔の仕業だと思った俺は思わず大声でそう叫んでティールのもとに駆け出していた……






~翔サイド~


今俺達は本陣跡でディアトリアに農兵軍団鎮圧の一報を知らせに向かう準備をしていた。


「ギキ……何で俺がこのユニコーン背負わなきゃならねぇんだ……」

「仕方ねぇだろ、お前以外まともに動ける奴いねぇんだから!」

「グキキッ……農兵使えよ!もうテメェ等の捕虜なんだからよ!俺だってケガ人なんだぜ!」

「奴らはその他のケガ人運びに回してるから却下だ虫野郎」

「ギギィッ!ひでぇ!」


あの後俺達は司令塔が居なくなったせいで纏まりが全くなくなった敵兵達をあっという間に鎮圧した。

農兵達はザムルを倒した直後に無抵抗になった事を考えるとやはりこいつらは洗脳でもされて体のいい傀儡か何かにされていたのだろう。

因みにザムルはというと俺達が戦っていた約百メートル程先でうつ伏せで気絶している所を発見されそのまま俺達に捕縛された。


そして俺達が意気揚々とアンダル達の下へと向かうとそちらでも戦闘があったらしく多数の負傷者は出ていたものの俺が本陣内で出会ったあの理解不能な二人組が捕虜になっていた。

……そして今に至るわけである。


「しかし良かったな狼騎士さん……あいつを捕虜にしたおかげでケガ人を運ぶ手間が省けたぜ」

「まあそうだな」


そう言って俺と傭兵達は縄で縛られ複数の傭兵に武器を向けられた状態で立っているザムルの方を見た。

一応戦闘には勝利したものの俺達の傭兵軍の状況は酷いものだった。

なにせ兵の戦闘力を見てみるならばこちらが圧倒的に不利だったのだ、俺がザムルを倒し農兵を鎮圧した後に無事に立っている兵は全体の半分以下だったからだ。

大怪我した者や無論死んでしまった者も居る、彼らを運ぶには俺達には少し荷が重かったので農兵共を皆殺しにせず指示を出す事が出来るザムルを捕虜という形で負傷兵を運ばせたのは必然的な事だった。


「……私をどうするつもりだ?」

「あんたにはディアトリアまで付いて来て貰うぜ、その後将軍さん達に突き出す」

「そうか……」


それだけ言うとザムルはうつむいて黙り込んでしまった。

しかし逃げようと思えば逃げられる状況なのにそうしないとは……

まあ今はそんな事を疑問に思っていてもしょうがない。こちらには結構危ない状態の負傷兵が結構居るのだ。


「よし、全員準備を整えろ!もう出発するぞ~」


俺はロボにまたがって兵士たちにそう大声で言うとディアトリアへと向かって出発した。

あひゃ~長い、長すぎる!

ちょこっとずつ読める感じにしたかったんですが、戦闘シーンを詰め合わせたらこんなに長くなりました。


三つぐらいに分けた方が良かったような気が今更ながらします。



誤字、脱字などがあったらご指摘下さい。

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